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翌日、悠樹が目を覚ましてリビングに行くと、漣はすでに仕事に出かけていて、斉藤がノートパソコンに向かっていた。
「おはよう」
斉藤のほうから声をかけられてしまい、悠樹は慌てて頭を下げた。
「お、おはようございます!」
「せっかくの休みなんだから、もっとゆっくり寝てても良かったのに」
にこにこと人好きのする笑みを浮かべる斉藤に、悠樹は首を横に振った。
「いえ……もう9時前だし!って、せっかく来てくださってるのに、寝坊してすみません……」
本当はもっと早くに起きて、漣の見送りもしたかったし、斉藤の話し相手にもなりたかった。
目覚ましをセットするのは漣を早く起こしてしまう可能性があるのでしなかったが、それが仇になったようだった。
漣は悠樹が目を覚まさないように、慎重に寝室を出て行ったらしく、まったく気づくことが出来なかった。
「漣兄さんも、起こしてくれたって良かったのに……」
思わず呟いた悠樹を、気がつけば斉藤がくすくすと笑いながら見つめていた。
「あ……す、すみません……あの、コーヒーでも淹れましょうか!実はそれぐらいしか出来ないんですけど……」
「じゃあ、お願いしようかな」
「はい!」
とりあえず包丁を使わない分には、悠樹がキッチンを使うことに漣は文句を言わなかった。
むしろ、悠樹がコーヒーや紅茶を淹れて持っていったりすると、喜んでくれたりもする。
それが美味しく淹れれているのかどうかは、ちょっと微妙なところだったが。
「はい、どうぞ。お待たせしました」
いちおう手順どおりに淹れたコーヒーを、斉藤の前に差し出す。
「ありがとう、いただきます」
斉藤は丁寧に礼を言って、コーヒーを飲んだ。
特に不味そうな顔もしていなかったので、悠樹はちょっとホッとした。
「悠樹は大学生なんだっけ?」
「はい」
そう答えると、斉藤はソファの隣に座るように促した。
特に躊躇もなく、悠樹は斉藤の隣に腰を下ろした。
「日本の大学ってどんな感じなの?」
「ええと……」
日本とアメリカの違いがよく解らなかったので、悠樹はとりあえず、自分の通う大学の学部やシステムについて説明した。
「やっぱりちょっと違うなぁ。俺はハイスクールの途中からアメリカに編入学したから。日本の大学ってよく解らないんだ」
「そうなんですか」
「向こうに住んでみたらそっちのほうが肌に合っちゃったもんで。あんまりこっちのことを気にしたりすることもなくて……というか、ほとんどそんな余裕もなかったしね」
「アメリカへは、家族の方のお仕事が何かがきっかけで行ったんですか?」
「うん。父の仕事の都合でね、アメリカに住むことになったんだ。でも、大学時代にその父が亡くなって、そこから一気に苦学生になった。もともと母も他界していたから、それ以降は天涯孤独の身の上さ」
「…………」
悠樹は頷くだけの相槌を打った。何と答えてよいか解らなかったからだ。
自分は恵まれた家庭で大切に育てられた。お金の苦労も、家族を亡くすという悲しみも知らないから、かける言葉が見つからなかった。
そんな悠樹の様子を見て、斉藤は慌てて肩をすくませて笑った。
「ああ、そんな顔をしなくてもいいよ。こうしてちょっと苦労したおかげで、少々のことでは動じなくなったし、人のありがたみというものもよく解るようになったしね」
「そうですか……」
ちょっと影を落としてしまった悠樹の顔を、斉藤が気遣うように覗き込んでくる。
「暗い話になって悪かったね」
「い、いいえ……あの……俺、あんまり苦労とかしたことなくて……何も言えなくてすみません」
「いやいや、誰かに話すという行為、人に話を聞いてもらうという行為そのものが、悲しみを癒す効果があると言われているんだよ。だから悠樹は今、俺の話を聞くことで、俺の悲しみを癒す手伝いをしたことになるんだ」
「そう……なんですか……」
「そういう研究結果も出ている。悲しみが完全になくなることはないけれども、それを乗り越える力を人間は誰でも持っているんだよ……なんて言うと、完全に説教オジサンだよな……」
「いいえ……」
悠樹が笑うと、斉藤も笑った。そして、ちょっと真面目な顔に戻して言う。
「ただね、時と場合によることもある。何でもかんでも話させればいい、聞けば良いというものでもないのが、人間の難しいところ」
「そう……なんだ」
「うん。場合によっては、その時には聞かないほうが良いときもある。その人は立ち入らないほうが良い話もある。本当にケースバイケースだね」
「そっか……」
「ただね、向こうから話して来た場合は、聞いてあげるといい。その場合は相手は悠樹に聞いてもらうことで癒されようとしている可能性が非常に高い」
「はい、わかりました」
そんな話をしながら、斉藤がそういう専門分野の医師であることを悠樹は思い出した。
それから斉藤は、悠樹の大学のことや家族のことをいろいろ聞いてきた。
漣のことについても聞かれたが、答えにくいようなことは聞かれなかった。
その点については斉藤は配慮をしていたのだろう。
斉藤はその仕事のせいもあるのだろうが、とても聞き上手だった。
それで悠樹はつい余計なことまで喋ってしまいそうになり、慌てて言葉を濁すなどということが何度もあった。
ただ、斉藤に対してはそれほど警戒心も感じないので、ほとんどありのままに話をしてはいたのだが。
しかし、そうして質問されることに答えているうちに、時折胸がざわついたり、何かわけもなく不安になったりもした。
その理由はよく解らなかった。
けれども、すぐに斉藤がフォローをしてくれるので、だいたいは楽しく会話をすることが出来たと思う。
ただやはり、時間が経つにつれ、悠樹は無性に心細くなっていくのを感じた。漣に傍にいて欲しいと思った。
斉藤が苦手だとか、嫌な人間だということは決してないのに。。
いつもなら、一人でマンションにいても、こんな気持ちになるようなことはないのに。
自分でも自分の気持ちに理解が出来ないまま、悠樹の息苦しさは少しずつ増していった。
「ちょっと疲れた?」
「あ、いえ、大丈夫です」
悠樹はそう答えながら軽く首を振る。
せっかくアメリカから来た漣の友人に、心配をかけたりしてしまっては申し訳ない。
本当は斉藤と話しているのが、少し辛かった。
でも、その理由が解らないのに伝えることは出来なかった。
「あの……俺と話をしてても退屈じゃないですか?」
「いや、そんなことはないよ。でも、悠樹にばかり話をさせるのも悪いから、今度は俺の話をしよう」
そう言って話者はバトンタッチした。
悠樹は心の底でホッとした。
斉藤の話はとても面白くて、悠樹は先ほどまで感じていたはずの息苦しさが、一気に薄れていくのを感じた。
友達に試してみるといいよ、などと言いながら、いくつかの心理テストなんかも教えてくれた。
この答えに対する解釈には非常に当たっていると思うものもあれば、かすっているかなと思う程度のものもあった。
今度淳平にも試してみようと思ったりしながら、まるでゲームをするみたいに斉藤が出してくる心理テストを楽しんだ。



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EDIT [2011/07/22 07:20] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/22 23:05] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!
そして、お誕生日おめでとうございます~♪
いくつになっても、誕生日はめでたいものです♪

診断結果は今回いちおう出ました。
悠樹にも漣にも、ちょっと辛い結果となってしまいましたが(汗)

これからどうなるのか…どうしよう(笑)

そんな感じですが、また次回も読みにきていただけると嬉しいです!
[2011/07/23 07:57] EDIT
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