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 陸が疲れて眠ったのを見届けると、アマツはそっと部屋を出た。
 広間に向かって歩き出すと、背後に人の気配を感じた。
「アマツさま」
 闇の中から声をかけられ、アマツは振り返る。
「トミビコか。どうした?」
「少しお話が……」
「庭に出ようか」
「はい」
 アマツはトミビコを伴って庭に出る。空には月が丸く輝いていて、灯りは必要ではなさそうだった。
 その庭の中ほど辺りに木造りの四阿(あずまや)があり、二人はそこで話をすることにしたようだった。
「話というのは?」
「陸さまのことなのですが……」
「陸がどうした?」
「そろそろお返しになる日を決めていただきたいと……」
「…………」
 トミビコの言葉にアマツはすぐには何も答えられず、沈黙する。
「様子見のために滞在の期間を延長していただいていましたが、ここ数日は何事もありませんし。いつまでも陸さまを留めおくのも……」
「そうだな……」
「私がわざわざ申し上げることではないかもしれませんが、陸さまはこの高天原の住人ではありませんし、住人にはなれません。陸さまにとっても、元の世界での生活もありますし、これ以上長引くのは……」
「分かっている」
 アマツの言葉はあくまでも静かだった。
「分かってくださっていれば良いのですが……このところ、アマツさまは少し陸さまに執着をしすぎのような気がして心配です……」
 トミビコのその指摘に、アマツは苦笑する。
「悪いな……心配をかけて……」
「いえ……出過ぎたことを申しました」
「いや……お前の指摘は正しい。本来なら俺が先に動かなければならないことだ」
 それをしなかったのは、おそらくアマツの中で陸の存在が予想以上に大きくなってしまったためだろう。
 トミビコはそう思ったが、口には出さなかった。
「では、陸さまをお返しになる日取りにつきましては、アマツさまにお任せします」
「分かった。陸とも話をして近々に決める」
「はい」



「トミビコ! あんたいい加減にしなさいよ!!」
「は、はい……申し訳ありません……」
 頭の上から黄色い声が降ってきて、トミビコは身を縮める。前回以上にヒルコは怒っているようだった。
 どすんと音を立ててその小さな体を大きな椅子に収めると、ヒルコはひとつため息をついた。
「で……中津国から来たその子はまだいるの?」
「はい……いちおうアマツさまにはお返しする日を決めていただくようにと伝えたのですが……」
 言いにくそうに言葉を濁すトミビコを見て、ヒルコは目を輝かせる。
「アマツ兄さまはその子にご執心なの?」
「え、ええと……嫌いではないと思います」
「ふーん……微妙な表現ね。トミビコ、その子を利用することは出来そう? そうね……たとえば根の国に連れてくるとか。そうしたらアマツ兄さまは掟も何もかも忘れてすっ飛んでくるんじゃないの?」
「い、いえ……さすがにそれはないかと……アマツさまはご自分の立場をとてもよく分かっておられますし……」
「でも、どちらにしても、根の国に連れてきてもらったほうが動きやすいわ。そうしなさいよ、トミビコ」
「え、ええと……もう帰ってしまうと思うので、無理かと……」
「だからあんたは!! どうしてそんなに頭の回転が悪いの! その子を利用するために、帰さなくて済むように考えなさい!!」
「は、はい……で、でもあの……もうあまり時間が……」
「だから!! 時間がないからこそ、あんたの出番じゃないの!! さっさと方法を考えなさい!! いいわね!?」
「は、はい、でも、あの……」
「でもも、あのもいらない!! やるの、やらないの? どっち!?」
「や、やります……」
「あっそう。じゃあ、よろしくね。今度失敗したら、アハシマがどうなっても知らないわよ」
「え……そ、それは約束が……」
「あんたがこっちの約束を守らないのが悪いのでしょう? いい? 今度失敗したら、アハシマに手を出すわ。あの人最近弱りきってるからどうなるかしら、ふふ……」
 無邪気に微笑んでみせるヒルコを見て、トミビコは顔を曇らせる。その瞳は今にも涙がこぼれそうなほどに潤んでいた。



「帰る?」
 アマツの言葉に陸は目をパチクリとさせる。心臓がドキドキする。でも、アマツはいつものように落ち着いていて動揺している様子はない。
「しばらく滞在してもらったが、どうやら特に異変もないようだし。いつまでも陸をこの世界に留めておくことは出来ない」
「あの……でも……」
「陸にも自分の世界での生活があるだろう?」
 アマツの言葉は優しかったが、それが逆に陸には悲しかった。どうして落ち着いてそんな話ができるのだろう。陸の心臓は壊れそうなほどに早鐘を打っているというのに。
「な、なんで……この間は俺のことが一番大切だって言ってくれたじゃないか」
 あまりにも突然のことに、陸は少し混乱していた。
 つい数日前には陸のことがこの世の何よりも大切だと言ってくれたばかりなのに。
 ひょっとすると、アマツの気持ちはもうあの時のものとは変わっていて、陸が元の世界に戻り、二度と会えなくなっても構わないと考えるようになってしまったのだろうか……。
 そんな陸の気持ちを払拭するかのように、アマツは陸の肩にそっと手を添える。
「陸に対する思いは変わらない。前に言ったとおりだ。俺は陸のことがもっとも大切だし、陸以上に大切なものはこれからも現れることはないと思う。だけど、陸には戻るべき場所がある……」
「だけど俺……今は元の世界に戻ることよりも、ずっとアマツといたい気持ちのほうが強くなってる……」
 陸のその言葉に、アマツは少し驚いたように目を見開く。
「陸……」
「元の世界に戻って二度とアマツに会えないなんて耐えられない……」
 思わず涙声になりかけた陸を、アマツはその大きな腕で抱きしめる。
「嬉しい……お前がそんなふうに思ってくれているとは思わなかった……」
「アマツ……」
「俺も本当はお前を帰したくない。だけど、この世界にはこの世界の決まりがある」
「俺がここに残れる方法はないの?」
「たぶん……ないと思う」
「じゃあ……追い出されるまでここにいていい? 世界が俺を拒絶するまで、アマツの傍にいたい」
「陸……」
 こんなに情熱的で濃厚な告白を、陸は今までにしたことがなかった。でも、今はそこまでのことを言わないと、あっさり元の世界に戻されてしまいそうな気がしたのだ。
 そんなことになってしまったら、二度とアマツに会えなくなる……。
「分かった」
「アマツ……?」
「トミビコに相談してみる。陸をこの世界に受け入れる方法があるのかないのか……」
「うん……」
「ひょっとすると陸は二度と元の世界に戻れないかもしれない。それでも構わないのか?」
「構わない。どちらかを選ぶしか道がないのなら、俺はアマツを選ぶ」
 アマツは強く陸を抱きしめる。
 本当のことをいうと、元の世界のことだって気にはなる。でも、もしも選択肢が戻るか戻らないかの二つしかないのなら、陸の選ぶ道はもう決まっていた。
「俺も一緒にトミビコの話を聞きたい」
「陸?」
「どういう結果になるにしろ、自分でちゃんと聞きたいんだ。いい?」
「ああ……もちろんだ」



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EDIT [2012/10/19 08:11] 高天原で恋に落ちた Comment:2
はじめまして。
risakiと言います。世間一般で言う腐女子と呼ばれる者です。
桔梗さんの小説大好きです^^
高天原で恋に落ちたは陸が好きです。
これからも楽しみにしています。
更新がんばってください。
[2012/10/20 02:11] EDIT
>risaki さま

コメントありがとうございます!
私の小説が大好きと言ってもらえてとても嬉しいです♪
単純なので、本当にその一言だけでご飯五杯ぐらいいけそうです!
私もrisakiさんと同じく堂々たる腐女子です(笑)
BL小説も漫画も大好きですし、テレビを見ていても、外を歩いていても、
ついついイケナイ想像をしてしまいます(笑)
でも、楽しくてやめられないんですよね~。
これからも楽しんでいただけるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!
[2012/10/20 07:33] EDIT
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Author:日生桔梗
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