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それから約一年の月日が過ぎた。
弘海は変わらずに『ル・レーヴ』で一人前のパン職人を目指して修行を続けているが、最近では一人で任される商品も徐々に増えつつある。
パン職人のパの字ぐらいは名乗っても良いかなと自分でも思えるようになってきた感じだ。
そして、リュウスも弘海のボディガードという名目で、仕事を続けていた。
今は店の昼休憩で、ちょうどリュウスと時間がかぶっていた。
休憩室の机で向かい合って、束の間の休息をまったりと過ごしている。
「そういえば……今日はショーンさまが来られる日ですね」
「あ、うん。今回は五日ぶり……かな」
「何か不安があるようでしたら、いつでも相談に乗りますよ」
「なに、その嬉しそうな顔……」
「いえ。何か不安なことはありますか?」
にこにこと嬉しそうに微笑みながら、リュウスは聞いてくる。
冗談だとは解っていても、弘海は慌ててしまう。
「ないよ。ついでに言うと、離婚もないから! ラブラブだからね!」
弘海はラブラブを強調して言った後、顔が熱くなってくるのを感じた。
「もう……何言わせるんだよ。店の中なのに……」
弘海が照れながら言うと、リュウスはクスクスと笑う。
「でも、安心しました。最初はどうなることかと思いましたけど」
「うん……俺もビックリしてる。ショーンは異国の人だし、魔法が使えるし、男だし……でも、けっこう上手くいくもんなんだね」
「そうですね。僕も弘海さんを見習って、良い人を見つけたいと思います」
「気になる人とかいるの?」
「さあ……どうでしょう」
何となく思わせぶりなその言葉に、弘海は祐一の顔を思い浮かべた。
主に店頭での仕事が多いリュウスは、祐一と一緒になる機会が多い。
混雑が引いたあとの少しまったりした時間に、二人で仲良く話をしている場面を見ることもあった。
(もし二人の関係に進展があれば……きっと教えてくれるよね)
弘海はそう思い、今は何も聞かずにそっとしておこうと思った。
「あ、俺もう行かなきゃ」
弘海は立ち上がり、飲み物を入れていたカップを洗い、身支度を整える。
「じゃ、お先に」
「はい、いってらっしゃい」
リュウスに見送られ、弘海は休憩室を後にした。



厨房に戻ると、橘が忙しく働いていた。
ちょうど昼のピークも終わったところで、手の空いたらしい三芳も手伝っている。
一年前のスタートから二人の関係は良好で、今ではスタッフも公認の仲になっていた。
そもそも弘海が男と結婚しているということもあり、男同士が恋人になるということに対しての周りも耐性が出来ていたのだろうか。
一時は三芳が辞めるという話にもなったりしたから、どういう関係であれ二人が仲良くなることは、スタッフたちにとっては歓迎だったということもあるのだろう。
ともあれ、ベーカリーショップ『ル・レーヴ』は以前にも増して繁盛し、店内はいつも客でにぎわっていた。
「あ……来週の定休日の翌日、休ませてもらっても大丈夫ですか?」
弘海が遠慮がちに言うと、カレンダーを確認して橘が頷いた。
「うん、大丈夫だよ。宗助もいるし、弘海は気にしないで羽根を伸ばしておいで」
「はい、ありがとうございます!」
「弘海が休みを取りたいなんて珍しいな。旦那とどこか旅行にでも行くのか?」
「まあ……そんな感じです。すみませんがよろしくお願いします」
実はショーンから一度一緒に国に来て欲しいと言われたのだ。
前回に行ってからまだ一年しか経っていないのだけれど、何かあったのだろうかとちょっと不安もあったりする。
(滅多に行かなくていい……なんて言ってたのにな。何があるんだろう……)
ただ、今回は前回のように結婚式などという儀式もないし、二度目でもあるので、前回よりは気楽に楽しめそうだ。
それに、ショーンと一緒に過ごせるのだと思えば、気の重さも少しは楽になりそうだった。



そして翌週、定休日のその朝に、ショーンが迎えに来た。
ショーンの手をしっかりと握って、何度かの移動を繰り返しながら、ショーンの国に向かう。
景色は異国のものだったり、日本みたいな場所だったり、いろんな風景を通り過ぎて、少しずつ懐かしい風景が近づいてきた。
一面に乾いた土の色をした景色、そこに木々の緑や空や水のブルーが混じる。
結局、ショーンはこの日になっても、弘海を国へ連れて行く理由を告げなかった。
だから弘海は移動の最中も不安でいっぱいだった。
いったい何があったのだろう……。
ショーンはいつもと変わらない様子で、悪いことがあったとは思えないのだけれど。
やがて国にたどり着くと、前回と同じように青い馬の馬車が迎えに来ていた。
「昨日会ったばかりですけど、この国ではお久しぶりです」
馬車の前にリュウスがいた。ちゃんと国の衣装を身につけているリュウスは、いつもとは違って何だか少しくすぐったい。
弘海たちよりも先に国についていたということは、リュウスは昨夜のうちに戻っていたのかもしれない。
「さ、どうぞ。国王陛下もお待ちになられています」
「気楽に来ちゃったけど……何だか大変そうだね?」
不安になって弘海はリュウスに聞いてみる。リュウスはくすりと笑った。
「悪いことではないですよ。まあ、楽しみにしていると良いと思います」
「うーん……何だろう……」
弘海にはさっぱり見当もつかない。気がつけばショーンも微笑んでいた。
「ほら」
先に乗ったショーンに腕を引かれ、馬車に乗り込む。
「ね……本当に今日は何があるの?」
「もうすぐわかる」
「えー……リュウスも教えてくれないしさ。知らないの俺だけだよ? 教えてくれたっていいじゃん」
弘海の言葉にショーンは微笑むだけで、やはり何も教えてくれなかった。



やがてあの立派な城に着くと、すでにたくさんの人たちが弘海たちのことを待っていた。
ショーンのお父さん……つまりは国王様も、弘海のことをにこにこしながら待っていた。
でも、まだ何があるのか解らない。
弘海は不安なような……そして楽しみなような気持ちで、先を歩くショーンについていく。
そして連れて行かれた場所は、例の結婚の儀式を行なった場所だった。
そこにはすでに、光の階段が現れていた。
(あれ……ここって……)
「ショーン……もしかして……?」
弘海は何となく予感がして聞いてみたが、ショーンはやはり微笑むだけで答えず、弘海に手を差し出した。
その手を握って、一緒に光の階段を上っていく。
地面や見守る人たちの姿がどんどん小さくなっていき、扉のある部屋の前にたどり着く。
まるで弘海たちが着いたのを見ていたかのように、扉がすうっと開いた。
この先にあるものを思うと、弘海の胸はドキドキと鼓動が強くなる。
部屋の中は少し暗く、中央に光が降り注いでいる。
その中央の光に包まれるようにして、儀式で収めた揺り篭があった。
ショーンと一緒にその揺り篭の前まで来て弘海は思わず声を上げた。
「赤ちゃんがいる」
「ああ」
「ショーンと俺の子供?」
「そうだ」
「かわいい……」
揺り篭の中で眠る赤ん坊は、すやすやと眠っているようだった。
小さな手がぎゅっと握られていて、それが微かに開いてまた閉じた。
まるで弘海たちが来たことを、赤ん坊も喜んでいるように弘海には思えた。




猫目石のコンパスは、これで最終話となります。
最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
本当は第三章とかも書きたかったのですけど、四月からいろいろと環境が変わるため、落ち着くまでの間執筆活動をお休みいたします。
落ち着いたらまた新たな物語になるかもしれませんし、このお話のSSなどになるかもしれませんが、こちらで公開させていただきたいと考えておりますので、その際にはまたお立ち寄り頂けますととても嬉しいです!
たくさんの投票や拍手、本当にありがとうございました!



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お疲れ様でした~。

あぁ、終わっちゃった(つД`)
でも、良い人でお人好しな橘さんが幸せになれて良かったです。
三芳さんも長年の想いが報われて良かったです。

今更ですが、【第一章】(恋愛編)第四十六話をショーン視点で読みたいです。

何故、黒猫ショーンは警戒しつつ、弘海の様子を伺ったのか?
「黒猫は警戒する様子を見せながらも、
 弘海のほうに駆け寄ってきた」時のショーンの心情
「黒猫は弘海の手にぶら下がるスーパーの袋に、
 何度も顔をこすり付ける」時のショーンの心情

まぁ、大体分かっているのでニマニマしながら
ショーンって可愛いなぁと何度も読んでいるのですが、
やっぱり桔梗さんの文章で読みたいです!

ハァ~~~、黒猫ショーンに萌えます!!!
[2012/03/28 17:06] EDIT
>すももさん

ありがとうございます!
たびたびコメントをいただき、ありがとうございました♪

> 今更ですが、【第一章】(恋愛編)第四十六話をショーン視点で読みたいです。

おお、黒猫視点というのは思いつかなかったです。
そういうのも面白そうですよね!
あんなこととか、こんなこととかもいろいろ考えてそうで、
黒猫ショーンのイメージがガラガラ崩れないように気をつけないと駄目ですね(笑)

ちょっと今の時点ではいつになるかお約束は出来ませんが、
落ち着いて時間が出来たらぜひ書いてみたいと思います!

ありがとうございます!
[2012/03/29 07:26] EDIT
一気に読み進めてしまいました。
せっかく赤ちゃんが出来たので、続きが読みたいですー!!

ラブラブなSSなども読んでみたいです♪
[2012/10/08 02:32] EDIT
>SHINN さま

コメントありがとうございます♪
SSも書きたいなーと思いつつなかなか手が出せずにいます(笑)
赤ちゃんも交えたラブラブとかもすごーく惹かれますね!
もうちょっといろいろ落ち着いてきたら、書いてみようかなと考えていますので、
その時にはまた読みに来てくださると嬉しいです!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪
[2012/10/08 08:26] EDIT
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