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その日、漣が帰ってきたのは深夜を過ぎてからだった。
悠樹はずっと起きて待っていた。
「おかえりなさい」
玄関まで迎えに行くと、漣は少し驚いたような顔をする。
「まだ起きてたのか」
「うん……」
「先に寝てていいってメール送っただろ?」
「眠れなくて……」
そう小さな声で答える悠樹を、漣はそっと抱き寄せた。
「悪い……俺のせいだな……」
「ううん……」
悠樹はすぐに首を横に振った。
そっと唇を重ねると、悠樹はおとなしくされるがままになっていた。
唇を離した漣は、悠樹を促して、リビングのソファに連れて行く。
いつもに増して口数が少なく、沈んだ表情なのが気になった。
ソファの隣に座らせ、髪や頬を撫でながら聞いた。
「どうしたんだ?」
「漣兄さん……襲われそうになったって本当?」
「ああ、その話を聞いたのか……」
「やっぱり本当なんだ?」
「大したことはない」
「でも……」
まだ心配そうに見上げてくるその顔を、漣は優しく撫でながら言う。
「俺のことは気にしなくていい。自分の身の安全を最優先に考えろ」
漣はそう言ったが、悠樹はまだ納得している様子がなかった。
「心当たりとか……あるの?」
その言葉に、漣は少し考えるような仕草をし、すぐに首を横に振った。
「あるといえば、あるし、ないといえばない。特定できるほどの心当たりはない……
「そっか……じゃあ、理由や相手はまだよく解っていないんだね?」
「そうだな……」
「大丈夫……だよね?」
上目遣いに聞いてくる悠樹に、漣は笑ってみせる。
「ああ、大丈夫だ。いちおう腕の立つやつが俺の後をしつこくついて回っているし」
「単独行動はだめだよ!」
「それもうるさいぐらいに言われてる。あまりにも煩いので、ちゃんと言うことをきいてる」
漣はうんざりとしたふうに言ったが、悠樹はちょっとホッとした。
どうやら漣の周りにも守ってくれる人がたくさんいるみたいで、悠樹はようやく微笑むことが出来た。
漣自身も危険があることをちゃんと自覚しているようだし。
あとはいったい誰が何の目的で漣を狙っているのかが解れば……。
そんなことを考えていると、漣が思い出したように口を開いた。
「明後日、アメリカの友人が日本に来る。ここに泊まることになると思う」
「へえ……珍しい」
漣がこのマンションに人を連れてくることが、悠樹にとっては驚きだった。
しかも友人なのだという。
「滞在は3日ほどらしい。俺が仕事に出かけている間は、彼の話し相手になってやってくれ」
「うん、わかった。ちょうど週末だしね。でも、どんな人?日本語は話せるの?」
「日本語のほうは心配要らない。日本人だし。仕事は医者をやっている。いや……今は研究のほうが主か」
「お医者さんなんだ……すごいね~」
悠樹が目を輝かせる。漣の友人だというだけでも貴重種なのに、その上に医者だという。医者の知り合いは、悠樹の周りにもいなかった。
「何のお医者さんなの?」
「専門は臨床心理学だが、最近では東洋医学の研究も行っているらしい」
「へえ……何だかよく解らないけど、すごい人なんだね~」
「いろいろ話は聞かせてくれるが、専門的過ぎて解りづらい」
「そっかぁ……俺にもわかるかなぁ」
「初対面の人間に小難しい話をするような相手じゃない。気楽に相手をしてやってくれ」
「うん、わかった」
気楽にという言葉がありがたかった。要するに、医者だとか考えずに、漣の友人としてもてなせば良いということなのだろう。
それならば何とか自分にも出来そうだと悠樹は思った。



翌々日はちょうど週末の一日目で、大学が休みだった悠樹はマンションで漣が帰ってくるのを待っていた。
料理が作れない悠樹は、せめて買い物でもしておこうかと思ったが、外に出る時には必ず漣の会社の誰かが付き添うことになっている。
それも何だか申し訳ない気がしたので、結局マンションで待っていることにしたのだ。
普段は大学に行く以外に外へ出ることは少ない悠樹だが、こうなってみるとけっこう不便を感じる。
用事を思い出したから外へ……などということは気軽には出来ないのだ。
けれども、それが漣の安全のためなら、悠樹は我慢しようと思った。
警察も動いているみたいだし、漣の会社の人たちも相手の特定を急いでいると昨日テツヤも言っていた。
そんなに長くはかからないだろうし、そのぐらいの期間の不便は辛抱できると思った。
テツヤは昨日も大学の送り迎えの際には、アメリカ時代の漣の話をいろいろ聞かせてくれた。
悠樹の知らない数年間の漣の話はとても新鮮で、しかもテツヤの話し方が上手いので車の中の時間は無条件に楽しかった。
残念だったのは、淳平と一緒に帰ったり遊びに行ったりすることが出来なかったことぐらいだろう。
淳平のほうも事情をちゃんと理解してくれて、なるべく早くマンションに戻ったほうが良いと言ってくれた。
「もうそろそろかなぁ……」
漣が出かけていってから、もうずいぶんと時間が経つ。
飛行機が時間通りに着くとは限らないから、多少は待たされていることを考えても、じきに戻ってくるはずだ。
「どんな人なのかなぁ」
何度も想像してみようとするが、どうしても具体的な姿が浮かんでこなかった。




「よう、久しぶりだな」
相手の男……斉藤眞司(さいとうしんじ)は空港で漣の姿を見つけると、気安く片手を挙げた。
差し出されたスーツケースのほうを受け取って、漣も軽く笑って答える。
斉藤は眼鏡をかけた長身で、Gパンにシャツを引っ掛けたカジュアルな格好をしている。
「急に呼び出して悪かったな」
「いや、お前の呼び出しは断れんだろ。何しろ、曲がりなりにもパトロンなんだし」
「税金対策だ」
「それでも助かっている」
斉藤は臨床心理学における催眠術の影響と効果の研究を行なっていて、小さいながらもその研究所を開設している。漣はその研究所に決して安くはない額の資金を援助していた。
斉藤とは大学院時代の交友関係の中で、同じ日本人であるということもあって交流を持ち始めた。
斉藤は医師免許を取得すると、病院勤務の傍ら、ボランティアでDV被害者や性犯罪被害者のカウンセリングなどを行なっていた。
その過程で、催眠術を応用して臨床心理学に活用する研究にも力を入れ始め、のちに専門の研究所を開設することになったのだ。
開設当初は資金などほとんどなかったから、斉藤は病院でアルバイト勤務をしながら、研究を続けていた。
日ごろから彼の活動を間近で見ていた漣は、資金の援助の申し出を受けたとき、特に躊躇することもなく援助を決めた。
研究の内容などよく解っていなかったが、斉藤がほとんど寝る間も惜しんでバイトと研究に明け暮れ、その合間にボランティアまでしている様子は、漣にも何か感じるものがあったのだろう。
「いちおうメールは読ませてもらったけど、状態によってはかなりの時間がかかると思ったほうがいい」
悠樹のことを言っているのだとすぐに漣は悟り、頷いた。
漣はかなり長い時間を割いて、悠樹の状況を伝えるためのメールを作成して斉藤に送った。
メールを作成する間、漣は自分の犯した罪を改めて明確に突きつけられるようだった。悠樹が苦しんでいるのは、まさに自分のせいに他ならない。
その作業は漣にとって、相当に辛い作業ではあったが、おかげでおそらく斉藤はほとんど正確に悠樹の状況を把握しているだろう。
「出来れば、一年なり二年なりのまとまった時間をかけてケアするのが良いと思うが……それはどうなんだ?」
「日本を離れるのは、たぶん大学に通っている間は無理かもしれない。大学を休学するのは嫌だと言っていた」
「じゃあ、長期休暇を利用して連れてくるんだな。そこは何とか説得したほうがいい」
「解った」
「しかし、文礼が絡んでいたとはな……」
文礼と漣が関係を持っていた4年間のことを、斉藤はすべてでないにしても、ある程度知っている貴重な人間でもある。
もちろん文礼との面識もあった。
そのこともあったので、漣は斉藤を頼ることに決めたのだ。
「とにかく会ってみよう。詳しいことはそれから決めたほうがいい」
斉藤の言葉に漣も頷いた。



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EDIT [2011/07/20 06:58] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/20 19:24] EDIT
>シークレットAさん

コメントいつもありがとうございます!

もちろん、悠樹は気にしているはずですが、私が特に気にしていませんでした(汗)

漣にしてみれば、出来たらもう大学にも行かないで家にいて欲しい~と思ってるのでしょうね(笑)
普段ももちろんいて欲しいとおもってるでしょうけど、悠樹の意思を優先させているところもあるので、強く言えなかったりとか。

結果的に今は漣にとっても嬉しい(?)状況になっているのかもしれません(笑)

次回の更新も頑張りますので、またぜひ読みに来てくださると嬉しいです♪
[2011/07/21 07:57] EDIT
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