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深夜に漣がマンションに戻ってくると、すでに悠樹は眠っているようだった。
リビングには斉藤の姿だけがある。
斉藤は難しい顔をして、リビングに広げたノートパソコンを見つめていた。
「遅かったな」
斉藤はそう笑って漣を迎えたが、どこか浮かない表情をしていた。
「お前の指示通りにした。もっと早いほうが良かったのか?」
「いや、ちょうどいい。悠樹はさっき眠ったところだ。お前を待ってるつもりだったようだが」
漣はあらかじめ斉藤から指示を受け、今日は出来るだけ遅く戻ってくるように言われていた。
斉藤が悠樹となるべく長く話をするためだった。
漣は斉藤の向かいのソファに腰を下ろした。
それを見て、斉藤は軽く息を吐き、漣を見つめてきた。
「結論から言っていいか?」
斉藤のほうから切り出してきたので、漣は頷いた。
「大学は休学させて、向こうに連れてくることをすすめる」
「…………」
すぐに漣は返事をすることが出来なかった。
大学だけは行かせて欲しいと漣に言って悠樹は泣いたことがあった。
休学などということになれば、悠樹はいったいどう思うだろう。
今も身の危険があるにも関わらず、ボディガードをつけてまで大学に行かせているのは、二度と悠樹を泣かせたくないという気持ちがあったからでもあった。
そんな漣の気持ちを見透かしたかのように、斉藤は言葉を続ける。
「とりあえず、何でもいいから理由をつけて連れてくるんだ。とりあえずでいい。その後は向こうで俺が説明する」
「無茶を言うな……」
「今の状態がもうすでに無茶なんだ。俺がこのままこっちに残るという手もあるが、俺は向こうにも切羽詰った患者を抱えている。その患者を放置するわけには行かない。だが、悠樹には一刻も早い処置が必要だ」
「…………」
斉藤が抱えている患者の多くが、深刻な状態であるということは漣も理解していた。
だが、それでもすぐには頷くことが出来なかった。
斉藤は言葉を続ける。
「たとえば……日本にお前の信頼できる医者がいたとして、お前がその医者にすべてを話すことが出来るのなら、日本での治療も不可能ではない。もしもそういう知り合いの医者がいるのなら、俺のほうから悠樹の症状を伝えても良いが」
「残念ながら、日本にそういう知り合いはいない。いればわざわざお前を呼びつけたりはしなかった」
「そうか……だったら、やはりアメリカに来てもらうしかないな……」
そう言って、斉藤は広げていたノートパソコンを閉じた。
「今日は悠樹といろんな話しをしてみた。まるで時限爆弾のリードを探ってるような気がしたよ」
「時限爆弾……」
「ああ……会話の最初から、これは下手をしたら爆発するなと思った。だから出来るだけ慎重に会話をしたつもりだ。だけど悠樹は相当疲れたみたいだった。寝るようにすすめてみたら、おとなしく部屋に戻ったよ」
「状態はかなり悪いということか?」
漣の問いに、斉藤は躊躇することなく頷いた。
「わかりやすく言えば、悠樹は身のうちに地雷を抱え込んでいる。いつ爆発してもおかしくない地雷だ。何かきっかけがあれば爆発する。トリガーは些細なことでも発動する」
漣は驚いたように斉藤を見返した。
「記憶を失っているように見えるのは、それだけ悠樹の中で無意識のうちに防衛本能が働いているからだ。この地雷を爆発させてしまうのはマズイと、悠樹の本能は解っている」
「…………」
「だが、最初に言っておくが、地雷はあえて爆発させる必要がある。記憶は封じ込めたままにしておけない。いつかは爆発する。もしも記憶を永遠に封じ込めておく方法があるのなら、俺はそれを選択する。でも、今はまだそんな方法は世界中のどこを探してもない」
「つまり……思い出させると?」
「そういうことだ。治癒はそこから始めなければならない」
漣は言葉に詰まった。思い出す。つまり、文礼から受けた陵辱の記憶を、悠樹は思い出さなければいけないということだ。
それを思い出したとき、悠樹はいったいどうなるのか。漣には想像もつかなかった。
ただ、無意識の防衛本能で記憶を封じ込めていると斉藤が言うのだから、それを悠樹が思い出すということは、相当の苦痛を伴うということでもあるのだろう。
「他に方法はないんだな?」
「ない」
斉藤の返事は容赦がないほどはっきりしていた。
「そうか……」
「だからこそ、地雷の処理の仕方が問題になる。あらかじめ衝撃が来ることを理解させたうえで記憶の封印をとけば、それがもっとも悠樹にとっては負担が少なくなる。俺はその方法を考えている。そのためにはアメリカに来てもらうことが必要だ」
「期間は?」
「かなりかかると思ったほうがいい。最低でも半年ぐらいは……できれば一年。その後は日本から来てもらったり、こちらから往診したりで何とかなるだろう。そのぐらい時間をかければ、悠樹の負担をかなり和らげることが出来るはずだ」
「そうか……」
「もしも、いきなり地雷が爆発するようなことがあれば……それに悠樹が耐えれるかどうか、俺には保証が出来ない……」
漣はしばらく黙り込み、斉藤の言葉を頭の中でもう一度考えてみた。
確かに斉藤の言うとおりだった。もしも悠樹が何かのきっかけで記憶を突然思い出すようなことがあれば、悠樹は相当な深手の傷を負うことになるのだろう。
斉藤が悠樹に耐え切れるかどうか保証出来ないと言うのだから、悠樹がどうなってしまうのかということは、考えようとするだけで恐ろしい。
悠樹をアメリカに連れて行くという方法は強引なようでもあるが、おそらくそれが今の状態では最善なのだろう。
「解った。何とか説得してみる」
漣はようやくその言葉を吐き出した。斉藤はその言葉に頷く。
「事情は向こうで俺が話す。お前はとりあえず騙してでも何でも悠樹をアメリカに連れてくればいい。お前もあまり気負うな。出来る限りのことはするから、俺を信じろ」
「ああ……」
漣は改めて目の前の友人に感謝した。これまで誰かに縋ったり頼ったりすることをあえてして来なかった漣だが、今は目の前の友人にすべてを託す以外になかった。



斉藤に礼を言い、彼が客間に引き上げたのを見届けてから、漣は自分の寝室に戻った。
悠樹はぐっすりと眠っているようだった。
心なしか顔色が悪く見えてしまうのは、斉藤から話を聞いた後だからかもしれない。
漣は悠樹を起こさないように気遣いながら、その唇に自分の唇をごく軽く触れさせる。
もっと深く繋がりたいという気持ちがこみ上げてくるが、悠樹の眠りはとても危ういように見えた。
今はとりあえずぐっすりと眠っているように見えるが、きっと眠りは浅いものに違いない。
「悠樹……許してくれ……」
漣はその寝顔に囁きかける。
しかし、自分をいくら責めたところで、悠樹の傷が癒えるわけでもない。過去が消えるわけでもなかった。
なすすべがないといういことが、これほど苦しいことだとは。
漣は自分の罪を自分自身に再確認させるように、悠樹の寝顔を見つめ続けた。



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EDIT [2011/07/23 07:24] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/24 00:01] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!

隠れてしまっているだけに、状態は余計に悪いのでしょうね。
どうやってアメリカに連れて行くのかは……本当にどうするんでしょう(笑)
記憶を取り戻したときの漣に対する気持ちも、確かに心配ですよね。

悠樹の単位の心配までしていただいてありがとうございます(笑)
今までの勉強が無駄にならないように、何とかなって欲しいなと思います。

次回もまたがんばって更新していきますので、ぜひ読みに来ていただけると嬉しいです!
[2011/07/24 08:17] EDIT
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