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漣が戻ってきた気配がして、悠樹はバタバタと玄関まで駆けていく。
漣と一緒に部屋に入ってきたのは、眼鏡をかけたスラリと漣並みに背の高い男で、漣と比べるとひょろっとしている印象がある。
二人の後ろから顔をのぞかせたのはテツヤだった。
今日は悠樹が出かける予定がなかったので、テツヤは漣のほうについていっていたらしい。
「それじゃユウキ、また月曜日に!」
テツヤは明るい声を投げかけて部屋を出て行った。
悠樹は明日も出かける予定がないので、テツヤは漣の送り迎えをする予定らしい。
本来ならテツヤは常に漣のほうについているはずなのに、自分の送り迎えをさせていることを、何だか改めて申し訳なく思った。
「悠樹、こっちが斉藤だ」
漣が斉藤を紹介する。斉藤は優しそうな顔で笑うと、悠樹に手を差し出した。
握手を求められているのだと解って、悠樹も手を差し出した。
「あの……はじめまして」
「初めまして!3日ほどお世話になるよ」
「はい、よろしくお願いします。日本での用事は終わったんですか?」
「予定は月曜日だけかな。週末はのんびり過ごすよ」
「何か俺に出来ることがあったら、言って下さいね……っていっても、あんまり何も出来ないですけど……」
「暇だから話し相手になってくれると嬉しいかな」
「話し相手ならいくらでも!」
思わず声が弾んでしまって、悠樹は顔を赤くする。
漣みたいに料理が作れるわけでもないし、外を案内するにもいちいち漣の会社の人に言わないといけないから、なるべく出たくはなかった。
そうなると、悠樹に出来ることは本当に限られてしまうのだ。
だから、話し相手と役割を指示されて、正直ホッとした気分だった。
「とりあえず、部屋に案内しよう」
漣はそう言って、急遽客間にしつらえた部屋に斉藤を案内する。
本来はクローゼットのように使われていた部屋だが、今は真新しいベッドが入れられ、きちんとした客間の体裁が整っていた。
リビングに置いてあった絵画などを移動させ、綺麗に拭き掃除もした。
物置でしかないと思い込んでいたその部屋は、荷物を片付けてきちんと家具が配置されると、ホテルの一室のようなたたずまいだった。
ここへ来たときから悠樹には部屋が与えられていなかった。
だから、余分な部屋はないものだと思い込んでいた。
そのせいで、嫌でも漣と同じ部屋で寝起きすることになったのだが、その気になればちゃんと部屋が出来るのだということに悠樹は少し驚いた。
それと同時に、もう今さらだなとも思った。
今さらもう、自分の部屋が欲しいとは言えないし、言う必要も感じなかった。



夕食はちょっとしたホームパーティのような状態で、斉藤の歓迎会になった。
料理はもちろんすべて漣が作った。
悠樹も多少は手伝ったが、皿を運んだり、テーブルをセッティングしたりする程度だった。
「相変わらずの腕前だな」
斉藤は感心するように言って顔をほころばせた。
「斉藤さんも漣兄さんの料理を食べたことあるんですか?」
「アメリカにいるとき、何度も食べさせてもらったな。何しろ、貧乏学生だったから」
「そうなんだ……」
「貧乏学生の次は、貧乏研修生。その後は貧乏医師になって、最後は貧乏研究者」
そんなことを言って、斉藤は思い出したように笑った。
「下手なレストランに行くよりも、漣のところに行くほうがずっと良いものが食えることを覚えたんだ」
「それは解る気がする」
斉藤の言葉に悠樹も思わず笑ってしまう。
やはり漣の料理の腕前は、誰もが認めるところらしい。
最後の料理をテーブルに運んできた漣は、片方の手に珍しくワインを抱えていた。
普段の漣は、ほとんど酒を飲むことがない。
一度、酒を飲まないのか聞いてみたことがあるが、飲まないわけでも飲めないわけでもないという答えだった。
特に飲みたくないから飲まないということらしい。
今日は斉藤が来ているから、特別ということなのだろう。
「へえ……76年物のヴィンテージか」
ワインのボトルを受け取りながら斉藤がつぶやいた。
どうやら斉藤がワイン好きということらしい。
漣からワインオプナーも受け取って、手馴れた手つきでコルク栓を抜いた。
二つのグラスに赤い液体が注がれている間に、悠樹の前にはいつも漣にリクエストするオレンジのフレッシュジュースが置かれてあった。
いつの間にか作ってくれていたらしい。
それを見て、斉藤が首をかしげた。
「日本も飲酒は21からだっけ?」
「日本は20歳からだな」
漣が答えると、斉藤は納得したように頷いた。
「まあ……とりあえず飲んでもいいか?」
嬉しそうに言って、斉藤はワイングラスを持ち上げると、そのまま口に含んで幸せそうな笑みを浮かべた。
「おい、これ美味いな」
「そうか?」
「何でお前の家にこんなのがあるんだ。ワイン好きでもないくせに」
そんなふうに毒づきながら、斉藤はワインを飲み干していく。
漣は水を飲むのと変わらないような様子で、ワインを飲んでいた。
しばらくの間、そうしてワインを飲んだり、漣が作ってくれた料理を食べたりした。
そうしながら、斉藤は自分の研究分野の話などを聞かせてくれた。
斉藤は患者の診察や治療も行なうが、それと同時に心理学に関するさまざまな研究を行なっているらしく、今特に興味があるのは人の記憶力についての研究なのだという。
人間の記憶の力というのはものすごくて、認知症だったはずの老人が、とてつもない記憶力を発揮して迷宮入りしそうになった事件を解決した話や、催眠術を使って記憶をたどっていくと、赤ん坊のころの記憶が残っている人が意外に多いという話など、悠樹にも解りやすくて面白い話をたくさんしてくれた。
「すごいですね~、周りにお医者さんなんていないから、尊敬しちゃうな~」
「尊敬なんてしなくていいよ。ただの医療オタクだとでも思ってくれれば」
「医療オタクって……そんな……」
「ちょっと医療に詳しいだけの同じ人間。だから、そんなに気負わなくてもいいよ」
「はい、わかりました」
そんな感じで、斉藤はとても気さくな人間で、悠樹はすぐに余計なガードを解いた。
斉藤も漣も、どうやら酒にはめっぽう強いタイプらしく、ボトルが2本空いても、顔色ひとつ変わらないし、口調や態度もまったく変わらなかった。
結局、斉藤の歓迎会は深夜まで続き、途中で眠くなった悠樹は先に寝室に引き上げた。
悠樹が完全に寝室に引き上げたのを見て、斉藤が少し声を潜めた。
「元気そうなんだがなぁ……でも、ちょっと気になる」
「気になる?」
「反応しそうなキーワードをいくつか投げかけてみたんだけど、ほとんど反応がなかった」
「なるほど……」
「反応がないのが、かえって怖いね。やっぱり時間がかかるかもしれない」
「そうか……」
漣の声が少し沈んだ。こういう問題は時間がかかることだと、斉藤との付き合いの中である程度学んでいたから、覚悟はしていた。
けれども、実際に言われてしまうと、それだけの長い間、悠樹が苦しみから解放されないのだという現実が迫ってきた。
「明日一日でどれぐらい話せるか解らないけれど、どの程度の状況なのかぐらいは見極めて帰るよ」
「ああ……頼む」
日ごろは神頼みすらしない漣だが、今は目の前にいるこの友人に縋るしかない気分だった。



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ブルーガーデン
  

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EDIT [2011/07/21 07:22] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/21 22:09] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!
妄想ぜんぜんOKですよ♪むしろどんどんお願いします?
私も妄想は大好きですし、小説もほとんど妄想から生まれているようなものですし(笑)

本当に毎回コメントくださって、感謝感激です、ありがとうございます♪

ランキングのほうも、少しずつあがっていくたびに嬉しいなって思っています。
何か反応があるということは、本当に嬉しいことですし、ありがたいなと思います。
今はすごく忙しい時期に入ってしまっているので、もしもシーンとした状態だったら、第一部の時点で終わってしまっていたような気がします(笑)
なので、続きがあるのは、コメントや拍手、投票その他の何かしらの反応のおかげだと思っています!
いつも本当にありがとうございます♪

また次回も頑張ります♪ぜひ読みにきていただけると嬉しいです^^
[2011/07/22 08:20] EDIT
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