新しい記事を書く事で広告が消せます。
「は? 何を言ってるの? 頭でもおかしくなったの、兄さま?」
ヒルコは目を丸くして、甲高い声を上げた。
「おかしくはなっていない。あの薬の効果を消す薬をよこせと言っている」
「ふーん……。でも、残念だけど、あの薬の効果を打ち消す薬はないと思うわ」
「なかったら探せ」
命ずるように告げるアハシマに、ヒルコは不服そうに頬を膨らませる。
「嫌よ。どうして私がそんなことをしないといけないの? 兄さまがあの子を満足させてあげれば済む話でしょ?」
「俺が探せと言っている」
まるでヒルコを脅しつけるようにアハシマが凄むと、ヒルコは一瞬ひるんだように後ずさった。
「わ、分かったわ……。でも、絶対に見つかるとは限らないわよ……」
「その時はその時で考える。ともかく探せ」
アハシマの言葉に、ヒルコはふうっと息を吐く。
「本当に兄さまって考えていることが分からないわ。アマツ兄さまのほうがよっぽど分かりそう……」
「でも、俺はお前を裏切らない」
「それは分かっているわ……。じゃ、ちょっと暇してる子鬼たちにでも言いつけてくるわ」
ヒルコは肩をすくませながら部屋を出て行った。
◇
陸のいる部屋に戻ってきたアハシマは、寝台の上の陸を覗き込む。意識は朦朧としているようだが、完全に眠っているわけではないらしい。苦しげに胸を上下させ、喘ぐような呼吸を続けている。
「大丈夫か?」
「……ん……」
とりあえず返事はしたが、会話をするだけの余裕はないらしい。意識がないほうが、よっぽど楽だろう。けれども、あの薬は神経を高ぶらせる効果もあるため、短い時間ならともかく、完全に眠ることも、意識を失うこともできない。この状態が続けば、衰弱して生命活動が停止してしまう可能性もあるだろう。
アハシマは布で陸の体の汗を拭ってやる。少し体に触れるだけでも、陸は不快そうに顔を歪めた。薬の影響もあって、体が変に敏感になりすぎてしまっているのだろう。
「水……飲むか?」
「……ん……」
陸が返事をしたので、アハシマは陸の体を起こし、グラスに注いだ水を口元に持っていこうとしたのだが、陸の体はすぐに力を失ってしまう。
「水だ。飲めるか?」
アハシマがもう一度声をかけると、陸は頷いたように見えた。
「……っ……ん……」
アハシマはもう一度陸の体を起こし、水を飲ませようとしたが、やはり駄目だった。とても自力で水が飲めそうな状態ではないようだ。アハシマは何度か口元までグラスを持っていったが、結局は陸の衣服を濡らしただけで終わってしまう。
「…………」
アハシマは自分の口にグラスの水を含むと、そのまま陸の唇に自分の唇を重ねた。
「……ん……っく……」
陸は目を覚ますことはなかった。喉が動いているのを見ると、どうやら無事に水を飲み下すことは出来ているようだ。アハシマは続けて三度、ゆっくりと陸に水を飲ませていく。
「ん……アマ……ツ……」
陸はうわごとのように呟いた。そして、そのままアハシマに向かって手を伸ばしてくる。どうやら陸はアハシマのことをアマツだと勘違いしているようだ。
「アマ……ツ……助けて……」
陸は縋るようにしてアハシマに抱きついてくる。アハシマは包み込むように陸を抱きしめながらも、その表情は何かを睨みつけるように鋭く、どこまでも暗くて冷たいものだった。
「陸……」
アハシマは陸を強く抱きしめると、そのまま奪うように強く唇を重ねた。陸はアハシマの背に手を回すと、ぎゅっと強く抱きついた。
アハシマはそっと陸の体を寝台に横たえると、衣服をすべて脱がせてしまい、両足を大きく開かせる。そこまでされても、陸は意識を取り戻すことはなかった。
よほど薬が深く効いているのか……それとも、体力、気力ともに限界を超えてしまったのか。
「アマツ……」
まるで昏睡したような状態なのに、アマツのことを求め続ける陸に、アハシマは苦い表情を浮かべる。
陸は再びアハシマに向かって手を伸ばした。アハシマはその手を強く握り締めた。
◇
「ん……ぅ……」
陸が目を覚ますと、ゴツゴツした岩の天井が見えた。起き上がろうとしたが、体がフラフラとしてすぐに寝台に倒れ込んでしまう。
「あれ……? 俺……どうなってたんだっけ……?」
まるで高熱を出した後みたいに体がフラフラするし、頭もボーっとする。けれども、意識をなくす前に感じていたような苦しさはもうなくなっていた。
(そうだ……確か薬を体の中に入れられて……それで……どうなったんだっけ……?)
記憶がまるでないことに、陸は不安を覚えた。おぼろげな記憶をたどっていくうちに、その不安はさらに大きなものになっていく。
体の裡に仕込まれたその薬は、以前に性的な欲求を激しく刺激されたものよりもさらに強力なもので、陸は必死にその体の欲求を戦っていたのだ。けれども、こうして楽になるまでの記憶がまるでない。いったいどうやってあの強い薬の作用がなくなったのだろうか。
「ま、まさか……あいつにやられて……?」
意識があれば、絶対に拒絶を続けていたはずだが、意識がなくなってしまった後の行動まではコントロールできない。その間にアハシマが陸のことを抱いた可能性はゼロだとは言い切れないのだ。
「心配するな」
部屋の入り口から声が聞こえ、陸はハッとした。
「お前があまりにも強情だったから、仕方なくヒルコに解毒剤を持ってこさせた」
「解毒剤……?」
「ああ……。あれは一種の毒のようなものだからな。効果を消す働きのある薬がある」
「そ、そうだったんだ……」
陸はホッとして泣きたい気分になった。万が一にもアハシマに抱かれていたようなことがあったなら、二度とアマツには会えないし、陸も生きてはいけないと思った。
「あのままでは、お前が死んでしまう可能性があったからな。人質に死なれては困る」
「ひ、人質? 俺が?」
「アマツは相当お前に惚れ込んでいるようだからな。お前を盾に要求すれば、アマツは何でも差し出してくるだろう」
「ちょ、ちょっと待て。そんなことするな。俺はアマツを困らせたくない」
「では、俺のものになるか?」
「な、何言ってるんだ。それは絶対に嫌だ」
「どちらかしか選べない。少し時間をやるから考えろ。どちらかを選べ」
「か、勝手なことを言うなよ! どっちも選べるわけがないだろう!!」
陸は怒鳴りつけるように言ったが、アハシマはアマツの言葉を無視して部屋を出ていった。
◇
またまた時間がかかってしまい、申し訳ないですm( __ __ )m
何とかリズムを取り戻したいのですが、なかなか上手くいかず……。
懲りずに読みに来ていただけると、とても嬉しいです。
次回はちょっとでも早くお届け出来るように頑張ります!
急に寒くなってきましたので、お体には気をつけてくださいね。
にほんブログ村