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「最初からこうしていれば良かったんだよな……」
 足場の悪い岩場をくだりながら、陸は思わず呟いた。
 これまでも何度か逃げ出すことは試みてみたものの、本気になってやったことはなかった。
 洞窟の構造がよく分からないということもあったし、常にアハシマやヒルコの手下たちが見張っていて、逃げ出す隙がなかったからだ。
 今回はアハシマがヒルコに呼ばれるのを待ち、見張りに残された子鬼に適当な用を言いつけ、その隙に閉じ込められていた部屋から抜け出してきたのだ。
 アハシマやヒルコは一筋縄ではないかないが、根の国の住人たちの心根は単純で、少し良心が痛むのを我慢すれば、陸でも上手く騙すことが出来た。
 ただ、アハシマが部屋に戻ってくるまでの時間はそう長くはないはずだ。だから急いでこの洞窟を抜け出し、高天原に帰る道を見つけ出さなくてはならない。
「っていうか……まずは洞窟の外に出ないと……」
 アハシマと洞窟の中を歩くことはよくあったから、その地形についてはわりと理解できているはずだった。ただ、外へ出る道を陸はまだ知らない。だからこれまで通ったことのない道、知らない道を選んで進んだ。
「これ……どっちかな……」
 道が左右に分かれている。今までは行ったことのないほうの道を選んでいれば良かったのだが、今目の前にあるのは、どちらも行ったことのない道だ。
「うーん……右……に行ってみようかな……」
 もうここまで来たら勘で進むしかなかった。
「よし……右に行ってみよう」
「右に行けば断崖絶壁、その下は火の海だ」
「うわっ!?」
 いきなり背後から声が聞こえて、陸は思わず飛び上がった。恐る恐る振り返ると、アハシマが壁にもたれ、腕を組んでいる。
「ちなみに左は行き止まり。大きな岩が入口を塞いでいる」
「へ、へえ……。教えてくれてありがとう……。っていうかお前、いつからいたんだ?」
「ずっとお前の後をつけていた。右に行って断崖絶壁から落られても困るからな。だから声をかけた」
「さすがに下が火の海の断崖絶壁なら、俺も無理して進もうとはしないけどさ……。つか、もっと早く声をかけろよ。性格悪いな、お前……」
「どうやって逃げるつもりなのか興味があったからな」
「ふーん……。どうせニヤニヤしながら楽しんでたんだろ? やっぱり性格悪い、お前」
 陸がそう言ってふてくされると、アハシマは微かに笑った。その笑顔に、陸は驚いた。
「お前でも笑うことなんてあるんだな」
「昔はよく笑った。最近はあまり笑うことはないな」
「昔……」
 かつてアハシマはヒルコとともに、あの高天原に住んでいたのだという。そこを何かの事情で追放されたという話は聞いていた。
 いろんな事情があるのだろうが、陸は完全にアハシマを悪人として見ることができない時がある。ふとした瞬間に優しさを感じたり、本当は良いやつなんじゃないかと思ったりしてしまう。
 気を許してはいけないと思いつつも、どうしてもアハシマに対してはガードが甘くなってしまうところが陸にはあった。
「先へ行ってみるか?」
 アハシマは陸が行こうとしていた右側の道へ歩き出していた。
「そうだな……。どうせ戻ったってすることもないし……」
 一緒に歩いて地形を覚え込んでいるうちに、本当の出口が見つかるかもしれない。陸はそう思い、アハシマの後を追った。



「うわ……。これは……確かに……」
 断崖絶壁から下を見下ろして、陸は言葉を失った。そこからは一歩も進めないほどの断崖で、おまけに下を見れば、確かに火の海……というか、マグマのようなものが吹き上げる海だった。
 ここからは、とてもではないけれども逃げ出すことは不可能だろう。
 知らずにここへたどり着いていれば、うっかり足を滑らせていたかもしれない。アハシマが心配して声をかけてきたのも理解できるような気がした。
「こういうのがあるから……水が温かいんだな」
「そうだな。むしろこの辺りで冷たい水場を探すほうが難しい」
「そうか……」
「他に見たいところがあるなら、連れて行ってやってもいいぞ」
「うーん……」
 見たいところというよりも、陸はこの洞窟からの出口を知りたかった。こんな下にマグマが吹き出しているような場所ではなく、ちゃんと歩くことが出来、高天原への帰り道につながる出口だ。けれども、そんなことを言ってみたところで教えてくれることもないだろうけれども。
「今日はもういいや。今度またどこかに連れて行って」
「ああ」
 意外にもアハシマは素直に応じたので、陸は少し驚いた。陸がまた逃げ出すことを警戒したりはしないのだろうか。アハシマは本当に陸に対して厳しいのか、優しいのかよく分からない。
 陸がそんなことを考えていると、アハシマが思い出したように口を開いた。
「そういえば……まだ返事を聞いていなかったな。どちらにするんだ?」
「まだ決めてないよ。そんなに簡単に決めれるわけ無いだろ」
「時間はあまりないぞ。アマツが接触してきている」
「え……」
「薄々、ヒルコの仕業ではないかと疑い始めているようだな。いろんな伝手をたどって調べているようだ」
「そ、そう……」
「このままでは時間切れで、人質になることを選ぶしかなくなるぞ。ヒルコは具体的な交換条件を考え始めているようだし」
「ちょ、ちょっと待てよ……」
「アマツが今の身分と立場を守れるかどうかは、すべてお前次第だな」
「おい……卑怯だぞ……」
「卑怯ではない。これは正当な取引だ」
「何が取引だよ……。くそ……」
「まあ……アマツを助けてやりたい気持ちがあるのなら、返事を急ぐことだな」
「俺……お前のこと少しだけいいやつかなって思いかけてたけど。やっぱり嫌いだ」
「こちらも、お前に好かれようなんて虫の良いことは考えていない。嫌いで大いに結構だ」
「…………」
 どちらも選びたくないから、何とかして逃げようと考えた。けれども、逃げることが出来ないのなら、陸はどちらかを選ばなくてはいけない。人質となり、アマツが助けに来てくれるのを待つのか。それとも、アハシマのものになり、アマツに忘れ去られるのを待つのか。
 要するに、アマツに我慢をさせるのか、それとも陸が一人で我慢をするのかということだった。それならば答えは決まっている。けれども、まだふんぎりがつかないのだ。
「もう少し時間が欲しい。でも、時間切れになる前に教えてもらえると助かる……」
「まあ、そのぐらいのことはしてやるさ」
「あと一つ、聞いたい。ヒルコはどうなんだ? あいつはアマツを貶め、高天原に戻ることを望んでいるんじゃないのか? もしも俺があんたのものになるって言っても、ヒルコはそれで納得しないんじゃ……」
「それは大丈夫だろう。ヒルコが望むのはアマツの不幸。お前が俺のものになれば、それだけで彼女の溜飲も下がるだろう」
「本当か? 絶対にアマツには何も手出ししないんだな? お前も……そしてヒルコも」
「それは約束する。ヒルコにも約束させる。もう一つ言うと、ヒルコには高天原に代わる土地と宮城を与えてやるつもりだ。以前からこの洞窟での暮らしに不平を言っていたからな」
「あんたにそんなことが出来るのか?」
「出来る。だからヒルコは俺に逆らえないんだ」
 改めて変な兄妹だと陸は思った。言葉使いやら態度から見ると、ヒルコのほうが立場が上で、アハシマはそれに従っているという印象を受けていたのだが。
 この二人の間にあるものが何なのか。陸は少し知ってみたいと思った。



毎日の更新は難しいですが、少しずつ頑張っていきます。
いつも読みに来てくださってありがとうございます(=^0^=)

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EDIT [2012/12/03 10:48] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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