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 上昇が止まったと思った瞬間、いきなり体を引っ張っていた力がなくなり、陸の体は放り出された。
「うわっ!?」
 どさっという音とともに、陸は体をしたたかに打ち付けた。どうやらどこかに落ちたらしい。
「いてててて……」
 痛みに呻きながら、陸はゆっくりと顔をあげた。
「え……?」
 そこは陸の知っている場所……いや、知っている世界ではなかった。
 まるでアジアの観光地を思わせるような極彩色の色がまず目に飛び込んできた。
「な、なに……?」
 陸の頭は完全にパニックになっていた。
(こ……ここはどこ?)
 陸は目をまん丸に見開いたまま、辺りを見回した。
 目の前には妙な服を着た者たちが立っていて、陸のことを見つめている。
 韓国や中国の映画に出てきそうな色鮮やかな着物だが、実際に陸が見たことのあるものとは少し違う。
 陸が今いるその広間のような場所も、とても日本の建物とは思えなかった。エキゾチックな細工があちこちに施された柱や壁は、まるで映画のロケ現場にでも紛れ込んだみたいだった。
 特に目立つのは、龍の彫り物や鳳凰を象ったような飾りだった。
 陸は龍や鳳凰をよく見たことがあるわけではないが、好きなマンガによく出てくる生き物だったから、すぐにピンときただけのことなのだが。
「これか?」
 いきなり頭の上から声が降ってきた。陸は慌てて顔を上げる。しかし、座り込んだ陸が見上げてもその男の顔は見えない。よほどの長身なのだろう。
「は、はい……おそらく……」
「ふむ……」
 男はいきなりしゃがみこんだかと思うと、陸の顔を覗き込むようにして見つめてきた。
 目つきの鋭さが際立つその男は、周りの者たちに比べ、ひときわ豪華な衣服を身につけている。顔は精悍という印象が強いが、羨ましいほどに整った風貌をしていた。
「着ているものは変わっているが、顔は悪くないな」
「あ、あの……」
「良いぞ。これに決めた」
「あ、あの……!!」
「ちゃんとしたものを着せてやれ」
 男はそう言って立ち上がり、その場を離れようとした。
「ちょ、ちょっと待てよ! な、何なんだこれは? ここはどこなんだ? お前らは何なんだ?」
「アマツさま、私が説明しておきます」
 陸と男の間に割って入ってきたのは、髪の長いまるで女のような顔をした少年だった。陸よりもひとつかふたつぐらい年下に見える。
「いや。説明は俺がやろう」
 アマツと呼ばれた男はそう言って再びしゃがみこむと、その鋭い目で陸の顔を見る。
「今……この高天原は非常事態だ。ついてはお前の力を借りたい」
「は……」
「これで分かったか?」
「分かるわけねーよ!」
 口を挟むように声をあげたのは、先ほどの少年だった。
「要するに、貴方は選ばれたのです。私がこの四方の世界に呼びかけ、貴方を探し出し、ここへ呼び寄せました」
「さっぱり分からないんだけどさ……」
 苛立ちをつのらせる陸がさらに問い詰めようと思った瞬間、バタバタと広間に入ってくるものがあった。
 兵士のような格好をしたその男は、息を切らせながら広間に駆け込み、アマツの前に跪いた。
「も、申し上げます! 国境沿いの村にまた八岐大蛇が……」
「被害は?」
「村はほぼ全滅かと……隣村に助けを求めに走った村人も先ほど力尽きて……」
 兵士は目を伏せ、肩を震わせている。どうやら泣いているようだ。
「分かった。さがって良い」
 その場の雰囲気が何だか重苦しい。
 陸は抗議の続きをしたかったが、どうやらそれどころではなさそうだ。
 アマツは陸を振り返ると、厳しい顔のまま告げる。
「つまりそういうことだ。時間がない。こうしている間にも、また被害が起こるかもしれぬ。お前……名は何と言う?」
「……陸……だけど」
「陸、今はともかくお前の力が必要だ。おとなしく従ってくれ」
 どこか苦しげな顔でそんなことを言われると、陸は何も言えなくなってしまった。

 陸は広間から別の部屋に移され、そこで用意されていた湯を使って体を綺麗に洗うように言われた。
 綺麗に洗えと言われても、今朝もシャワーを浴びてきたばかりなので、それほど汚いとは思わないのだが……。他人から見ると、汚れているようにでも見えるのだろうかと陸は少し気分が悪かった。
 おそらく着るものが高価なので、それで体を綺麗にしろという意味だろうと受け取り、陸はおとなしく従った。
 体を洗い終えた陸が着せられたのは、広間で他の者たちが着ていたものに似ていたが、さらに豪華なもののようだった。
 時代でいうと、奈良時代あたりの衣服に似ているだろうか。布を何重にも重ねる衣服は歩くのも大変なほど不便なものだった。
 あらかじめ着方を聞いておいて良かったと心底思いながら、陸は最後の帯を結んだ。
「ふう……これでいいのか。で……いったい何を手伝うんだ?」
 陸はさっぱり事情が飲み込めないままだった。
 本当なら今ごろは彰彦と一緒にラーメンを食べているはずだったのに。彰彦は突然姿を消してしまった陸のことを心配しているかもしれない。万が一にも捜索願なんて出されていたらどうしよう……。陸の両親は基本的には放置主義だが、さすがにいきなり姿を消したとなれば心配もするだろう。
 いろんな不安が頭の中をよぎってしまう。
 いったい何をどう間違えてこんなことになってしまったのだろうか。
 ため息をつきながら、誰かが迎えに来るのを待っていると、扉のほうが開く音がした。
「着替えは済みましたか?」
 入ってきたのは、先ほどアマツという男の傍にいた少年だった。
「済んだ。でも、もうちょっと丁寧に事情を説明してもらえると助かるんだけど……」
 あのアマツと呼ばれた男よりも、この少年のほうが聞きやすい気がしたので陸は聞いてみた。
「俺、明日も学校あるし。家にも何も言ってきてないし。帰れないとマジで困るんだけど」
「大丈夫です。明日には貴方をお帰しできると思います」
 少年の表情はあまり変わらない。愛想笑いのひとつでもしてくれれば、陸の気持ちも少しは和らぐのにと思うのだが。あまり感情を表に出すタイプではないのかもしれない。
「つーか……友達も放ったらかしにしてきてるし……出来たら明日とか言わず、用が済んだらさっさと帰して欲しいんだけど……」
「そうですね……でも、どんなに早くても明日になってしまうと思います。国の大事ですので、ご了承いただければ……」
 丁寧にそんなことを言われてしまうと、性格が基本的にお人好しの陸は何も言えなくなってしまう。何となく一晩ぐらいなら仕方がないかと陸は思い始めていた。
「ま、まあ……明日でもいいけど。で……俺、何をすればいいわけ? はっきり言って何もできないし、八岐大蛇なんて物騒なものを退治したりなんて、もちろん出来ないぞ」
「そういうことではないのです。ただアマツさまと交わって頂ければ……」
「え……」
(ま、交わる? 交わるってどういう意味だ?)
「アマツさまの力を最大限にまで発揮させる方法はそれしかありません。八岐大蛇は今のアマツさまの力では倒すことが出来ないのです」
 八岐大蛇を倒すことが出来るとかそういうことはどうでも良くて、今の陸にとっての重大時はアマツと交われと言われたことのほうだった。
「あ、あのさ……交わるって……その……ええと、男と女がするようにそういうことをしろってこと?」
「ええ……アマツさまと寝所を共にしていただき、その後はアマツさまにすべてお任せすれば大丈夫です。貴方は特に何もしなくても構いません。おとなしくされるがままになっていれば……」
「いや、されるがままって言われても……」
 寝所で交わるとなれば……要するにあのアマツという男と寝ろということなのだろう。どちらが抱くのかという問題はさておき、陸にとって男同士のセックスは論外な話だ。
「悪いけど、今すぐ帰してくれ。他のことなら俺に出来ることぐらい手伝って帰ろうと思ったけど、やめた」
「どうしてですか?」
「どうしてですかも何もあるか。男と交われなんて出来るわけないだろ!」
「相手はアマツさまですよ」
「アマツだろうが何だろうが、俺は男と交わったりしない!」
「そんな人もいるのですね……」
 少年は心の底から驚いたような顔をしている。
 アマツがこの世界で身分の高いものか何か知らないが、男に喜んで抱かれる男がいるなんて想像もしたくない。
「とにかく、そういうことなら帰る。俺の制服、返してくれ。着替えるから」
 湯を使う前に服を脱いだとき、陸の衣服はどこかに持ち去られてしまっていた。さすがにこんなド派手な衣装で元の世界に戻るわけにもいかない。最悪の場合はこのまま帰っても良いが、出来れば元の制服を着て帰りたい気持ちだった。
「そういうことでしたら……元の世界にお帰りいただくには、貴方の役割を果たしていただくことを条件にしましょう」
 少年は可愛らしい顔をしているくせに、とんでもなく横暴なことを言い出した。
「お、おい……それって脅迫かよ?」
「どう思われても構いません。今は国の一大事ですので、貴方に帰っていただいては困るのです。どうしますか? 永遠にこの国に捕らわれて過ごしますか? それともたった一晩辛抱していただき、その上でお帰りになりますか?」
 気の弱そうな育ちの良い少年だと思っていれば、相手はとんでもない食わせ物だったようだ。
「あのアマツってやつ呼んでこいよ。あいつと直接話しをする」
「していただいても結構ですが、答えは同じだと思いますよ。実際に貴方を元の世界へ戻す力を持っているのは、この高天原では私だけですので」
「くぅ……卑怯者め……」
「お部屋でアマツさまがお待ちです。ご案内しますのでどうぞ」
(こうなったら……あのアマツという男に直談判してみるしかないか。どうなるか分からないけど……)
 陸はそう思い直し、少年の後を負った。



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EDIT [2012/10/04 18:32] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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