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 極彩色に彩られた宮城の広間は騒然となっていた。
 人が慌ただしく出入りし、あちこちで悲鳴にも似た声が響いている。
 その広間の中央で、ふたつの人影が難しい顔をして向き合っていた。
 一人は長身でしっかりとした体躯の成人した男で、身なりはとても良い。もうひとりはまだ成人していない少年の面影を残しており、服装は神職の者が着るようなものを着ている。
「なぜ、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が……?」
「分かりません。彼らの住まう根の国で何か異常でもあったのでしょうか……」
「何か方策は?」
「アマツさまのお力にお縋りするしか……」
 少年の言葉に、アマツと呼ばれた男は苦い顔をする。
「俺はこの高天原(たかまのはら)を与えられた時に力の多くを対価として献上した。おそらく八岐大蛇を倒すだけの力はあるまい」
「いえ。限定的ではありますが、ある方法を使うことで、アマツさまはある程度のお力を一時的に取り戻すことが可能です」
「ほう……一時的にというのはどういうことだ?」
「一度力を使ってしまうと、もとのお力に戻ってしまいます。ですが、その時だけは以前のようなお力を使うことが可能です」
「そのためにはどうすればいい? 何が必要だ?」
「純潔なるものと交わることが必要とされています」
「純潔なるもの?」
「はい。この場合、女人ではいけません」
「男か?」
「はい」
「純潔なるもので、しかも男というのは、どう選べばよい?」
 アマツが険しい視線を向けると、少年のほうは顔を赤くし、遠慮がちに口を開いた。
「あ、あの……せ、僭越ながら私が務めさせていただいてもよろしいですが……」
「お前がもっともその相手に相応しいと?」
「い、いえ……そういうわけではないのですが。非常時ですし、私は神官ですから、他の者よりは純潔に近いと自負しております」
 自分の決意をはっきりと告げるように、少年はアマツ言った。
「駄目だ。もっとも俺に相応しい相手を選べ」
「アマツさま……」
 少年は悲しそうな目で主を見つめる。
 その視線に気づいたアマツは、なだめるように少年の頭を撫でた。
「別にお前が悪いと言っているわけではないのだ、トミビコ。お前のその決意はありがたい。だが今は非常時だ。非常時であるからこそ、確実にもっとも相応しい相手を選ぶ必要があると思うが、お前はどう思う?」
 説き伏せるように主に言われた言葉に、トミビコは目を伏せる。
「はい、確かにアマツさまの仰る通りです。出過ぎたことを申しました」
 素直に謝罪したトミビコに、アマツは優しい顔で微笑んだ。
「それで、何か選定の方法は?」
「あるにはありますが……」
「ならばそれをやれ」
「ですが、懸念されることもあります」
「懸念されることとは?」
「必ずしも高天原の者の中から選ぶということはできません」
「ふむ……しかし、確実にもっとも相応しいものを選ぶことは出来るのだろう?」
「はい。それは確実に」
「では、その方法でやれ」
「良いのですか?」
「構わん。もしも高天原以外の者が来たとしても、何とか説き伏せてしまえば良い。国の非常時だ。細かいことは気にしていられない」
「分かりました。では準備します」
 ようやく長かった試験期間が終わり、玉城陸(たまき・りく)は親友でクラスメートの新庄彰彦(しんじょう・あきひこ)と一緒に帰路につく。
「あ~、英語やべー……」
「またか……」
 まるで小馬鹿にしたように呟く彰彦の言葉に、陸は思い切りむくれた。
「またかとか言うなよ。日本人は日本語が喋れりゃいいんだよ!」
 ふてくされたように陸が言うと、小学生の時から成績優秀だという彰彦は呆れたようにため息をつく。
「今どき英語ぐらい出来ないと、就職もやばいぞ」
「就職なんて大学卒業した後じゃん。俺は絶対に英語が必要ない仕事を選ぶぞ!」
「大学も文系を選ぶんだったら英語は必須だろう」
「う……で、でもまだ入試までは一年以上あるし……」
 陸にとって英語は天敵だった。
 彰彦はすべての科目において陸よりも数ランク上だったが、中学時代に一時アメリカにいたということもあり、英語は得意中の得意なのだ。
 陸としては、帰国子女の彰彦に自分の気持ちが分かってたまるか、といつも思っている。
「それよりさ、せっかく試験も終わったんだし。どっかで何か食って帰ろうぜ」
 気を取り直すように言った陸の言葉に、彰彦も乗ってきた。
「ああ、そうだな。久しぶりにラーメンでも行くか?」
「お、いいね! 行こう行こう!」
 帰宅途中の女子たちの視線が、チラチラと彰彦に向けられる。彰彦は帰国子女な上に背が飛び抜けて高く、おまけに顔は芸能人顔負けのイケメンだ。視線が集中するのも無理はないだろう。
(それに比べて俺は……)
 彰彦と並んで歩くとき、頭脳的なコンプレックスよりも、見た目的なコンプレックスを陸は強く感じる。
 陸の身長は百七十センチ弱。顔かたちはといえば、整ってはいるがどちらかというとカワイイ系。日本人だというのに髪の色素は薄く、色を抜いているとか染めているとか誤解を受けることも少なくない。肌の色も頑張って夏に日焼けしても、冬にはすぐさま白く戻ってしまう。男らしさというものが、欠片もない自分の見た目は正直に言ってあまり好きではない。
「どうした?」
 彰彦の問いかけに、陸は内心で考えていることを悟られないように、わざと明るい声をあげる。
「べ、別に、何でもない。で、今日はどうする? つけ麺にする? それかとんこつのこってりラーメンにする?」
「久しぶりにとんこつでもいいな」
「よし、とんこつこってりラーメンに決定!」
 勢いをつけるように片手を上げた瞬間、陸は動きを止めた。
『――』
「え……?」
 何かが聞こえたような気がしたからだ。
 陸はきょろきょろと首を動かして周りを確認する。彰彦が怪訝そうに陸を見ていた。
「どうしたんだ?」
「今……何か聞こえたような……」
 はっきりと聞こえたわけじゃないけど、かなり耳元で誰かの声が聞こえたような気がしたのだ。その声は何となく自分を呼んだような気がしたのだけど。
「お前、今なにか喋った?」
「喋ってないぞ」
「そっか……じゃあ、空耳かな」
「試験勉強で疲れてるんじゃないか……」
「そ、そうかな……」
 確かに昨夜は英語を死ぬほど勉強したので、頭も相当に疲れているという自覚はあった。
「大丈夫か?」
「う、うん……ごめん」
「疲れてるなら、ラーメンは明日にするか?」
「いや、大丈夫だって! 行くぞ、ラーメン!」
 不安を払拭するように勢いよく足を踏み出した瞬間、上の方から体を持ち上げられるような感覚がした。
「う、うわっ!?」
 体が持ち上がる……どころではなかった。
 気がつくと陸の視点はまるでエレベーターで上ってるみたいに、どんどん地面から離れていく。
 あまりにもその上昇の速度が速く、彰彦がそれに気づいたのかどうかさえ確認できなかった。
「な、なんだこれ~っ!?」
 ぶわっと浮き上がる感覚がずっと続き、あっという間に地面が見えなくなり、陸の体は雲までも超えてしまった。
「わー、ちょ、ちょっとなんだこれ~ッ!?」
 陸は叫んだが、その体はひたすらに上昇を続けた。




お久しぶりでございます!
少しの時間のゆとりとともに、創作意欲も湧いてきましたので、新しいお話をスタートさせることにしました。
毎日の更新が無理な日のほうが多いと思いますが、まったりとお付き合いいただければ幸いです。
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EDIT [2012/10/04 18:26] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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