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「トミビコ! あんた何考えてるのよ!」
「申し訳ありません、ヒルコさま……」
 トミビコが深く頭を下げた相手は、見た目にはまだ年端も行かない少女だった。おそらくトミビコよりも年下だろう。
 少女は恐ろしいほどに愛くるしい顔をしており、にこりと微笑めば、どんな大人もかなわないと思えるほどの美少女だ。
 しかし今はぷうっと頬をふくらませ、少し機嫌が悪い。
「あんたが余計な手出しをするから、私の可愛いオロチがやられちゃったじゃないの! なんでアマツ兄さまに力を貸したりするのよ!?」
「す、すみません……何か対処法をと言われ仕方なく……それに、まさか術が成功するとは思わなくて……」
「出来ませんって最初から言えばよかったのよ。本当にあんたは気が利かないんだから!」
「はい……」
「そんな涙目になって訴えたって同情するのはアマツ兄さまぐらいのものよ。私にはそんなの効かないんだからね!」
「そ、そんなつもりは……ないのですけど……」
「ともかく、次はこんなこと体たらくでは困るわよ。わかってるわね?」
「はい……承知しております」
「本当に承知してるのかどうか心配だけど……高天原に行けるのはあんただけなんだから、しっかりやってちょうだい」
 ヒルコが厳しく言い放つと、トミビコの姿はまるで逃げるように光に溶けて消えた。
「まったく……本当に役たたずなんだから!」
 ヒルコはトミビコが消えたほうに毒づくと、大きな椅子に勢いよく腰を下ろした。

 あれから一週間……日にちが経てば気持ちも薄れるものだと思っていたのだが、日にちが経てば経つほど、陸の中のアマツへの思いは強くなっていた。
 気がつくとアマツのことばかり考え、あの夜のことを思い出してしまうのだ。きっと今は、あの夜以上にアマツのことを好きになってしまっている気がする。
 二度と会えないのだから、さっさと忘れてしまいたいのに。
 気がつけば、あの夜のことばかり考えている。
 まるで惚れ薬か何かでも飲まされたみたいだと陸は思う。
「はぁ……」
 この一週間の間、何度ため息をついただろう。
(あと十日もしたら……もう少し忘れられるかな……)
 これまで生きていた中でも、何度か失恋はしてきた。けれども、どの失恋も時間とともに良い思い出に変わっていった。
 アマツとの思い出も、もう少し時間を経れば良い思い出に変わるだろうか。
 ただ、これまでの失恋と違うのは、体を重ねてしまったということだ。ただの思いだけの失恋とはわけが違う。
 セックスなんてただの行為だと思っていたのに。実際にしてみると、体だけではなく、心までアマツに奪われてしまったようだった。
 だから日にちが経つほどに、思いがつのってしまうのかもしれない。
(こんなことなら、あの世界への行き方とか聞いておけば良かったな……)
 抱かれている時はそんなことなど考える余裕もなかったし、その後は意識のないうちに元の世界に戻ってきていたから、自分の気持ちを整理する時間すらなかった。
「じゃあな、陸。また明日」
「あ、う、うん」
 彰彦の声で陸は我に返った。きっと彰彦が何度か陸に話しかけてくれていたかもしれないと思うと、何だか申し訳ない気持ちになる。
「明日は俺も時間あるし。久しぶりに買い物でも行こうぜ」
「そ、そうだな」
 陸を気遣うように微笑んで、彰彦は塾に向かう。週に三度、彰彦は有名な進学塾に通っている。
 彰彦もある程度の事情は理解してくれているから、もう無理にあの夜の話を聞こうとはしない。
 その代わりに、心配してくれているのか、しょっちゅうメールをくれたり、食事や買い物に誘ってくれる。
「友達にも心配かけてばかりじゃダメだよな……」
 何とかして元気を出そう……そう思いつつも、陸はまたため息をついていた。

「また、化物が?」
「はい……今度は鬼です。一つ眼の……。ちょうど農作業をしていた多くの農民を食べてしまったそうです……。腹が膨れると鬼は消えたらしいのですが、倒したわけではないので、また現れるかもしれないと民は恐怖して外に出ることもできないとか……」
「ふむ……」
 アマツは厳しい顔になる。しょっちゅう村に降りて行っては村人たちと気さくに話をするアマツは、食べられてしまった農民や恐怖に震える村人たちのことを考えたのだろう。
「先日倒した八岐大蛇と何か関係が?」
「よく分かりませんが、関係はあるかもしれません。どちらもこの高天原に存在しない生き物ですから」
「八岐大蛇の次は一眼鬼か……。ここまで続くと、偶然迷い込んだというものではないだろうな」
「そう……ですね。誰かが意図的に送り込んでいる可能性も考えられますが……」
「考えられるのは、根の国もしくは中津国(なかつくに)の誰かか……」
「でも、いったい何の目的でこんなことをするのでしょう……」
 トミビコの言葉に、アマツは苦い笑みを浮かべる。
「俺が高天原を賜ったことを面白くないと思っている者は少なくはないだろう。心当たりは多すぎて想像もつかない」
「そうですね……」
「出てきたものなら、倒すしかないが……またあの方法を使うことは出来るのか?」
 アマツの言葉に、トミビコは思わず顔を曇らせる。
「できますが……お相手が……」
「陸を呼び戻すことは?」
「それは……陸さまはもう純潔ではありませんので……」
「俺にとっては純潔だ。俺以外の者と交わったというのならともかく」
「でも……出来れば誰の手もついていない者のほうが良いと思います……」
 トミビコがそう進言すると、アマツは黙り込んでしまった。どうやらトミビコの言葉に不満があるらしい。
「アマツさまはどうしても、陸さまが良いと?」
「そのほうが良いと考えている」
「しかしアマツさまは前回、もっとも相応しいものをと仰られました。今回の場合、申し訳ありませんが、もう純粋に純潔ではないという点において、陸さまはアマツさまにもっとも相応しい相手ではないと私は考えます」
「俺は今でももっとも相応しいのは陸だと思っている」
「ですが……」
 渋るトミビコにアマツは言い放つ。
「では、前回と同じようにもう一度、もっとも俺に相応しいものを呼んでみろ。陸が来るはずだ。来なければそれに従ってやる」
「本当にそれで良いのですか?」
「構わない。やってみろ」
「はい。分かりました」



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EDIT [2012/10/09 08:17] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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