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「い、たたた……」
体の奥の疼くような痛みで、陸は目を覚ました。
「あれ……?」
目を開けた陸の目に見えてきた風景は、あの高天原とかいう場所のものではなく、自分の家の天井だった。
陸は自分の衣服を確認してみる。いつも着ているパジャマをちゃんと身につけていた。
「夢……だったのかなぁ……」
陸は起き上がろうとして、また腰の辺りの鈍痛に呻いた。
あんな夢を見たから、腰がこんなに痛むのだろうか。こういう痛みを感じたのは生まれて初めてだ。
(あんな夢……)
高天原とかいう場所で、陸がアマツとかいう男に抱かれるという夢だった。それも愛情があるわけでもなく、いわゆる割り切ったセックスだった。
「…………」
まだ体の中に何かが入っているような感じがする。
夢にしてはやたらとリアルな夢だった。
その上にこうして体の痛みまで忠実に残っているというのは、いったいどういうことなのだろう。
「陸~、早く起きなさい」
乱暴に部屋の扉が開けられ、母親の恵子がずかずかと部屋に入ってくる。
「なんだ、起きてたの?」
「あ、うん……今さっき起きた。でも、ねむだる……」
「夜遊びして帰ってくるからよ。また彰彦くんとでも遊んでたの?」
呆れたように言う恵子のその言葉に、陸は驚いたように目を見開いた。
「え? 俺もしかして朝帰り?」
「正確な時間までは知らないわよ。私や父さんが寝てる間に帰ってきたんでしょ?」
「そ、そうか……」
「まあ、1時は過ぎてたと思うわよ。試験が終わったからって、夜遊びはほどほどにしなさいよ」
さらりと小言を言って、恵子は陸の部屋をバタバタと出て行く。
「うーん……やっぱり夢じゃなかったのかな……」
でも、いったいいつ帰ってきたのだろう。着替えをした覚えもなければ、ベッドに入った記憶もない。
けれども……。
(体のあちこちに、アマツに触られた感触が残ってる……)
あれが夢だというのなら、あまりにもリアル過ぎてこわい。けれども、実際にあったことだと思うには、あまりにも不可思議すぎる。だいたい街なかでいきなり体が持ち上がって上昇し、気がついたら見たこともない場所にいたなんてことが、実際に起こりうるものなのだろうか……。
「うーん……」
陸は唸ってみたものの、答えは見つからなかった。
ただ、夢だったかどうかは別にして、アマツとの寝台の上での行為を思い出すと、恥ずかしさとともに胸が締め付けられるような気持ちになる。
女の子とすら経験がないのに、男を相手に経験してしまったのだ。
しかも、たった一度だけという条件付きで、陸はアマツに抱かれた。最後のほうの記憶は曖昧だが、アマツは激しく陸を揺さぶりつつも、ずっと大切に扱ってくれた。
体は辛かったけれども、心はこれまでに味わったことのない幸福感を味わっていたのだ。
(あれが夢だって……?)
今も目を閉じれば、アマツの手が自分の肌に触れ、唇と唇が重なり合い、彼が体の中に入ってきたあの感覚がリアルなほどに蘇るのだ。
夢であるはずがない。そうは思うのだが……。
陸は胸のあたりを抑えた。なぜだかズキズキと痛い気がする。
ただの夢だったら、どうしてこんなに胸が痛いのだろう。
「でも……夢だろうが何だろうが、どうせ一度きりって話だったし……」
(だから……もう二度と会うこともないんだし……)
最初からお互いにそのつもりだったはずだ。陸自身も納得して行為に及んだはずだった。なのに何故、こんなにも悲しい気持ちになってしまうのだろう。
うっかりと目の奥が熱くなりかけて、陸は慌てて首を横に振った。
「夢だ、夢。全部夢だったんだ」
そう思うのが、自分にとっても、そしてアマツにとっても一番良いだろうと思った。
「陸、お前最低だな」
待ち合わせの場所でいきなり不機嫌そうな声を投げかけられ、陸はぎょっとする。
(そ、そういえば……ラーメン食べに行く途中だっけ……っていうか、俺、あの時どういう状態だったんだ……?)
「ご、ごめん……え、ええと……」
「急にいなくなるし、携帯に電話しても出ないし。俺しばらくお前のこと探してたんだぞ。どこかに行くなら行くで、メールぐらい入れろよ」
「ご、ごめんなさい……」
「で……首尾はどうだったんだ?」
「しゅ、首尾って……?」
「首のとこ、キスマークがついてるぞ」
「へ……」
言われて慌ててミラーで確認すると、確かに首筋にキスマークのような赤い痣があるのが見えた。昨夜のことを思い返してみると、確かにアマツは何度も陸の体のあちこちに吸い付いてきていたような記憶がある。
今朝はいろいろと考え事をしていたせいで、キスマークがあることに気がつかず、いつも通り制服のネクタイを緩めたまま出てきてしまったのだった。
「今日はちゃんとネクタイ締めておいたら? いくら何でもキスマークを見せびらかすのはカッコ悪いと思うぞ」
「こ、これは……その! あ、む、虫に噛まれて……」
慌ててネクタイを締めながら言うと、彰彦は呆れたようにため息をついた。
「はいはい。っていうか、どんなに独占欲の強い子だったんだよ。まあ、お熱い夜だったようで」
彰彦は完全に怒っている……というよりも、これは不貞腐れているのだろうか。
正確に言うと、相手は女ではなく男だったのだが。
けれども、そんなことを言ってしまえば、かえっていろんな誤解を招きかねない。
(っていうか……じゃあやっぱりあれは夢じゃなかったんだな……)
陸の胸がまたズキンと痛む。嘘みたいな夢のような話だったが、昨日のあれは夢ではなく、どうやらいろんな状況を考え合わせてみると、やはり陸は本当に高天原に行き、あのアマツという男に抱かれたのだろう。
「おい、何してるんだよ? 早く行かないと遅刻だぞ」
「あ、ごめん……!」
慌てて歩き出していた彰彦の後を追った。
◇
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