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「はぁ……はぁ……良かった……間に合ったぁ……」
息を切らしながら裏口から店に入り、弘海は乱れた吐息を整える。
昨夜はホッとしたのと、気疲れが溜まっていたのとで、弘海はマンションの部屋に帰るとすぐに眠ってしまった。
起きるともう朝で、そのまま慌てて出かける準備をして、小走り気味に店に駆けつけたのだ。
ショーンはまた国のほうの仕事が忙しいらしく、昨夜は来なかった。
昨夜どころか、またしばらく来れなくなるようだ……という話を昨日リュウスから聞いて、弘海は少し意気消沈していた。
やはり会えないと寂しい。
弘海のほうから会いに行く方法はなく、次にショーンが来るまで弘海は待つしかない。
「仕方ないよね……俺も仕事がんばろうっと」
ロッカールームで着替えを済ませ、いつものように厨房の扉を開けた。
「おはようございま……」
言いかけた言葉は、そのままフリーズしてしまった。
目の前で橘と三芳の唇が重なっていたからだ。
今さら出て行くことも出来ず、そのままフリーズ状態になってしまった弘海を見て、二人は慌てて体を離した。
「お、おはよう、弘海……」
「な、何だ、いつの間に来たんだ?」
「え、ええと、今です。その……何も見なかったことにしますので……」
弘海が慌ててそう言うと、二人はちょっと決まりが悪そうな顔をする。
弘海も何だかここに居合わせてしまったことに、罪悪感を感じてしまう。
もう少し早く来るか、遅く来るかしたほうが良かったのかもしれない。
けれども、三芳がそこにいることが、弘海には嬉しかった。
「三芳さん、今日から本格復活ですか?」
気を取り直すように弘海が言うと、三芳も笑って応じた。
「ああ、そうだ。今日からまた一緒に頑張るぞ。頼むな、弘海」
「はい!」
(良かった……三芳さんが店に戻ってきてくれて……)
三芳が店に戻ってきてくれたのは、弘海にとっては心強く、とても嬉しいことだった。
そしてそれ以上に嬉しいことは、橘と三芳の関係が、男同士という壁を乗り越えて一歩前進したことだった。
さすがに目の前でキスなんてされるのは、ちょっと困ってしまうけれども。
異国の地に戻ってしまうショーンとは違って、二人はいつでも会えるのが弘海としては羨ましい。
特に、しばらくショーンと会えないということが解っている今だと、なおさら羨ましく思ってしまう。
「そういえば……橘さん、もう熱は大丈夫なんですか?」
「うん。昨日早く帰って寝たら朝には下がっていたよ」
「良かった……昨日は本当に辛そうでしたもんね」
「心配かけてごめん……もう大丈夫だよ」
きっと三芳は昨夜、橘に付きっ切りで看病していたのだろう。
今日は三芳の目が少し赤い。
「じゃあ、俺は溜まってる仕事を片付けてくる」
「溜まってる仕事?」
弘海が聞くと、三芳は苦笑する。
「仕入れの管理とか、帳簿関係とか……いちおう健介がやってたみたいだけど、不備がありすぎる。あんなの税務署が抜き打ちで入ってきたら説教食らうぞ」
三芳のその言葉に、橘は肩をすくめる。
「宗助がやってたみたいにやってたつもりなんだけど……いろいろと不手際があったみたいなんだ。記入しないといけないところに記入してなかったり……もう全部宗助に任せてしまうよ」
「それがいいですよ。適材適所ってありますもんね」
「ま、そういうことで、俺はちょっと事務室で仕事してくる」
「はい。いってらっしゃい」
三芳は店の奥にある事務室へ向かい、橘と弘海はパンの仕込みに取り掛かった。



結局、ショーンが次にやって来たのは、一週間後のことだった。
今回もいろいろと国のほうでトラブルがあったらしく、なかなか国を出ることが出来なかったらしい。
一週間ぶりに弘海の前に姿を見せたショーンは、さすがに少し申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめん……なかなか来れなくて……」
「気にしてないよ。ショーンは国の人たちのために働いてるんだから」
「そう言ってもらえると気は楽だが、少し寂しいな……」
ショーンは苦笑いをする。
弘海は慌てて首を横に振った。
「あ……ええとね……違うんだ……そうじゃなくてね……」
「うん?」
「本当はちょっと寂しかったよ……でも、ショーンは俺だけのものじゃないし、国の人たちもショーンのことを必要としてるのが解るから……ワガママは言っちゃ駄目だなって思ってるんだ……」
弘海のその言葉にショーンは嬉しそうに笑い、弘海の体を抱きしめた。
「ショーンの匂いだ」
ショーンの胸に顔を埋めたまま、弘海はその匂いを嗅ぎ、幸せな気持ちになった。
ショーンの匂いは猫の匂いに似ている。本人が猫になったりするのだから、匂いも共通しているのかもしれない。
干したばかりの布団のお日様の匂いにも似ている。
弘海は猫のその匂いが大好きだったから、最初からショーンのその匂いに惹かれていた。
「そういえば……あの二人はどうなったんだ?」
上からそんな言葉が降って来て、弘海は思いだしたように顔を上げた。
「あ、そうそう、その報告を先にしなくちゃ」
弘海はショーンにこの一週間に起こった出来事を話して聞かせる。
あの夢の次の日に、三芳が橘に告白しに行ったこと。
そのことで橘は悩んでしまい、熱を出してしまったこと。
それが原因で三芳が再び店に戻ってくることになり、どうやら二人は付き合い始めたようだということ。
「なるほど……それは良かったな」
「うん。ようやく一件落着って感じ。でも、二人がキスしてるところを二回も見ちゃって……それはちょっと困ったな……」
「何故困ったんだ?」
「うーん……羨ましいっていうのもあったんだけど、二人のことを知ってるだけに何か恥ずかしいっていうか……照れくさいっていうか……うーん……でも、やっぱり羨ましいのほうが大きいのかな……」
弘海が首を捻りながら言うと、その唇をショーンの唇が塞いできた。
「ん……っ……」
強く唇を押し付けられ、舌を唇の合間にねじ込んでこられると、弘海の体からは条件反射的に力が抜けてしまう。
あまり体が強張っていると、せっかくのキスが楽しめないということを、弘海の体はよく理解していた。
「……んっ、ふ……んぅっ」
しばらくの間、弘海の唇を深く貪った後、ショーンの唇は離れていった。
「……っは……ぁ……はぁ……」
まだどこも触れられていないのに、キスだけで弘海の吐息はすっかり乱れてしまっている。
「もう……何の予告もなしにいきなりキスするんだもん……」
「弘海が羨ましいなんて言うからだ」
「羨ましかったのは本当だけど……だって、あの二人は毎日会えるんだよ? 俺とショーンは、毎日会える時のほうが少ないし……」
「今日は会えなかった分の埋め合わせもしよう。お互いに」
「うん……」
弘海は一週間分の思いを込めて、ショーンの体に強く抱きついた。



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