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翌日、いつものように早朝の店に出勤した弘海は、ドキドキしながら厨房の扉を開けた。
そこには、いつものように橘の姿があった。
「おはようございます」
いつもと同じ調子で……と自分に言い聞かせながら弘海は挨拶をした。
「おはよう」
橘もいつもの調子で応じてくれる。
「ええと……今日はいつも通りの仕込みで大丈夫ですか?」
弘海の問いかけに返事が返ってこなかったので、聞こえなかったのだろうかと思い、もう一度同じ事を聞いてみる。
「橘さん! 今日はいつも通りで大丈夫ですか?」
「あ、ああ……ごめん。大丈夫。いつも通りで頼むよ」
「はい、解りました」
どうやら橘はぼんやりとしていたようだった。
傍に近づいた時にその表情を伺ってみると、橘の目が充血しているのが解った。
「橘さん、ひょっとして寝不足ですか?」
心配になって聞いて見ると、橘は苦笑した。
「ああ……せっかくの定休日だったのに、あまり眠れなくてね……」
「そっか……寝不足は辛いですよね」
「休みの日にちゃんと休養しないといけないのに……これじゃ、定休日の意味がないよな」
橘はそう言って笑ったが、顔も何だか赤くて、熱があるのではないかと弘海は思った。
「あ、あの……大丈夫ですか? ひょっとして熱もあるんじゃ……?」
「少し、ね。でも、それほど高くはないし、仕事が出来ないほどじゃない」
「でも、熱があるんだったら、無理しないほうがいいですよ」
「うん……今日は早く帰って眠るようにするよ」
橘はそう言うが、この様子では夜の閉店時間まで体が持つかどうか心配だ。
かといって、橘がいなければ店を開けることは出来ない。
弘海が完全に任されている商品はまだ数種類で、そのどれも橘のチェックを受けなければ店に出すことが出来ないのだ。
夕方まで来れば、残りの仕事を引き受けて……ということも可能だろうが……。
「橘さん……俺、今日は残りますから、夕方の仕込が終わったら橘さんは帰って寝たほうがいいんじゃないですか? 夕方の仕込が終われば、その後は何とか俺一人でも出来ると思いますし……」
「気持ちはありがたいけど、何とか頑張ってみるよ」
その言葉を聞いて、弘海は少し落胆するとともに、申し訳ない気持ちにもなった。
弘海はまだ一人で橘の代わりを出来るわけではない。だから、橘としても心配なのだろう。
自分の力不足が歯がゆい気持ちだった。
「あの……くれぐれも、無理しないでくださいね。俺に出来ることがあったら、何でも言ってください」
「ありがとう」
心配ではあったが、とりあえず店の開店時間までに仕込みを終わらせなければならない。
弘海は自分の仕事に取り掛かった。



昼を過ぎると、橘の不調は目に見えてわかるようになってきた。
時折、体がふらつくようで、作業台に手を突いて苦しそうにしていたり、今も辛そうに、眉間のあたりに指を当てている。
午前中よりも熱が上がってきたのかもしれない。
「橘さん、少し休んできてください。夕方用の分はだいたいメドも立ったし……しばらく俺一人でも大丈夫です」
弘海が声をかけると、橘は少し間をおいて、ようやく気づいたみたいに弘海を見た。
「あ、ああ……ごめん……さすがに寝不足は辛いな。でも、大丈夫だよ」
「大丈夫に見えないです。熱だって、朝よりも上がってきたんじゃないですか?」
「心配しすぎだよ、弘海。大丈夫だから、弘海はちょっと休憩しておいで」
「俺より橘さんのほうが休憩が必要だと思います」
「いや、弘海だって休憩を取っていないだろう? 今日はずいぶん俺の仕事も手伝ってもらってるし……弘海も疲れているはずだ。先に行っておいで」
「でも……」
「本当に心配性だな、弘海は……俺は……」
言いかけた橘の顔が、いきなり沈んだ。まるで力を失ったみたいに橘は座り込んでしまったのだ。
やはり相当に具合が悪かったのだろう。
弘海は慌てて駆け寄った。
「橘さん……!」
「ああ、大丈夫……」
まだ気丈に微笑んでみせる橘だったが、その顔色は明らかに熱っぽい時のもので、少し触れた体も相当に熱かった。
これでは駄目だ……弘海はそう思った。
「少し休んできてください。俺に出来ることは振ってくれたらやりますから」
「ああ……そうだな……」
橘はふらつく体を作業台で支えながら立ち上がる。
「悪いけど……少し頼むよ。何かあったら休憩室にいるから……」
「はい、わかりました。あの……ゆっくり休んできてください」
弘海の言葉に頷いて、橘は厨房から出て行った。
(大丈夫なのかな……本当はもう帰って休んだほうがいいと思うけど……)
何とか休憩に行ってくれて多少ホッとしたものの、あの調子では夜まで……いや、夕方まで仕事を続けるのもかなりきついだろう。
こういうとき、三芳がいてくれれば良いのにと弘海は思う。
三芳がいれば店を早仕舞いするなどのその後の段取りをして、橘も安心して家に帰って休むことが出来るのだ。
弘海ではまだそこまでの段取りが出来ない。
橘が一人で抱えている仕事も多いだろうし、そのすべてを弘海が把握しているわけではなかった。
そのとき、厨房の扉が開いて、まさに想像していた相手が顔をのぞかせたので弘海は驚いた。
「三芳さん……!」
「ああ、ちょっと用を思い出してきたんだが、健介は?」
「あの……休憩室で休んでます」
「そうか。じゃあ、ちょっと行ってくる」
「あ、あの……三芳さん!」
休憩室に向かいかけた三芳を、弘海は引き止めた。
三芳は怪訝そうな顔をして弘海を見つめてくる。
「橘さん……かなり具合が悪そうなんです」
「具合が悪い?」
「はい、かなり熱があるみたいなんです。それに寝不足みたいで……俺が残るので帰ってくださいって言ってもやっぱり俺一人では心配みたいで任せてもらえなくて」
「…………」
「このままじゃ、夜まで持ちそうにないし。でも、俺じゃどうしていいか解らないし……」
完全に弱音を吐いているのだと解っていても、三芳に頼るほかないと弘海は思った。
「さっきも、ここで倒れそうになったんで、休んできてくださいって言って、やっと休憩にいってくれたんです。あの……何とか橘さんが帰ってもらえるように段取りをしたいんですけど、どうしたらいいでしょう……?」
三芳は難しい顔をしたまま踵を返すと、何も言わずに休憩室のほうに向かった。
「だ、大丈夫かな……」
思わず心配になった弘海は、慌ててその後を追いかけた。



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