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二人はしばらくの間、戸惑ったように見詰め合っていた。
やがて、先に口を開いたのは三芳のほうだった。
「ここ……懐かしいな……」
「覚えてるんだ?」
「ああ……毎日一緒に遊んだもんな……」
どうやらこの公園は、二人にとって思い出の場所らしい。
「思い出すと恥ずかしいな……よく宗助はあんな遊びに毎日付き合ってくれたなって今でも思うよ」
「そうか? 俺はけっこう楽しかったけどな」
先に三芳が、ブランコの周りを囲む柵に腰を下ろした。
少し離れた場所に、橘も座った。
「あそこの砂場で……作ってたんだよな」
懐かしむように三芳は目を細め、砂場を指さした。
「何であんな小さい頃からパン屋になろうって思ってたのか、今でもよくわからないよ」
橘はそう言って苦笑する。
「砂をこねて作ったパンの形が、本当によく出来てたもんなぁ……」
「おかげで、女の子にまでからかわれたりしてたよな……宗助が一緒に遊んでくれるようになってからは、からかわれることも少なくなったけど」
「そういや……からかってるやつを怒鳴り倒したことがあったな」
「ああ、あったね。何をそんなに熱くなってるんだろうって、俺のほうがビックリしたよ」
「俺もてっきり感謝されると思ったら、ビックリされてて、そのことに驚いた」
二人は顔を見合わせて笑った。
「そういえば……一緒に遊ぶようになったのは、そのことがきっかけだっけ?」
「そうだな……俺が怒鳴り倒して……お前がビックリして……それでいろいろ話をするようになって……」
「うん、そんな感じだったね、確か。それまでは同じクラスだったのに、そんなに喋ったりした覚えもなかったし」
「俺は何かこいつってすごいなってずっと思ってたんだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。小学生であんなに具体的な夢を持ってたのって、お前ぐらいじゃない?」
「そうかなぁ……自分ではそれが普通だと思ってたけど」
「それがすごいなぁって思ってたんだよ」
「へえ……」
まるで他人事みたいに橘は感心している。
「本当は……お前が店を始めるって聞いた時に、すぐに手伝いたいって思ったんだ。でも、なかなか言うきっかけが見つからなくてさ……」
「そうだったんだ……?」
「ああ……いろいろきっかけを探しているうちに、何だか経営が上手くいってない感じの相談してきたことがあったろ?」
「ああ、そういえば……」
「お前が相談してくれたおかげで、俺はようやくきっかけを見つけることが出来たんだ」
「そうか……」
「だから……新城とのことが解った時……どうしてもっと早くに勇気を出さなかったんだろうって後悔した」
「宗助……」
「健介のことを守れなくて……悔しかった」
「宗助……俺は……」
「でも、全部、俺の気持ちを押し付けるだけだったんだよな。お前にとっては迷惑なことばかりした気がする……」
「そんなことは……」
「俺がいなくなっても……もう二度と騙されるなよ? 良い人の顔をしていても、中身は真っ黒なんてやつは、山のようにいるんだから」
「…………」
「店を辞めても……住む場所が離れても……俺はずっとお前のことを思っているから。だから……何かあったらいつでも頼って来い。遠慮せずに」
「引越しもするのか……?」
「ああ、そのつもりだ。まだどこに行くかは決めていないが……少し東京を離れてみようと思う」
「そうか……」
二人は今の状況を理解しているのだろうか。
夢のようで、夢ではない……現実に時間が流れているけれども、現実にはない場所にいる。
そんな状態でも、二人はまだ自分の気持ちに正直にはなれていない。
いろんな遠慮や、気遣いが、かえって二人の距離感を広げてしまっているような気がする。
弘海はもどかしい気持ちになりながらも、静かに二人のやり取りを見守った。
三芳は立ち去ろうとして思いとどまり、再びブランコの前の柵に腰を下ろした。
橘も立ち去るようなことはせず、懐かしそうに砂場に目を向けている。
「健介……俺……」
何かを言いかけた三芳を、橘は首を傾げて見つめる。
「ああ、やっぱりいいや……」
「え? 何? 言いかけてやめられると気になるよ」
「まあ、そうだよな……でも、忘れてくれ……」
ひょっとすると、三芳は今、橘に告白をしようとしたのだろうか。
弘海は三芳にそのまま告白するように訴えたかったが、必死に堪えた。
二人はすっかり黙り込んでしまい、時間だけが過ぎていく。
「宗助……」
今度は橘のほうが話しかけた。
「俺……本当はお前に……辞めて欲しくない……」
「え?」
「たぶんこれは夢だから……言いたいこと言ってもいいかな?」
「あ、ああ……」
「お前がいなくなったら……本当は俺一人でやっていける自信なんてない。でも、お前のことを考えたら、こんな店に縛り付けておくよりは、家の仕事とか……もっと自分のやりたいこととかやったほうがいいような気がするんだ……」
「…………」
「これまではきっと……俺が本当にどうしようもないから、無理に付き合ってくれてたんだと思うと……引き止めることは出来なかった。でも……やっぱり辞めて欲しくない。ずっと傍にいて欲しい……」
「健介……」
橘はうつむいた。
三芳は何か言いたげな顔をして、橘を見つめている。
弘海はさらにもどかしい気持ちになりながら、二人を見つめた。
タイムリミットは夜明けまで。
もうそれほど時間は残っていないはずだった。
「俺も……これは夢だと思うから、言いたいことを言ってもいいか?」
「うん……」
「俺がお前の傍から離れようと思った一番の理由は……お前のことが好きだからだ」
「宗助……」
「好きだ……恋人にしたい……そういう好きだ。ずっとそういう気持ちだった。でも、言えなかった……」
「…………」
「これ以上、お前の傍にいたら……きっと俺は自分の気持ちをお前に押し付けようとしてしまう。そうなる前に……まだ良い友達に戻れるうちに、離れたかった……」
そう言ってから、三芳は苦い笑みを浮かべる。
「まあ、忘れてくれ。そういうことだから……俺はお前の傍には戻れない。でも、何か俺の助けが必要なことがあれば、いつでも駆けつける。その時は遠慮せずに言ってくれ」
三芳は今度こそ、立ち上がった。
橘は何かを言いたそうな顔をしていたが、三芳が立ち去り始めても、その言葉が出てこないようだった。
「タイムリミットだな」
耳元でショーンの声が聞こえて、今まであった公園の映像はすべて消え、気がつけば夜明け前の空の上にいた。



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