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「宗助が辞めることになったから……」
翌日、出勤していきなり聞いた橘の言葉は、弘海を驚かせた。
そして、驚きの次に感じたのは、憤りだった。
「どうして三芳さんがやめるんですか!?」
「辞めたいって……言うから……」
「橘さんは止めなかったんですか!?」
「本人が辞めたいって言ってるんだから、止めるのも申し訳ない気がしたし……」
橘はそう言って寂しそうに微笑んだ。
「いちおう今月いっぱいはいてくれるらしい。それでいろいろ引継ぎをしてってことになるから……その後は弘海にはちょっと苦労をかけてしまうかもしれないけど」
「俺は……別にいいんです。でも、橘さんは三芳さんを引き止めたほうがいいと思います」
「宗助は……今までもさんざん俺のために頑張ってくれたし……さすがにこれ以上の無理は言えないよ……」
「でも……三芳さんはきっと……橘さんに引き止めて欲しかったんだと思います」
「そんなことは……」
橘の表情は、必死に何かを堪えているようで、橘自身は三芳が辞めることを納得しているような様子ではなかった。
(橘さんだって……本当は三芳さんに辞めて欲しくないはずだ……)
弘海はそう思った。
「あの……橘さんは三芳さんを少しでも引きとめようとしたんですか?」
「いや……それはしていない」
「三芳さんはきっと……橘さんに引き止めてもらいたかったんですよ。俺はそう思いますけど」
朝の準備に取り掛かるのも忘れて、弘海は訴えた。
橘のほうも、作業の手を止めて弘海の話を聞いている。
「橘さん……三芳さんを引き止めてください。きっと今も……三芳さんは待っていると思います……」
弘海の言葉に、橘はやりきれない思いを吐き出すように言った。
「俺にはこれ以上、宗助を束縛するような権利はないんだよ」
「権利とかそういう問題じゃないです。もしも俺だったら……引き止める言葉もかけてもらえなかったら、傷つきます。たったそれだけの存在だったのかって……ただ、俺なら仕方がないと思うんです。でも、橘さんにとって、三芳さんはそんなに軽い存在じゃないですよね?」
「…………」
「橘さんにとって、三芳さんは……大切な存在……ですよね?」
「当然だ。宗助の代わりになるやつなんて、この世のどこにもいない」
橘はきっぱりとそう言った。
「だったらお願いします。引き止めてください、三芳さんを……」
橘は長い間、何かに迷うように黙り込んだ後、軽くかぶりを振って微笑んだ。
「仕事にかかろう。今日は特注が入ってるんだ」
「橘さん……」
もう橘は作業を再開していたので、弘海も自分の持ち場に戻った。

結局、その日、三芳は店に姿を見せなかった。
休むという連絡はあったので、橘が采配をして、何とかその日のスタッフだけで店を回すことは出来たのだが。
帰り間際、リュウスが不安そうな顔をして話しかけてきた。
「三芳さんがやめるって本当ですか?」
「あ、う、うん……もう聞いたの?」
「はい……でも、どうして三芳さんは辞めることになったんですか?」
「よく解らないんだ……俺も辞めて欲しくないんだけど……」
「そうですか……でも、三芳さんがいなくなったら、たぶんこのお店は駄目になりますよね……」
「うん……これまでと同じようにっていうのは、無理だと思う。橘さんの腕は確かだけど……バイトの采配とか、経営とか……三芳さんじゃないと駄目なことが多すぎるし……」
「ですよね……」
「俺だって頑張ろうとは思ってるけど、さすがに製造も販売も営業もっていうわけにはいかないし……」
「僕もお手伝いできることはしたいですけど……でも、基本的には弘海さんのボディガードのついでということで働いていますので……夜までといわれても無理ですし……」
リュウスが日本に滞在している理由は、弘海のボディガードをするためだ。
だから、朝の出勤が多い弘海に合わせてリュウスも朝出勤し、夕方は弘海より少し遅れて帰宅する。
そうすることで、ほとんど四六時中、弘海の安全を見守ってくれているのだった。
「とりあえず……ちょっと帰りに三芳さんのところへ寄ってみるよ。住所は調べれば解るし……」
「何か僕にお手伝いが出来ることがあったら言ってください……まあ、今はショーンさまがいらっしゃるので、ショーンさまお一人で十分だとは思いますが」
「うん、解った。ありがとう、リュウス」

弘海はスタッフ名簿で三芳の住所を調べ、仕事が終わった後、さっそくそこへ向かうことにした。
店を出ると、予想してた通りショーンが待っていてくれたので、ちょっとホッとする。
「何かあったのか?」
「うん……三芳さんが店を辞めるって……」
「辞める?」
「そうなんだ……今朝、仕事に行ったら、橘さんにそう言われて……」
「引き止めても駄目だったのか?」
「ううん、橘さんは引きとめもしなかったみたいなんだ……」
「ふむ……」
「実は俺……今からちょっと三芳さんに会いに行ってみようと思うんだけど」
「俺も一緒に行くか」
「うん……出来ればまた猫になってもらえるとありがたいんだけど……」
「猫か……」
ショーンはちょっと嫌そうな顔をした。
「何か最近……猫になるの嫌そうだよね」
「弘海に悪戯が出来ない」
「そんな理由なの? だったら、さっさと猫になってよ……でさ、もし俺に何か出来そうなことがあったら教えて欲しいんだ」
「猫になったら教えることなんて出来ないぞ」
「教えるのは後ででもいいよ。とにかく、何とかして俺とショーンで出来ることを探したいんだ。ショーンだって、いつまでもこうしてここにいられないよね?」
「まあ……そろそろ戻れと言われてるのを引き伸ばしてはいるが……」
「やっぱりそうなんだ……」
心配そうな顔をする弘海に、ショーンは笑ってみせる。
「しばらくは大丈夫だ。特に今は憂慮するような揉め事もないようだし」
「そっか……」
「すぐまた会いに来る」
「うん……それは解ってるんだけどね……」
弘海が寂しそうに笑うと、ショーンは弘海を抱きしめる。
「ひ、人が見てるよ!」
「気にならない」
「ショーンは気にならなくても、俺は気になるの!」
少し怒ってショーンの体から離れ、弘海はため息をつく。
「いちおう、ここはショーンの国じゃなくて、日本なんだからね」
恨みがましく言った言葉に返事をする者はいなかった。
気がつくと、ショーンの体は消えて、黒猫が一匹、弘海を見上げていた。



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