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その作戦は、定休日の前日、皆が寝静まった頃に決行することになった。
夢のような状態とはいえ、完全に睡眠状態ではないので、橘は翌日も早朝から仕事があることを考えると、やはり定休日の前日が良いということになったのだ。
定休日までの間、三芳は引継ぎのために店を訪れるほかは、基本的にほとんど店には姿を見せなかった。
本気で身辺整理をしているような様子の三芳に、弘海はかける言葉も見つからなかった。
他のスタッフたちも同じようで、三芳には辞めて欲しくないと思うのに、事情がよく解らないから言葉をかけれずにいる。
橘のほうはというと、必要があって三芳と会話をするときは、笑みも浮かべる様子で、傍目には二人が仲たがいしているようにはとても見えない状態だった。
けれども、弘海が毎日目にする橘は、日を追うごとに疲労の度を増していっているのが明らかだった。
普段の橘からは考えられないミスをしたりする。
いつもなら、弘海は信頼して橘の指示に従っているのだが、この数日はそうはいかなかった。
配合がいつもと違い、生地の色がまるで違っていても気づかなかったり、パンの焼き時間を間違えたり。
とうてい店頭に並べることが出来ないようなものを作ってしまうという、あり得ないミスを橘は連発していた。
弘海は神経を凝らして橘のミスを見つけ、それを指摘したり、自分でフォローできるところは黙ってフォローしたりした。
本当は一日も早く作戦を決行したい気持ちだったが、実際に二人の体の負担を考えると、やはり定休日前が良いのだと思いなおし、弘海は定休日が来るのを息をこらすようにして待ち続けた。
そうして迎えた定休日前日。
いったん国へ戻っていたショーンが、約束どおり戻ってきてくれた。
国のほうで、どうしてもショーンの力が必要なことが出来てしまい、急遽帰国することになったのだ。
それが落ち着くまでは国から出ることが出来ないと言っていたので、弘海はショーンがちゃんと戻ってこれるかどうか少し心配だった。
けれども、ちゃんとショーンは約束守ってくれたのだ。
「何とか間に合った」
「おかえりなさい」
「ただいま」
ショーンに抱きしめられ、キスをする。
ほんの数日離れていただけでも、その温もりが恋しくて仕方がなくなる。
一人の時はそういう恋しさや切なさを感じたことはなかった。
最初からそんなものを求めていなかったし、望んでいないと自分に言い聞かせていた。
だから、寄り添う相手が出来たほうが寂しさが増すのだということを、ショーンと一緒になってから初めて学んだ気がする。
本当はもっとキスをしていたかったけれども、弘海は自分から唇を離した。
時刻はもう日付が変わってしまっている。
夜明けまでの時間はあまり残っていなかった。
「始める?」
弘海が聞くと、ショーンは頷いた。
「俺……どうしたらいい?」
「そこにいてくれたらいい」
「それだけでいいの?」
「ああ……ただし、絶対に声を出さないこと。どんな展開になっても」
「わ、解った……」
一度言いつけを破って声を出してしまったことがあるだけに、弘海は自分自身にも言い聞かせるようにして大きくうなずいた。
「こっちへ……」
「う、うん……」
ショーンに手招きされ、傍に寄り添う。
ショーンが弘海の肩を抱いてきた。
「今からそれぞれの家に迎えに行く」
「うん……で、俺は絶対に喋っちゃ駄目なんだね?」
「そうだ」
優しく髪を撫でられ、弘海はもう一度うなずく。
数日ぶりに体に触れられるだけで、そこがとても熱くなる。
でも、今はともかく橘と三芳のことに集中しようと思った。
「弘海を俺の中に入れて、一緒に行く」
「う、うん……よく解らないけど、了解」
「目を閉じたほうが……弘海には見えやすいかも……」
「うん……解った……」
弘海は素直に目を閉じた。
ずいぶんショーンの魔法には慣れたつもりだったけど、いきなり違う場所にワープするような感覚は、なかなか慣れることが出来ない。
思わず声を上げそうになって、弘海は慌ててその声を喉の奥へと戻した。
ともかくショーンの邪魔をしないように……そして、橘と三芳の邪魔にならないようにと弘海は息をこらす。
今、弘海に見える景色は、空の上から見た街の風景だった。
それが少しずつ動いているので、まるで空の上を歩いているようだった。
確かに、ショーンが動いていて、弘海はその中にいて同じ風景を見ているというような感じだ。
向かっている場所は、橘のマンションのようだった。
白く瀟洒なその建物が見えてくると、いきなり部屋の中に景色が変わった。
(橘さんの……部屋だ……)
風景はまた変わって、弘海の目は、リビングから寝室を映し出している。
寝室のベッドには橘が眠っていた。
そっと橘に近づいたかと思うと、少し間があった。
やがて橘は目を開き、自分で起き上がった。
けれども、完全に起きているというのとは少し違う。
テレビで見たことがあるような……催眠術にかかった人のような少し空ろな表情をしている。
そのまま橘は後をついていくるように動き出した。
気がつけば、また空を歩いている。
今度はおそらく三芳のマンションに向かっているのだろう。
景色がその方向に近づいていた。
三芳のマンションはかなりの高層だから、空を歩いているとその場所はすぐにわかる。
解るけれども、なかなか近づいてこない。
やがてようやくそのマンションの部屋のひとつの前で映像は止まった。
(上から二番目の二十一階……三芳さんの部屋かな……)
弘海がそう思っていると、映像はすうっと部屋の内部へと切り替わった。
リビングから寝室へ……まるで歩いているような調子で映像は切り替わっていく。
寝室ではやはり三芳が眠っていた。
その三芳にゆっくりと近づいていくと、先ほどと同じように三芳が目を開け、起き上がった。
弘海は後ろを見るようにすると、橘と三芳がまるで起きているようについてきていた。
(何か変な感じ……)
奇妙なものを見ているような気持ちになりながらも、弘海はショーンにさんざん言われたとおりにおとなしくしていた。
やがて景色はまた空の上になり、今度は乳白色の不思議な空間に出た。
ショーンの国へ行った時に通ったことがあるような場所だ。
その乳白色の空間が、今度は小さな公園のような場所へと変わった。
けれども、本物の公園というわけではなく、何となく作り物めいた映像のようだった。
二人を置き去りにし、少し離れた場所で止まった。
やがて二人は弾かれたみたいにお互いを確認した。
「健介……」
「宗助……」



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