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何となく自己嫌悪な気分に陥りながら、淳平は家に戻った。
部屋に入って閉じこもるようにして鍵を閉め、窓を開けて外を眺めた。
特に代わり映えのない夜の景色が、そこには広がっている。
冷たい空気が一気に部屋に入り込んできて、淳平は頭がどんどん冷めていくのを感じていた。
確かに、うかうかとホテルにまでついていったのは、軽率としか言いようがなかった。
文礼に呆れられても仕方がないことだ。
「やばかったな……」
文礼が誘いをかけてきたとき、淳平は全理性を総動員して彼を拒んだが、もしも少しでも気が緩んでいたら、彼の誘いに乗ってしまっていただろう。
でも、そんな行きずりのような関係を、文礼と持ちたいとは思わなかった。
(どうせなら……)
考えかけて、淳平は軽くかぶりを振った。
そういう可能性は、自分にはないものだと思い込んでいたのに、気がつけば、気持ちはもう後戻り出来ないところまで来ている。
悠樹が漣を好きになる気持ちを友人として理解していたつもりだったが、それをこんな形で改めて理解することになるとは思わなかった。
(俺……あいつのことが好きだったんだな……)
淳平はようやく自分の気持ちを認めた。
認めたが、それを成就させるためには、恐ろしいほど高くて頑丈な壁が、目の前に立ちはだかっている。
自分自身の立場は、大企業の社長の息子ではあるが、次男坊ということもあり、比較的自由ではある。
けれども、おそらく世間体が許さないだろう。
仮にその世間体をどうにかして乗り越えたとして、彼自身が他人のものであるという大きな壁がある。
中国華僑でも強大な権力を持つ汪氏の愛人である彼を奪うためには、淳平自身、相当の権力を持つ必要が出てくるだろう。
もしも淳平が相応の努力をしてその権力を手に入れたとしても、今度は文礼が親友である悠樹を酷く傷つけた人間であるという問題が立ちふさがってくる。
淳平にとって悠樹は、かけがえのない友人であり、自分の人生の中で絶対に失いたくないもののひとつだ。
その友人を失ってしまうかもしれないということ。
そして最後の大きな壁は、まさに文礼自身の気持ちだった。
いったい淳平のことをどう思っているのか、さっぱりと解らない。
拒絶するようなことを言ってみたかと思うと、認めるような態度を取ってみたり……。
「でも……大事なのは結局のところ、俺の気持ちだよな……」
さんざん考えた末に落ち着いた。
間違いのない事実というのは、淳平が文礼に惹かれているということだ。
その気持ちは本当のことで、誰かに確かめる必要もない。
(相手の気持ちが俺に向いてないから諦めるとか……そういうことじゃないはずだ……)
淳平はそう考えた。
だからといって、自分の好意を文礼に押し付けるつもりもない。
ただ……何か淳平が文礼に対して出来ることがあるのなら、手を差し伸べたい。
必要とされることがあるのなら、自分に出来る範囲で手助けをしたい。
ただ、文礼のほかにも、淳平にとって大切なものがたくさんある。
家族、友達、大学、会社……。
そのすべてを大切にしながら、自分のこの文礼に対する気持ちを育てていけば良いのではないだろうか……。
淳平はようやく落ち着いた気持ちに自分自身ほっとした気分で、窓を閉めた。
頭もすっかり冷めたが、体も冷え切っていた。
「今夜は特に冷えるな……」
完全に気持ちの整理がついたわけでもないし、もしも目の前に文礼が現れ、万が一にも自分の気持ちを受け入れてくれるようなことがあったなら、理性を保っていられる自信はまったくなかった。
大切にしよう……そう思ったものをすべて壊してまで、自分の気持ちを優先してしまう可能性だってないとはいえない。
「怖いな……」
淳平は初めてそう思った。
悠樹などを見ていて、何故そこまで恋愛で無鉄砲になれるのだろうと思ったこともあったけれど。
今はその気持ちが、とてもよく解るような気がする。



それから一年……淳平はあの後、文礼と会うことはなかった。
彼の情報は気になって集めていたが、今は香港を拠点にしているようで、日本に来たという情報は入ってこない。
気持ちを切り替えるために、二十歳になった直後から、誘われてはコンパなどにも参加してみたりしたが、進展はまるでなかった。
何人かの女子からは告白らしいものをされたが、淳平の気持ちのほうが一向に進展しなかったからだ。
悠樹は日本に戻ってきた。
学年的には淳平の後輩ということになってしまったが、それでも大学ではしょっちゅう顔を合わせているし、ご飯を食べに行ったり、たまに飲みに行ったりもしている。
今日も先に授業を終えた淳平は、悠樹の授業が終わるのを待って一緒に買い物に行く約束をしていた。
「ごめん、お待たせ」
そろそろ授業が終わる時間を見計らって正門の近くで待っていると、悠樹がバタバタと走ってきた。
「あれ……また勉強してるの?」
「あ、ああ……まあな」
「中国語……だっけ?」
「うん」
淳平は頷いて、手にしていた本を閉じた。
夏ごろから独学で中国語を勉強し始めてもう半年以上になる。
勉強を始めた理由は、いつか文礼に会った時に、彼の母国語でなら、もっといろんな気持ちが聞けるのではないかと考えたからだった。
とてもそんな動機は、悠樹に言うことは出来ないけれども。
語学の選択を中国語にしているわけでもないので、完全に独学で普段の勉強の合間にやっているという感じだった。
けれども、さすがに半年以上もやっていると、多少の会話能力も身についてくる。
つい最近、街で困っている中国人らしい人に声をかけ、道案内を何とかこなすことが出来た時にはちょっと感動したものだった。
「今度……俺にも教えて欲しいな」
「え?」
「中国語」
そう言って、悠樹はにっこりと笑った。
「まあ……いいけど。でも、教えれるほど俺も詳しいわけじゃないぞ?」
「いいよ。代わりに俺は英語でも教えようか?」
「英会話のほうはすっかり抜かれたからなぁ。そうしてもらおうかな、マジで……」
五ヶ月間、ニューヨークで過ごした悠樹の英会話能力は、あっという間に淳平を追い越していた。
リスニングのほうも、リーディングのほうも、今では学年が下のはずの悠樹のほうが優秀だった。
「やっぱり向こうで生活すると、本で勉強するのとはまったく違うよ」
「そうかぁ……」
「淳平も本格的に中国語を勉強したいんだったら、留学とか考えてみたら?」
「そうだなぁ……でもまあ、のんびりやるよ。これでも、何とか日常会話程度は喋れるようになってきたんだぜ」
「へえ、すごい」
「だから、英会話と引き換えに、ちょっとぐらい教えてやってもいいぜ」
「うん。ありがとう」
中国語を勉強しているのを初めて見つかった時、悠樹は少し複雑そうな顔をしていた。
文礼との間に淳平も知らないような何かがあったことは想像がついたが……。
その傷はまだ完全には癒えていないのだと淳平はその時に思った。
けれども今、自分のほうから中国語を教えて欲しいと言ってきた悠樹からは、何かを乗り越えたような気配が感じられて、淳平は嬉しかった。
去年の年末に、従兄弟の漣との仲も復活したと聞いていたし、悠樹の傷も、少しずつ癒えてきているのかもしれない。
「じゃ、とりあえず今日は久しぶりに飲みに行くか」
淳平がそう提案すると、悠樹はちょっと浮かない顔をした。
「でも俺……あんまり強くないみたいだから……」
「な、何だ? 酒で何かあったのか?」
「え、えっと……その……前にちょっとうっかり飲みすぎて……二日酔いとか酷かったことがあって……」
「なるほど。じゃあ、俺が正しい酒の飲み方を教えてやる」
「淳平だと、正しい二日酔いのなり方とか教えられそうで嫌だな……」
「おい、俺はいちおう、酒屋の息子だぞ?」
「あ、そうだったね」
「なんだよ、今思い出したみたいなその言い方は!?」
淳平が本当に不本意そうに言ったので、悠樹はおかしくて思わず笑ってしまった。
つられて淳平も笑いだし、二人で笑い転げながら街へ向かった。

<END>




更新が大変に遅くなり、申し訳ありませんでした(汗)
このSSでは18禁っぽいところはありませんでしたが、いろいろ考えた結果、この二人にはとっても長い時間が必要だなと判断をしました。
また機会があれば、その進展具合(?)なども書いていければ良いなと考えています。
年末ぐらいまで、しばらく更新がストップしますが、時間がない中で新しい物語のプロットなども考えておりますので、また読みにきていただけますと嬉しいです。



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EDIT [2011/12/11 10:42] Breath<SS> Comment:2
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[2011/12/11 15:07] EDIT
>シークレットAさん

コメントありがとうございます!
本当に遅くなってしまってすみませんでした(汗)
Moon Dropのほうにいったん集中して、それが終わってから更新しようと思っていたら、Moon Dropが終わったら仕事が鬼忙しくなり……という感じで、本当に延び延びになってしまいました。
長い間お待たせしてしまって本当にすみませんでした。

もっと踏み込んだ関係まで行くべきかどうかすごく悩んだんですが、やっぱり淳平の性格やもろもろの事情を効力すると、今回のお話ぐらいまでが限界だったようでした。

二人の関係については、またいつか、もっとじっくりと書ける機会があれば、書いていきたいなと考えています。

新しいものは本当は早く書きたいんですが、ともかく今は年末を乗り切ることが優先なので、しっかりと頭の中でお話を温めて、披露できればと考えています。

しばらくの間更新はお休みになりますが、また読みに来ていただけるととても嬉しいです!
[2011/12/12 09:23] EDIT
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