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春坂弘海(はるさかひろみ)は、バイトの帰り道だった。
いつもよりも少し遅くなったこともあって、ただでさえあまり人の通らないマンションへの道は、不気味なぐらいに薄暗く、静まり返っていた。
昨日は隣の町で通り魔の騒ぎがあったらしいという噂を、つい先ほど店のオーナーから聞いたばかりだから、弘海は何となく急ぎ足になった。
近頃は何かと物騒だから、男だからといって危険が目減りするというようなこともないだろう。
特に弘海はその外見が女の子に間違われることもあるほどで、これまでにも何度か痴漢にあったこともあった。
だいたいの男は触った瞬間に何か違うと思い、弘海が男であることに気づき、痴漢行為をやめてしまうのだが、中には弘海が男であることを知りながら、そうした行為を行なってくる者もいる。
世の中にはいろんな嗜好の人間がいるのは解るが、弘海にとっては迷惑この上ない話だった。
嫌なことを思い出して軽く息を吐いた弘海の視界を、何かが横切った。
驚いてその何かを目で追うと、闇に二つの目が浮かび上がっている。
一瞬ぎょっとした弘海だったが、すぐにその正体に気づいた。
「……猫?」
しかも黒猫だ。
(黒猫が自分の前を横切ると良くないことが起こるとか……そんな話もあったっけ……)
こんな不気味な闇夜に黒猫。
何だか嫌な気分になって、弘海は足早にその場を立ち去ろうとしたのだが……。
「…………」
よく見てみると、黒猫は前足を怪我しているようだった。
黒い毛並みの合間から血が流れているのが解る。
「こっち来い」
弘海は黒猫に向かって手招きする。
黒猫だからといって、怪我をしている猫を放っておくわけにはいかないと思った。
黒猫は警戒している様子を見せていたが、しばらく弘海が手を差し出したままにしていると、足を引きずりながら近寄ってきた。
子猫よりは大きいが、年老いた猫という雰囲気でもない。
どちらかというと、そのしなやかな肢体は、青年期の猫のようだった。
弘海は近づいてきた黒猫をそっと抱き上げた。
黒猫は抵抗することもなく、弘海の腕に抱かれた。
「うちのマンション……ペット飼育禁止だったっけ……どうだったかな……」
もともとペットを飼う予定のなかった弘海は、そういう情報を完全にスルーしてきた。
飼育禁止の可能性もあるが、ともかく今日一日ぐらいは見逃してもらおう……。
弘海はそう思い、黒猫を抱いたまま、マンションに向かった。



「おとなしくしててくれよ……」
弘海は黒猫に話しかけながらマンションの部屋の鍵を開ける。
駅から微妙に離れた空き部屋も多いこのマンションは、夜ともなると不気味なぐらいに静まり返っている。
場所柄、夜の仕事をしている人が多いせいもあるのだろうが、弘海が早朝にバイトに出かけようとすると、帰宅してきた住人と顔を合わせるというようなことがしばしばあった。
家賃が安いのと、1Kにしては部屋が広いのが利点だ。
弘海はクッションの上にそっと黒猫を置き、救急箱を取り出した。
「とりあえずは……傷口の消毒な……」
黒猫を自分の膝の上に乗せ、ガーゼに消毒液を滴らせ、それを黒猫の傷口に当てた。
その瞬間、黒猫は激しく鳴き、暴れた。
それを弘海は必死に抑えながら、とりあえずガーゼの消毒液を傷口に押し当て続ける。
「我慢……もうちょっと我慢……」
黒猫に言い聞かせるようにしながら、その体を自分の体で抱き込んだ。
黒猫はまるで弘海の言葉が通じたかのように、おとなしくなった。
けれども、激しい痛みはあるようで、弘海の腕の中で小さく震えていた。
「よし……もう大丈夫だ……よく頑張ったな……」
弘海は黒猫をねぎらいながら、その頭や顎を撫でると、黒猫はニャァと鳴き、嬉しそうに目を細めた。
「あとは……傷口に薬を塗って……包帯を巻いておくか……」
弘海に家族があった頃、猫を飼っていた記憶を思い起こしながら、薬を選別する。
かつて動物病院にいったとき、人間用の薬でも、動物に用いても良いものがあると聞いた。
「あった……これは切り傷にも効くみたいだし……これでいいか」
それを綿棒にとって、丁寧に塗りつけていく。
あとは猫が舐めないように、ガーゼと包帯で傷口をカバーすればいい。
黒猫は弘海が手当てをしている間、まるで弘海のことを信頼しているかのようにおとなしくしていた。
「お前……本当にえらいなぁ……前に飼ってた猫だったら、もっと大暴れしてるところだ……」
前に飼っていた猫は、名前を「トラ」という。
弘海が生まれた時から飼われていたその猫は、5年前に老衰で死んでしまった。
その頃には、弘海にはまだ家族があった。
両親と、妹が一人。
しかし、トラが死んだ翌年に両親は離婚して、弘海は父親のほうに引き取られた。
父親は穏やかで優しくて、弘海をとても大切に育ててくれた。
けれども、去年の冬……ちょうど一年前にその父親も病気で死んだ。
当時高校二年生だった弘海は、高校を中退して働くことを決めた。
父親の貯金が若干あるものの、それは弘海が高校を卒業するまで持ちそうにはなかったからだ。
母親に頼るという方法もあったし、祖父母に頼るという方法もあった。
けれども、弘海はどれも選ばなかった。
母親はすでに再婚し、新しい家庭があった。
祖父母は共に両親の結婚に反対していたという経緯もあり、以前からそれほど親しい付き合いがなかった。
一人で生きていこう……弘海は父親が亡くなったときにそう決めたのだ。
担任の教師は奨学金を利用して高校を卒業することを勧めてくれたが、今後の生活のことなども考えると、早く仕事を始めたほうが良いと弘海は考えた。
自分で家賃が払える1kのマンションに引越しをし、その最寄り駅の駅前にあるベーカリーショップで働き始めた。
接客をすることもあれば、オーナーに指導されながらパンを焼くこともある。
ショップのオーナーの橘健介はまだ28歳という若さながら、日本でも有数のパン職人で、フランスで修行をしたこともあるという腕前の持ち主だ。
たまにテレビや雑誌でも紹介されることがあり、中には橘を目当てに来る女性客もかなり多かった。
橘の見た目は就職場所を間違えたのではないかと思うほどに端正で、男の弘海が見ていても、時々うっとりとしてしまいそうになるぐらいだった。
橘は弘海の事情をよく理解してくれ、弘海を一人前のパン職人にするためにさまざまな指導をしてくれている。
今はまだバイトの身だけれど、今年の春には正社員になって、本格的に橘からパン作りを学ぶことになっていた。
「明日は早出なんだよな……」
パン屋の早出は夜が明けるずいぶん前の出勤になる。
通常は夜が遅くなる勤務の時は、翌日は休みになることが多いのだが……。
今は人手が足りないということもあって、遅出の翌日に早出という過酷なシフトになっている。
「でも、こいつのエサを買ってこないと……猫が食えそうなもの何もなかったな……」
弘海はソファの上でうとうととしている黒猫を見て、軽く息を吐く。
もう一度コートをはおり、まだ開いているはずのスーパーに向かった。




お久しぶりでございます!
そして、メリークリスマス!
まだ完全に仕事が落ち着いたわけではないので、毎日更新が無理な日もあると思うのですが……。
少しずつ書き進めていけたらと思い、新しいお話をスタートさせることにしました。
このお話もファンタジーの要素があるお話です。
前のお話よりは少し明るく、軽い感じの雰囲気になるかな、と思います。
何と……初めて英語じゃないタイトルになりました(笑)!
お休みしている間も、ブログ村の投票に来てくださった皆さん、本当にありがとうございます!
1月の中旬まではまだ少し忙しい状態が続きますので、更新できない日があるかもしれませんが、できるだけ頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!

日生桔梗




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EDIT [2011/12/25 19:06] 猫目石のコンパス Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/12/25 21:01] EDIT
>シークレットAさん

コメントありがとうございます!
変な時間に更新したので、気づいてもらえたのがすごいです!
本当はもう少し書き溜めてから……とも思ったのですが、
何となくキリが良いところまで書けたのでスタートさせてもらいました(笑)
また次回も読みに来ていただけると嬉しいです!
[2011/12/26 08:29] EDIT
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