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「あのさ……」
淳平が困り果てたような声で言うと、文礼は特に表情を変えることもなく振り返った。
「なに?」
「本気で入るつもり?」
「行き先は任せてくれる約束だったよね?」
「まあ……約束……なのかな……」
「僕はここに入りたい」
文礼の言葉に淳平は軽く息を吐いた。
文礼が淳平を引っ張ってきたのは、夜にもなれば毒々しいネオンが煌きそうなホテル街だった。
どういう目的のホテルなのかは、入ったことのない淳平でも想像がつく。
「それとも、怖い?」
文礼はまるで挑むように微笑みかけてくる。
「別に、怖くはない」
淳平はきっぱりと言い切った。
「じゃあ行こう」
さっさと中に入っていく文礼の後を追うようにして、淳平もまたホテルに入っていった。



適当な部屋を選んで中に入ると、文礼は淳平を振り返った。
「こういうところは初めて?」
「……に決まってるだろ。まだ彼女いない歴イコール年齢だぞ」
ちょっとむっとした顔の淳平に、文礼は笑う。
「な、何だよ?」
「彼女を作らなかったのは、悠樹のせい?」
「そういうわけじゃない。機会がなかったんだ」
「へえ……」
「別に恋愛に興味がないわけじゃないし、女の子に興味がないわけでもない」
「なるほどね」
文礼は安っぽいソファにさっさと腰を下ろした。
淳平は何となく落ち着かない気分になりながら、部屋の中を見回した。
全体的に部屋のつくりはチープだ。
ソファなどもあちこち綻びが出来ているし、ベッドのシーツもどことなく色あせている。
照明も部屋のチープさをさらに増加させるような趣味の悪いピンク色だし、テーブルや冷蔵庫も一昔前のものを想像させるような感じだった。
「こんなとこ……しょっちゅう来るのか?」
あまりにも文礼が慣れた様子だったので、淳平は思わず聞いてみた。
「来ないよ。僕も初めて」
「だよな……ちょっと何ていうか……どうやったらこんな趣味の悪い部屋が作れるんだ……」
「趣味なんてどうでもいいんだよ。ここはセックスするためだけの部屋なんだし」
「ああ、なるほど……」
妙に納得したように淳平は頷いた。
「座らないの?ずっと立ってるつもり?」
「あ、ああ、そうだな……」
淳平は相変わらず落ち着かない気分だったが、とりあえず勧められるままにソファに腰を下ろした。
「緊張してるんだ?」
「こういう場所は初めてだからな」
「特別にサービスしてあげてもいいよ」
「は?」
「セックス。女の子じゃないけど、経験したことのない天国を見せてあげようか?」
文礼はそう言いながら、淳平の首に手を回した。
「おい……何言ってるんだ……」
「僕のこと、調べたんでしょ?どういう人間かもう知ってると思うけど」
「誰かの愛人だっていうのは聞いた」
「そう、愛人。つまり、セックスの相手。それが仕事だから、かなり上手いと思うよ」
そう言って、文礼は戸惑う淳平の唇にキスをした。
驚くほど柔らかな文礼の唇の感触を感じながら、淳平は完全に混乱していた。
その舌が唇を舐め、唇を割って入ろうとした時、淳平は我に返って文礼の体を押し返した。
「キスも初めてだったんだ?」
「……に決まってるだろ。彼女いない歴イコール年齢だって言っただろ……」
「ファーストキスの感想は?」
「最悪」
淳平は怒ったような顔で文礼を見た。
文礼は微笑んでいる。
「こんなに初心な反応をされたのは初めてだよ」
「悪かったな……慣れてないんだ。それに、遊び半分でキスなんてしたくなかった」
「本気だったらいいわけ?」
「そりゃ、本気のキスなら……でもどうせお前、本気なんかじゃないんだろ?」
決め付けるように淳平が言うと、文礼はまた笑った。
「笑うなよ」
淳平はさらにむくれた。
「帰る」
淳平は立ち上がり、部屋を出ようとした。
その腕を、文礼が引いた。
「離せ」
「付き合えって言ったのは君のほうなのに、僕を置いて帰るの?」
「こういう誘いをしたつもりはない」
「ここがラブホテルだって解って入ったのに?」
「何かここでないと話しにくい話でもあるのかと思ったんだ。こういう用件だったら、俺は帰る」
文礼はまだ手を離さなかった。
淳平は出て行こうとするのをやめ、代わりにため息をついた。
「お前もさ、もっと自分を大事にしろよ。ろくに知りもしない男に体を差し出そうとするなんて、自暴自棄になってるとしか思えない」
今度は淳平の言葉に文礼のほうがむっとした顔をした。
「別に自暴自棄にはなっていない」
「自分を大切にしないことを、自暴自棄って言うんだよ。こんなことをして、それでもまだ自分を大切にしてるとでも思ってるのか?」
文礼は答えなかった。
「いろいろと事情はあるんだろ。俺にはとてもその事情を理解したり同情したりは出来ないし、する権利はないと思うから聞いたりはしないけど……でも、せめて自分を大切にしろよ」
「まるで僕の気持ちが解っているような言い方だね」
文礼の言葉に、淳平はかぶりを振った。
「たぶん、俺は何も解らない。お前の苦しみも悲しみも、どうしたら喜ぶかも、どういうことが幸せなのかも解らないと思う。でも、自分を大切にしないといけないっていうのは、どんな人間にも共通してることだと思うぞ」
「什么都不知道却」
「え?」
唐突に文礼の口から出た中国語に、淳平は驚いて目を瞬かせた。
次の瞬間、淳平の手を自ら振り切って、文礼は部屋を出て行った。



さすがにホテルに入ってすぐに出て行くのも気が引けて、文礼が出て行ってからしばらくの間、淳平は部屋の中で過ごした。
本当は空気も趣味も悪い部屋から早く出たかったのだが、勝手がいまいちわからなかったのだ。
その間、文礼が初めて口にした中国語のような言葉のことを思い出していた。
あまりにも訛りのない日本語を話すので、文礼が異国の人間だということをつい忘れてしまう。
でも、文礼からしてみれば、日本語のほうが外国語で、先ほど口をついて出た中国語のほうが母国語なのだった。
「あんまり良いことは言ってなかったんだろうな」
怒ったように出て行った文礼の様子からしても、彼の言葉は淳平に対して非難を浴びせるような意味合いの言葉だったのだろう。
つまり、淳平の言葉が、文礼に不快な気持ちを与えてしまったということらしい。
「言葉が通じないって不便だな」
せめて何を言ったかが解れば、もう少し文礼の気持ちを理解することが出来たのではないかと淳平は思った。
一時間ほどその部屋で過ごした淳平は、清算を済ませ、一人でホテルを後にした。



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EDIT [2011/10/27 18:40] Breath<SS> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/10/27 21:43] EDIT
>シークレットAさん

SSのほうは時間もまちまちなのに拍手1ゲットありがとうございます♪
私でもイラッとくるだろうなと思いつつ書いていたので、文礼はかなり頭にきていたと思います(笑)
淳平は今後も前途多難な気がしますが、応援するような気持ちで書いていきたいと思っています!
更新が本当に不定期で申し訳ないですが、また読んでいただけると嬉しいです♪

Moon Dropのほうも、ありがとうございます。
出口が見えてきそうで見えてこない感じに、私もまだかーと思いつつ書いています(笑)
まだしばらく雫の受難は続きそうですが、また読みにきていただけると嬉しいです♪

コメントありがとうございました!
[2011/10/28 07:56] EDIT
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