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もう二度と会うことはないだろうと思った相手に、淳平は翌日に再会した。
彼は律儀にマフラーを返しに来てくれたようだった。
しかし、差し出してきたマフラーを受け取ろうとして、淳平はちょっと躊躇した。
今日も相変わらずかなりの薄着で、とても真冬の服装とは思えない。
しかも、素足に靴を履いていた。
「それ、やるよ。寒そうだし……」
淳平自身、今日はまた別のマフラーをつけていた。
今日のマフラーも、悲しいかな、姉からの贈り物だった。
淳平の姉はいわゆるプレゼント好きな人間で、似合いそうなのを見つけてきたと言っては、淳平に細々と贈り物をしてくるのだ。
淳平だけではなく、悠樹も姉の餌食だった。
一度はどこで買ってきたんだと思うような猫耳をプレゼントされ、悠樹が対応に困っていたことがあった。
性格の良い悠樹だから素直に礼を言って受け取っていたが、淳平なら目の前でゴミ箱行きだっただろう。
「本当に返さなくていいから……でさ、もっとちゃんとコートとか着ろよ。冬なんだぞ?」
「車があるから大丈夫……やっぱり返しておく」
そう言って彼はマフラーを差し出してきたが、やはりそれを受け取ることにためらってしまう。
確かに車があるのなら、その中に上着や何かも置いてあるのだろうが……。
それにしても、その車までの距離だって、この寒さでは耐えれそうにない薄着だ。
「車に戻ったら捨ててもいいから。とりあえず、それ巻いとけ。見るからに寒そうで、辛くなる」
「知らない人から物をもらう理由がない」
「寒そうだから……じゃ駄目なのか……」
「そんな理由でプレゼントをもらったことがない」
「じゃあ、第一号でいいんじゃね?」
ちょっと面倒になってきて、淳平はそう言った。
とりあえず、少しでも彼に暖を取らせることが、何となく自分の義務のような気分になってきた。
彼のほうは相変わらず戸惑ったような顔をしている。
「ちょっと待ってろ」
淳平はそう言って道路を一気に走って渡り、自動販売機までたどり着くと、温かい缶コーヒーをふたつ買ってまた道路を一気に駆けた。
「ほら、これもやる」
「…………」
「それ飲んだら、さっさと車に戻れ。今日は夕方から大雪になるって言ってたぞ」
ほとんど無理やり缶コーヒーをその手に押し付け、差し出しているマフラーをいったん受け取って、彼の首にぐるぐると巻いてやった。
「これでちょっと安心だ。じゃあ、俺は帰るぞ!さっさと帰って勉強しないと、試験が近いんだ!」
そう言って淳平は彼に背を向け、駅に向かって駆け出していった。
「…………」
手に缶コーヒーを持たされ、無造作にマフラーを巻かれて、文礼は半ば呆れたような思いで、淳平の後姿を眺めていた。
渡された缶コーヒーは、彼の家が経営する酒造メーカーのブランドだった。
その場で空けて飲む気にもなれず、文礼はそのまま車に戻った。



「マフラーは返さなかったんですか?」
車に戻ると、案の定、雀喩が怪訝そうな顔で聞いてきた。
「うん……プレゼントしてくれるらしい……」
「その缶コーヒーは?」
「これも、もらった」
「…………」
何ともいえない不思議そうな顔で、雀喩は文礼を少し見つめたが、すぐに自分の仕事を思い出したかのように車を動かした。
「今夜は何かあったっけ?」
「特には……どこか行きたいところはありますか?」
「そうだな……海が見たい」
「はい」
雀喩は答えて、車を海の方角に向かって走らせる。
手近なところに、文礼の気に入っている港湾がある。
おそらく、そこへ向かっているのだろう。
20分ほど車を走らせると、目的の港が見えてきた。
コンクリートと貨物船と倉庫しかない、実に愛想のない港だった。
けれども、ここからは対岸の夜景が見えて、香港を少し思い起こさせるような風景を文礼は気に入っていた。
まだ夜景には早い時間だったが、それでも港の風景はどこか彼の心を安堵させるものがあった。
車から出ると、さすがに海風がきつい。
おまけに雪が降り始めていた。
それでも文礼は構わずに歩き出し、突堤の近くに立った。
背後からついてきた雀喩が、文礼の肩にコートをかぶせた。
「さすがにこの気温では風邪をひいてしまいます」
「ありがとう」
文礼はありがたくコートを羽織ったが、実際にはそれほど寒さが堪えていたわけではなかった。
これまで数多くの陵辱をその体に受け続けてきた文礼は、いろんなところが麻痺しているのだと自己分析している。
寒さを感じたり、暑さを感じたり、痛みを感じたり。
そういう当たり前の感覚が、他の人間に比べると少し鈍いようなところがあった。
だから、雀喩の気遣いも、ましてや淳平の気遣いも、文礼には少し理解しがたいところがあったのだ。
ファーストキスをするよりも早くセックスを教え込まれ、痛みと苦痛は快楽だと覚えこまされた。
そんな体がまともな感覚を持っているはずがなかった。
文礼はすっかり冷えた缶コーヒーのプルトップをようやく空けた。
僅かながらに温もりが残っていたが、温かいというよりは、ぬるかった。
「甘いな……」
文礼は少し顔をしかめた。
でも、せっかくもらったものを残すのも悪いと思ったので、文礼は何とか飲み干した。
風と雪がまた少し強くなってきた。



淳平は眠気と格闘しながら、試験勉強を続けていた。
さすがに夜も2時を過ぎると眠気が襲ってくる。
「もうちょっとやっとかないと、やばいよな……」
とりあえずあと一時間ぐらいは頑張ろうと思いつつ伸びをすると、部屋をノックする音がした。
「はいはい」
面倒くさそうに返事をすると、扉が開いた。
「コーヒー入れてきてあげたよ!」
入ってきたのは淳平の姉の凛香だった。
「お、さんきゅー!でも、どういう風の吹き回し?」
「珍しくあんたが勉強してるから」
そう言ってニヤリと笑い、凛香は淳平の机の上にコーヒーを置いた。
「珍しくって何だよ!俺はいつも真面目に勉強してるって!」
「テスト前にしか勉強しないから、遅くまでやるはめになるんでしょ」
あっさりとそう言われて、淳平はすぐに降参した。
「まあ……毎日勉強なんてさ、学生のすることじゃないよな!」
「学生は勉強が仕事でしょうが」
「遊ぶのだって仕事だぜ!」
「ホントにあんたは次男で気楽なんだから……まあ、兄さんみたいに生真面目すぎるのも、あれはあれで問題だけど」
そう言いながら淳平の部屋を見回して、凛香はクローゼットのあたりをじっと見つめた。
「あれえ?マフラー一枚足りなくない?」
「覚えてたのかよ!?」
「覚えてるよ!ほら、あのタータンチェックのマフラー。あれどうしたの?」
「人にあげた」
「人って誰よ?悠樹くん?」
「違うよ。名前は知らないけど」
凛香は大きな目をさらに見開いて淳平をまじまじと見つめてきた。
「まさか、彼女!?」
「んなわけないだろ。男だよ」
「男!?」
驚いたようにひっくり返ったその声に、淳平はうんざりとため息をついた。
「だから、変な誤解したみたいな顔すんなって。こんなに寒いのに、シャツ一枚で外を歩いてるやつがいたんだ。見てるだけで寒くなりそうだったから、そいつにやった」
「へえ……」
「いちおう悠樹の知り合いみたいだけど……それほど親しいっていうわけでもないような感じだったかな。何か不思議な雰囲気のやつだったなぁ……」
「まあ、姉のあたしとしては、男の子でも女の子でも、どっちでも歓迎だよ!」
「何の話だよ……」
「だから、恋人の話!」
「ねえって!何で俺が男と……」
そう言いながら、そういえば悠樹の恋人も男だったと淳平は思い起こした。
「じゃあね、勉強頑張って!お肌に悪いから、あたしは寝るけどね!」
「ああ、ありがとな」
凛香が変なことを言うから、淳平はまた彼のことを思い出した。
いつもあんな格好をしているんだろうか……。
見た感じ、金がないというような雰囲気ではなかったし。
車が近くにあるとは言っていたけど、外に出るのにコートぐらいは羽織るのがこの季節なら普通だと思う。
風邪でもひきたければ、あんな薄着で外に出るのもありだと思うが、そんな物好きな人間がいるとも思えない。
「変なやつ……」
淳平はそう呟いてコーヒーをすすり、勉強を再開した。



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EDIT [2011/09/13 11:44] Breath<SS> Comment:2
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[2011/09/13 23:45] EDIT
>シークレットAさん

あうあうあう(涙)
私も同じような経験があるので、書いたものが消えてしまうショックはとてもよく解ります……
にも関わらず、コメントをもう一度書いて下さってありがとうございます!

二人の道のりは確かに険しそうですが、実際にはどうなるのか……楽しみにしていていただければと思います(笑)
だんだん7回で終わらない気がしてきたのがちょっと心配なのですが(汗)
淳平は悠樹に対して……というあたりも、このSSでちょっと触れていけたらと思っています♪

二人ともお坊ちゃんなので、一般ピープルの予想を裏切るような展開を期待したいと思います(笑)
また次回(更新日未定ですが・汗)も、読みに来ていただけると嬉しいです!
[2011/09/14 08:20] EDIT
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