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マフラーとともにその場に取り残され、文礼はしばらくの間立ち尽くしていた。
彼が校舎のほうに駆け出していってから間もなく、始業を告げるチャイムが鳴っていた。
間に合ったのか間に合わなかったのか、微妙といったところだろう。
文礼はもちろん、彼の顔を知っていた。
彼の名は真咲淳平。
悠樹の幼馴染で漣とも面識がある。
さらには日本でも最大級の酒造メーカーの御曹司で、家族構成は両親と兄、姉の五人家族。
大学卒業後はそのまま家業の酒造メーカーに入社するとみられている。
家族関係はいたって良好。
何の苦労も知らないという部分では、悠樹ととてもよく似ている。
文礼はもう一度手にしたマフラーを眺め、それを彼に言われたとおりに首に巻いた。
薄手のシャツ一枚でも特に寒いと感じなかったが、マフラーを巻いた瞬間、とても暖かいと感じた。
文礼はマフラーを巻いたまま、待たせてある車に向かった。



車に乗り込んでもマフラーを外そうとしない文礼を見て、雀喩は首をかしげた。
「もう少し暖房の温度を上げますか?」
「いや……そのままでいい……」
雀喩は一瞬、何か言いたげな顔をしたものの、結局何も言わずに車を走らせた。
「どこ行くんだっけ?」
車窓を眺めながら聞くと、抑揚のない声がそつなく帰ってきた。
「汪大人が赤坂のホテルでお待ちです」
「ああ……」
文礼はいかにも面倒くさそうにため息をついた。
本物の汪は三ヶ月前に死に、今いる汪は汪が常に配備していた影武者の一人だった。
その影武者は、文礼が隙を見計らって手なずけ続けてきた男だった。
親族のほとんどが汪の死をまだ疑っていない。
それは、汪という人間が親族たちからいかに嫌われていたかを物語っている。
金がなければきっと誰一人として寄り付かなかっただろう。
また、汪のほうも、金目当てに近づいてくる親族を毛嫌いしていたから、日ごろから正月ぐらいしか交流がなかったのだ。
もうじき旧正月恒例の汪一族の集まりがあり、そこで疑われなければ、とりあえずは安泰だった。
そういうわけで、旧正月の集いが終わるまでは、適当に機嫌を取っておく必要があった。
影武者の汪は、見た目は双子かと思うほどに似ているが、文礼にぞっこんで、彼のいうことなら何でも聞く。
死んだ汪のようにサディストではなく、セックスはいたって淡白だ。
彼が影武者だった頃から体の関係を持っていたが、文礼自身も、あえてテクニックを駆使しようとはせず、淡白なセックスでも満足できるように仕込んできたといっていいだろう。
ただ、何かと理由をつけては文礼を呼び出すのが、文礼にとっては少し鬱陶しいと感じるところだった。
適当に相手をしてやればおとなしくなり、後は真面目に汪としての仕事をしてくれるので、扱いやすいといえば扱いやすいのだが。



赤坂にある高級ホテルのスイートルームの一室で、汪によく似たその男は待っていた。
体重も汪と同じ体重でキープさせてあるので、肥満具合もそっくりだった。
もともと、汪の代わりに影武者が仕事をしていることもあったほどなので、企業家としての彼の行動にはほとんど問題がなかった。
ただし、汪の生前は汪の指示によって動いていたものを、今はすべて文礼が指示を出している。
「おお、文礼……」
文礼が部屋に入ると、汪はまるで恋人でもやって来たかのように嬉しそうに顔をほころばせた。
「上手くやってくれてるようだね」
文礼がねぎらうと、本物の汪なら見せたこともない素直な笑みを浮かべる。
「それがずっと仕事だったから、それほど違和感はないよ」
「問題は来月の旧正月だ」
「体調を崩していることにでもしておけば、それほど怪しまれないだろう」
「養子の件は?」
「それも弁護士を通じて順調に手続きを進めている。当日は発表するだけ発表して、あとはノーコメントで行くよ」
「うん、それがいい」
そう言いながら汪はテーブルの上のグラスにワインを注ぎ、片方を文礼に手渡した。
「今日は泊まって行けるのかな?」
汪の問いに、文礼は頷いた。
「うん。久しぶりだし、いいよ」
汪と文礼は、密かに文礼を汪家の養子にするための手続きを進めていた。
文礼の実家である蔡家は手放しで歓迎しているが、汪の実家のほうにはまだこのことを知らせてはいない。
いつもの汪の独断として、旧正月の宴の席で汪自身に事後報告させる予定だった。
汪が差し出してきたので、文礼は受け取ったワイングラスを重ねる。
この汪と過ごす時間は、かつての汪といた時のような刺激はまるでなかったが、文礼にとってはそのほうが良かった。
刺激というには、あまりにも激しく、暴力的だった汪の行為は、文礼をかなりのところまで追い詰めていた。
あの時、咄嗟に汪に向かって引き金を引いてしまったのは、何も漣を助けるためだけだったのではないのかもしれないと、文礼は三ヶ月経った今になって思うことがあった。
ワイングラスを空けると、汪の唇が重なってきた。
そのままソファに体を押し付けられ、文礼は体を預けるように目を閉じた。



「やっぱ首が寒いな……」
大学の講義を終えると、もう外は暗くなりかけていた。
昼間出会った彼にマフラーを渡してしまったから、首元が寒かった。
あのマフラーは姉からの贈り物のひとつで、姉も贈ったことなど忘れているはずのものだから、返って来ることなどまったく期待せずに彼に渡してしまった。
マフラーがあるときはそこまでありがたみを感じなかったが、なくなってしまうと、明らかに寒かった。
しかも、空を見上げると、雪がちらほらと降り始めている。
「さっさと帰るか……」
淳平はそう呟いて校門を出ようとして、立ち止まった。
さすがにもう、彼の姿はなかった。
何となく不思議な印象のある青年だった。
年齢は淳平と同じぐらいだろうか。
悠樹は下手をすると淳平よりも年下に見えることがあるが、彼は年下には見えなかった。
不思議なぐらいに、どこか大人びた雰囲気がある。
かといって、それほど年が離れているようにも思えない。
それにしても、彼はいったい何者だったのだろう。
漣の知り合いというからには、悠樹はともかくとして、淳平との接点はなかったはずだ。
それなのに彼は、淳平に強烈なインパクトを残していった。
「まあ……もう会うこともないかな……」
淳平はそう呟いて苦笑する。
通りがかりに偶然出会っただけの人間に再会する確立など、限りなく低いのだから。



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EDIT [2011/09/11 11:03] Breath<SS> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/09/11 12:58] EDIT
>シークレットAさん

コメントありがとうございます!
SSを楽しみにしていただいていて、とっても嬉しいです♪
どう考えても騙されやすい淳平くんなので、不安も大きいと思いますが、
彼も男ですので、やる時はやるはず?です!
安心して(何に?)読んでいただければと思います!

影武者汪さんは、ちょっとお茶目な感じのイメージです(笑)
エロ親父には変わりありませんが(笑)

PCのセットアップも大変ですよね(汗)
そんな中でコメントくださって、ありがとうございます♪
ちょっと更新が不定期ではありますが、頑張って書いていきます!
また更新したら読みに来ていただけると嬉しいです♪
[2011/09/11 23:10] EDIT
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