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悠樹が治療のためにニューヨークへ行ってから三ヶ月。
ようやく最近になって、淳平は大学にいる時間を一人で過ごすことに慣れはじめてきたところだった。
小学校の時からいつも悠樹が一緒だったから、ここまで長い期間を一人で過ごすことに慣れるのは時間がかかった。
他にも友人は何人かいるものの、悠樹ほど親しくしてきた人間はいない。
誰と一緒にいても、違和感を感じてしまうことにだけは慣れることが出来ないようだった。
大学は短い冬休みが終わり、そろそろ試験が近づいてこようとしている。
最近の淳平は、空き時間のほとんどは大学の図書室で過ごし、講義が終わると寄り道もせずに家に帰ってまた勉強するという勉強漬けの日々を送っていた。
そんな中でも、年明けには悠樹から電話をもらい、三ヶ月ぶりにその声を聞くことが出来たということもあった。
それは淳平にとって、特別に嬉しいことだった。
日本を発つとき、悠樹は声が出なくなってしまっていた。
おそらく、精神的なものだと思う、と悠樹の恋人である漣は言ったが、その精神的なものの原因を、淳平は正確には知らされていなかった。
ただ、声が出なくなるほど恐ろしいことが、あの日、悠樹の身の上に起こったのだということだけは理解できた。
淳平自身、悠樹の恋愛を阻止するべきだったと、その時は後悔したものだが、結局は悠樹自身が選ばなければならないことだと思いなおし、今日に至っている。
ともかくも、悠樹のニューヨークでの治療が順調に進んでいることに淳平は安堵していた。
あの日――悠樹が大学を抜け出し、どこかへ向かった。
その行く先は、恋人の漣に何か関係のある人物の元だというのはすぐに察しがついた。
当時、漣の会社はちょっとしたトラブルに巻き込まれていて、悠樹の身も危険に晒されていた。
それで漣の会社の人間が護衛につくほどだったのだが、その護衛さえも振り切って悠樹はどこかへ向かったのだった。
必死にあちこちを探し回っている間に連絡が入り、悠樹は無事に発見できたが、いったい何があったのかと思うほどにボロボロになって戻ってきた。
悠樹を抱えて戻ってきた漣のほうもボロボロだった。
その後しばらくの間入院を余儀なくされるほどの重傷だったのだという。
淳平にわかることは、漣と悠樹が向かったのは、横浜方面だということだけだった。
横浜といえば、淳平には思い当たることがあった。
淳平の兄が拾ってきた情報……それが漣の会社に対して手を出しているのが、とある華僑ではないかという。
横浜には確か、その華僑の別宅があったはずだった。
ひょっとすると、自分がもたらした情報が、悠樹を横浜に向かわせ、あんな目に遭わせてしまったのではないかと、淳平は密かに後悔をしていた。
悠樹の危険を軽減するために情報を提供したつもりだったのに。
しかし、詳細が解らない限り、すべては推測でしかなかった。
淳平は軽く息を吐いた。
今日はひときわ冷え込んでいて、吐いた息は白い色をつけて流れていく。
ふと、大学の門の傍に立つ人影に目がいった。
体の心まで凍えそうなぐらいの寒空の下、彼はシャツを一枚はおっただけの姿で、見るからに寒々しかった。
門を入っていく学生たちも、怪訝そうに彼の姿を横目で見ながら通り過ぎていく。
淳平も同じように通り過ぎようとしたのだが、思わず足を止めた。
一瞬、ニューヨークにいるはずの悠樹が立っているのかと思った。
しかし、よく見てみると、面影は似ているものの、まったくの別人だった。
髪は肩に届きそうなぐらい、男としては少し長めだ。
悠樹と同じように、まるで女のように整った顔をしている。
――どこかで会ったことがある。
淳平は記憶をたどってその人物を思い出そうとした。
思い出そうとしているうちに、相手のほうが淳平に気づいた。
淳平はとりあえず会釈をした。
まだ思い出せない。
相手のほうはちょっと戸惑ったように淳平を見て、そのまま立ち去ろうとした。
淳平の体は反射的に動いていた。
「待てよ、何か大学に用があったんじゃないのか?」
駆け寄ってそう声をかけると、相手は振り返った。
間近で見ると、いっそう悠樹に似ていると思ったが、雰囲気は別人だった。
恐ろしいほどの色気を放つ青年だった。
「あ……」
淳平はようやく思い出した。
以前にもこの場所で確かに出会っている。
悠樹と一緒だった時だ。
そして、彼は悠樹に話しかけた。
その時にも、悠樹に似ていると思い、そしてすぐにまったく似ていないと思いなおしたのだった。
確かその時、悠樹は漣の知り合いのようだと彼のことを説明していたように思う。
「特に用事は。通りかかったので、見ていただけだから」
相手は抑揚のない声でそう告げた。
「ひょっとして……悠樹の知り合い?」
「誰かと勘違いしてるんじゃないかな?そんな人は知らないよ」
彼はそう言って微笑むと、淳平に背を向けた。
知らないはずはない……目の前で話しているのを淳平は確かに見たのだから。
淳平はさらに彼を追いかけ、その肩を掴んだ。
まるで女性のように華奢な肩だった。
「嘘つくなよ。お前、以前に悠樹と話してただろ?俺はその時そばにいたんだ」
相手は初めて少し不快そうな顔をした。
「だから何?」
「何って……」
「僕が嘘をついていたとして、それが何か問題でもあるわけ?」
「嘘なんてつこうとした理由が知りたい」
「理由なんてない」
そっけなく言われて、淳平は苛立ちを覚える。
最初に悠樹の知り合いだとか、漣の知り合いだとかいって素直に認めてくれれば、淳平だってここまでムキになることはなかったのだ。
そのまま彼が立ち去るのを止めることもなかったと思う。
「手を離してくれないかな?」
そう言われて、淳平は自分が彼の肩を掴んだままだったことを思い出し、慌てて手を離した。
「本当のことを言おうか?」
「言えるんだったら、最初から言えよ」
苛立ちを必死に堪えながら淳平が言うと、彼はちょっと寂しそうに微笑んだ。
「僕にも解らないんだ」
「は?」
「ここへ来た理由」
「特に大学に用事はなかったんだ。これは本当。これでいい?」
「いや、俺が聞きたいのは……悠樹の知り合いなのかどうかってこと。今あいつは大学を休学してるけど、友達だから知り合いに会ったら、伝えなきゃいけないだろ」
これには彼は笑うだけで口をつぐんだ。
「悠樹の知り合いなんだな?」
もう一度確かめるように問うと、彼は風に消えそうな頼りない声で答えた。
「知り合いという言葉を使うことを、悠樹が許してくれるなら……」
「どういうことだ?」
意味を図りかねて淳平が問い返すと、彼は時計を指差して笑った。
「そろそろ講義が始まる時間じゃないの?」
「あっ!」
時計を見ると、教室までダッシュしなければ間に合わない時間になっていた。
「遅刻したらうるさいんだよ、あの教授」
思わず舌打ちして駆け出そうとして、淳平は彼を振り返った。
首に巻いていたマフラーを取り、それを彼に投げつけた。
マフラーは彼の顔に命中し、それをそのまま手で受ける。
「せめてそれを首に巻いてろ。見てるほうが寒くて凍死しそうになる」
彼はマフラーを握り締めたまま、少し驚いたような顔で淳平を見た。
「あ、それもう返さなくていいから!じゃあな!」
そう言って淳平は慌てて教室棟に向かって駆け出した。
ダッシュしても間に合うかどうか微妙な時間になってしまった。




再びぽっこり時間が出来たので、以前から暖めていたBreathのサイドストーリーを書いてみました。
全部で7話ぐらいになると思いますが、もうちょっと増えるかもしれません。
更新はまた不定期になりますが、お付き合いいただけますと幸いです。
今回は淳平×文礼のお話です。
二人のカップリングは当初から考えていたのですが、本編に入れるとややこしくなりそうだったので、もののみごとに端折られました(笑)
物語開始の時間軸はBreath第二部の26話と27話の間ぐらいです。
サイドストーリーということで、気楽に楽しんでいただければ幸いです♪



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EDIT [2011/09/10 12:21] Breath<SS> Comment:0
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