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「熱下がってよかったね!」
車で悠樹を大学に送りながら、テツヤは嬉しそうに言った。
「うん、心配かけちゃったね」
「ユウキが元気になったのなら良かった!」
心なしか、今日のハンドルさばきはいつもより軽快だった。
そんなテツヤをまた心配させてしまうことになるのを、悠樹は心苦しく思った。
思いながらも、一晩たっても気持ちは変わらなかった。
昨夜、漣と体を重ねたことで、その気持ちはいっそう強くなったかもしれない。
「着いたよ!」
「うん、ありがとう」
「今日は17時までだっけ?」
「うん」
「じゃあ、5分前にはここにいるよ」
「わかった。また後でね」
車の扉を閉め、悠樹は教室のある棟に向かう。
何となく後ろを振り返ると、この間熱を出したときに車を運転していた人の姿が見えた。
悠樹と目があうのを避けるように、彼は明後日の方向を向いた。
やはり、テツヤと同じ漣の会社の人間のようだった。
テツヤが車で送り届けた後は、彼が悠樹を見守ってくれているらしい。
それを確認して歩き出すと、前方に淳平の姿が見えた。
「おはよう」
悠樹のほうから声をかけると、淳平はいつもの笑みで迎えてくれた。
「もう熱は大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめんね」
「いや、良くなったんなら良かった」
「もうすっかり」
「あとでノート貸すよ」
「うん、いつも助かるよ。ありがとう」
そんな会話をしながら二人で並んで教室に向かった。



教室に向かう途中で、悠樹はふと足を止めた。
「どうしたんだ?また具合でも悪いのか?」
淳平が気遣わしげな声をかけてくる。
「あの……テツヤに謝ってて……それから、名前は知らないけど漣兄さんの会社の人にも」
「は?」
悠樹の言葉に、淳平は狐につままれたような顔をしている。
「すぐに追いかけてくると思うから。夜には必ず帰るからごめんなさいって伝えて」
「何言ってるんだ、お前。どこに行くつもりなんだ?」
「ごめん……淳平にも先に謝っておくね。本当にちゃんと夜には戻るから」
「どういうことだよ?何を考えてるんだ、悠樹?」
そう言って肩をつかもうとした淳平の手を振り切って、悠樹は駆け出した。
「おい、悠樹!待てよ!」
淳平は慌ててその後を追ったが、ふいをつかれてのことだったので、あっという間に悠樹の姿は見えなくなった。
「くそ……!」
尋常ではない悠樹の様子に、淳平もそこで諦めるわけには行かなかった。
ともかく、悠樹が走っていった方向に向かって走る。
悠樹が向かったのは、おそらく正門ではなく、東門のほうだろう。
「すみません……!」
淳平を追いかけるように駆けて来る者の姿があった。
「ユウキさんはどちらに?」
「知るか!急に走っていったんだ。どこかへ行くつもりらしい」
走りながら淳平は答えた。
相手も一緒に走っている。
「たぶん、東門だ……」
「OK」
とにかく二人で走って走って何とか東門に着いたけれども、そこには悠樹の姿はもうなかった。
「あいつ……足速いんだよな……くそ……!」
昔から悠樹は陸上部からスカウトが来るぐらいに足が速かった。
特に運動部に所属していたわけでもないのに、現役の陸上部の人間などよりも速かったりしたのだ。
その悠樹が全速力で走ったら、追いつくのはとても難しい。
目の前にはそれほど広くない道路があるだけで、悠樹の姿はない。
息を整えながら、辺りを見回す隣の男に淳平は視線を向ける。
「悠樹の従兄弟の会社の人?」
「そうです」
「謝っておいてくれと悠樹は言っていたけど。夜には必ず戻るからって」
淳平の言葉に、相手の男は首を横に振る。
「緊急事態だ……」
そう呟きながら携帯を取り出してどこかに電話をかけると、早口の英語で何かをまくしたてるように彼は喋った。
「ここはタクシーなどは通りますか?」
ちょっとたどたどしい日本語で、相手の男が聞いてくる。
「通るな……こっちの門から入るやつもいるから。遅刻しそうになってタクシーを使うやつもいるし……特に講義が始まる前のこの時間だと、通る可能性は高い」
実際に、漣もここでタクシーの乗り降りをする学生を何度か見たことがあった。
男は携帯電話で誰かに話をしている。淳平のヒアリング能力を駆使して会話の内容を聞いてみると、どうやら今の状況を説明しているようだった。
男は見た目はちょっと彫りの深い顔をしているものの、カジュアルな服装で学生に紛れ込んでしまっても不自然ではないような姿だった。
喋らなければ、日本人の大学生だと誰もが思い込むだろう。
やがて、目の前に一台の車が止まった。いつも悠樹を送り迎えしている車だ。
そこから降りてきたのは、先日倒れた悠樹を連れて帰ったテツヤという男だった。彼のほうは一目で日本人ではないとわかる風貌だ。しかし、日本語は日本人が喋っているみたいに上手い。
悠樹の状況を伝えるために何度か電話をもらったりもしたが、外人特有の訛りのようなものが一切なかった。
「ジュンペイ、ユウキの行き先に心当たりは?」
「ない。俺のほうが聞きたいぐらいだよ」
「そうか……」
「本当に急だったんだ。夜には帰るってことと、あんたたちに謝っておいてくれって言い残して……」
淳平の話を聞いて、テツヤは難しい顔をする。
「あんたたちの社長にには話したのか?」
「まだ……レンはいま大事な会議に出ているから、連絡は出来ない。終わればすぐに連絡を取る」
「会議かよ……こんな時に……」
淳平は忌々しげに舌打ちする。その様子を見て、テツヤは苦笑した。
「社内の会議なら電話は通じるだろうけど……さすがに社外での会議だから……」
「まあ……そんなことを言っていても始まらないか……」
「そうですね……とりあえずユウキを探さないと……」
「あんたたちは今からどうするんだ?」
「手分けしてユウキを探します。駅や……その周辺から」
「じゃあ俺も行く」
「講義は?」
「もうそれどころじゃない……」
淳平の気持ちを察したのか、テツヤは車のドアを開けて促した。
「乗って。一緒に来てもらうからには、頑張って探してもらうよ」
「当然だ」
淳平は勢いこんで車に乗り込んだ。



大学の前で運良く通りがかったタクシーに飛び乗り、ともかくも横浜のほうに向かってもらう。
あの日の記憶をたどっていくうちに、文礼に乗せられた車が横浜方面へ向かったことを思い出した。
横浜といっても広いが、確か居留地の近くを通ったような覚えもあった。
漣との約束を破ってついていったという後ろめたさもあって、車に乗っていた間はちゃんと外の景色などは見ていなかったように思う。
ただ、近くまで行けば、何かを思い出せるのではないかという漠然とした期待を抱いている。
横浜ぐらいテツヤに言えば連れて行ってもらえたかもしれないけれど……。
それをしなかったのには理由があった。
悠樹はもしもその家の場所を思い出すことが出来たら、文礼に会おうと決めていた。
記憶を取り戻すための近道でもあるし、何より、今起こっていることの真相を確かめることが出来ると思ったのだ。
いろいろと憶測するよりも、会って確かめるのが一番早い……。
ただ、文礼に会うなどと言ったら、テツヤはおそらく反対するだろう。
漣があれだけ会うなと言っていたのだし。
だから言わずに一人で来たのだ。
後ろを振り返ってみたけれど、テツヤたちが追いかけてきている気配はなかった。
あとでさんざん怒られることは覚悟しているが、それよりもやはり申し訳なさが先にたってしまう。
今頃、姿の見えなくなった悠樹を必死に探しているに違いない。
帰ったら真っ先にテツヤと淳平に謝らないと……。
そう思いながら、悠樹は窓の外の景色に目を向けた。



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EDIT [2011/07/27 07:00] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/27 22:07] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!

二人の思いと行動が、悪いふうにすれ違っていますよね。
漣にしてみたら、過去のことは過去のこと、って感じで、本当に完全に割り切っているのかもしれません。
割り切られるほうにとったら、たまったものではないですが(笑)
割り切ることが二人に対する礼儀みたいに漣は考えているのでしょう。

記憶はどうなるのでしょう。
もう思い出す寸前まで行っていたはずなので、かなり危うい状況なのかなと思います(汗)

拍手もいつもありがとうございます♪
更新が早朝にも関わらず、直後に拍手がいただけてたりするので、いつも驚いています(笑)

次回もまたがんばって更新しますので、ぜひ読みに来ていただけると嬉しいです!
[2011/07/28 08:02] EDIT
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