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その日、橘は夜に予定があるというので、店は夕方に早仕舞いすることになった。
急なことだったので、弘海は何となく違和感を感じた。
今までは前もって早仕舞いをするという告知がある場合がほとんどだったので、こうしたことは珍しかった。
弘海は自分が残業をしていつも通りの営業をしてはどうかと提案してみたが、橘は早仕舞いで良いという。
結局、弘海は定時で仕事を終えることになった。
「じゃあ、本当に帰りますけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう。明日は定休日だし、ゆっくり休んで」
「はい、ありがとうございます。お先に失礼します」
店を出ながら、今日は三芳が姿を見せないことが弘海は気がかりだった。
遠くへの営業に出ている時などは夕方まで店に戻らないこともあるのだが……。
ため息をつきながら店の扉を開けて、弘海は思わず笑顔になった。
「あ、迎えに来てくれてたんだ」
店の外ではショーンが待っていてくれた。
「残業になるかもしれなかったのに……」
そう言って苦笑しながらも、弘海は嬉しい気持ちだった。
「今日はどうだった?」
開口一番にショーンがそう聞いてきたのは、やはり店でのことを今朝ショーンに話したからなのかもしれない。
「うーん……何かね……今日は橘さんの予定があるからって、店は夕方で閉めるんだ」
「そうなのか」
「うん。何か変だよね……今までこんなことなかったのに……」
改めてショーンに報告してみると、弘海は不安が大きくなっていくのを感じた。
「三芳さんも今日は店に来てないし……ねえ、ショーン……どうしよう……もし二人が喧嘩してどっちかが店を辞めるとかいう話になったら……」
「それは困るんじゃないのか? 二人がいるおかげで店はもってるようなものだって弘海も言ってたぐらいだし……」
「うん……」
ショーンに言われると、弘海はさらに心配になってきた。
本当に二人で二人三脚でやって来たからこその『ル・レーヴ』で、どちらかが欠けたらまったく違う店になってしまうかもしれない。
「ね……ショーン……今日は橘さん、夕方から予定があるみたいなんだ。ちょっと調べてくれないかな?」
弘海の言葉にショーンはしばらく黙り込んだが、やがてため息混じりに頷いた。
「そうだな……弘海も心配だろうし……」
「ありがとう……」
ショーンは道の端に立つ木から葉っぱを一枚とると、それに口付けをする。
それを弘海に手渡した。
「これを彼の衣服か荷物の中に入れてくるといい。それを通して彼の行動を見ることが出来る」
「う、うん! ありがとう!」
弘海は駆け足で店に戻り、ロッカールームに飛び込んだ。
バッグや衣服はロッカーの中だが、橘の上着は外にかけてあった。
まだ上着の必要な時期で良かったと弘海は思いながら、その上着のポケットにショーンから預かった葉っぱをしのばせた。



帰り道、ショーンと一緒に買い物をして家に戻り、ゆっくりと夕食の支度をしている時にショーンが呟いた。
「動いたな……」
「あ、橘さん?」
「ああ」
「あの上着、ちゃんと着て帰ってくれたんだ」
「今のところは上手くいっているようだ」
「そっか……良かった……」
弘海はちょっと安心する。
今の時期は早朝や夜には冷えるから、橘は上着を着て帰るはずだとは思っていたが、完全に安心はできていなかった。
ショーンは橘の動きに集中するように黙り込んだ。
弘海は気になりつつも、夕食の準備を続ける。
今日はショーンのリクエストでオムライスだった。
いつもは野菜とチキンが入る程度のオムライスだったが、今日は特別にイカや貝やエビなどの魚介類を入れたオムライスにする予定だ。
オムライスの具材の準備をしながら、魚介を利用したスープも作る。
あとは店で帰りに買ってきたパンを並べるつもりだ。
ショーンの様子が気になりつつも、弘海はオムライスの卵を割り、ボウルの中でかき混ぜていく。
外はもう暗くなりつつあった。
店を出た橘はいったいどこへ向かい、誰と会っているのだろう。
ショーンの目には、あの葉っぱを通してその様子が見えているのだろうか。



「ごちそうさま。美味かった」
「そう、良かった」
どうやら魚介類のオムライスはショーンに好評だったようだ。
おかわりをねだられたので、残っていた材料で弘海はもう一度オムライスを作った。
それもすべて平らげて、ショーンは満足そうな様子だった。
「それでさ……橘さんはどんな感じ?」
「今……誰かと会ってるみたいだな」
「そうなんだ……誰だろう……三芳さんかな?」
「いや……違うみたいだ」
「誰なんだろう……」
ショーンが手招きするので、弘海はショーンの横に座った。
「俺の膝の上に来て」
「あ、う、うん……」
ショーンが何かをしようとしているのだと思い、弘海は素直にショーンの膝の上に座った。
「今から俺が見ているものを見せるから」
「うん……」
「絶対に喋っては駄目だ」
「う、うん……解ったよ……」
まぶたの上に手のひらを乗せられ、弘海は少し緊張する。
これまでも不思議な魔法を何度か体験させてもらったことはあるけれども、これは初めての魔法だ。
手のひらに塞がれて真っ暗だった視界が、少しずつ明るくなってくる。
お皿がカチャカチャと鳴る音、クラシックのような音楽が流れている……どうやらレストランか何かのようだった。
橘は誰かと食事をしているのだろうか……。
ぼんやりとした色の世界が次第に明確な輪郭を持ち始め、その風景が明らかになっていく。
目の前に見えてきたのは、見たことのない男の人の姿だった。
どうやら料理はフランス料理のようで、ナイフとフォークを使って出された料理を口に運びながら、向かいに座る人物に微笑みかけている。
男はスーツを着た三十代前半と思われる人物で、そのスーツの色や形からして、わりと堅い職業の人間と思われた。
男は向かい合う相手に何かを話しているようだが、まだその内容までは聞こえない。
(手前にいる人が……ひょっとして橘さん……かな?)
弘海は思わずショーンに話しかけようとして、言われたことを思い出した。
喋っては駄目だ……というショーンの言葉。
慌ててすべての言葉を喉の奥に押し込んで、弘海は目の前の人物たちの会話に耳を澄ませるように集中した。



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