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結局、橘が解放されたのは、翌日の朝のことだった。
途中からは意識が危うくなり、気がついたら朝だったというのが事実に近い。
逃げ出すようにホテルの部屋を出て、そのまま自宅のマンションに戻ると三芳がそこで待っていた。
三芳には合鍵を渡してある。
それを使って部屋に入っていたのだろう。
橘を見るなり、三芳が苦い顔をした。
「またあいつか……」
「またって……前は去年の話だよ」
「一年に一度っていう話だったんじゃないのか? まだ一年経ってないだろ?」
「昨日呼び出されたのは、宗助が勝手に取引口座を解約しようとしたからだぞ。そんな理由で呼び出されたら、行かないわけにいかないだろう? 行ったらそういう流れになって断れなかった……」
「一年経ってないんだから、食事だけで帰ってくれば良かったんじゃないのか」
「だから今年はもうそういうことはない……疲れてるんだ。ちょっと休ませてくれ」
「せっかく俺が苦労して穏便に取引をやめる話を進めてきたのに、何でそれを元に戻したんだ?」
「何度も言ってるだろう? 強引に関係を切るようなやり方はしたくない」
「別に強引じゃない。ちゃんと新城とは別の担当者に話を通したぞ」
三芳の言葉に、うんざりした顔で橘はため息をついた。
「新城に借りた金だって、三年前には利息までつけて返済してるじゃないか。それなのに、何であいつにまだ遠慮する必要があるんだ?」
「それも何度も言ってる。店の危機を救ってくれたのは彼であることは間違いない。その感謝は忘れたくないんだ」
「でも、あいつのやってることは脅迫みたいなもんだぞ。最低だ」
「それでも……この関係を終わらせることが出来るのは俺じゃない。新城さんだけだ」
「そんなこと言ってたら、お前はいつまで経ってもあいつの好きなようにされ続けるんだぞ。あいつに良心なんかあるもんか。お前は騙されてるんだ」
「それでもいい……ともかく、この話はやめよう。疲れてるんだ」
「健介!」
声を荒げた三芳は、橘の腕をつかんだ。
「頼むから……今日は帰ってくれないか?」
橘がうんざりした顔で言うと、三芳は問い詰めるような表情で言った。
「お前さ……弘海に恋人が出来たことで、ちょっと自棄になってるんじゃないのか?」
三芳のその言葉に、橘は思わず視線をそらした。
「別に……そんなんじゃない……」
「お前が弘海のことを好きなのは、ずいぶん前から気づいてた。だから、俺は俺なりに応援しようと思ったんだ」
橘は三芳のことを軽くねめつけた。
「プレゼントをあげてたくせに?」
「それは別にやましい気持ちからじゃないぞ。素直に店長としてあいつが頑張ってるから、それをねぎらってやりたかっただけだ」
「本当に?」
橘にしては珍しく詰め寄ってくるその様子に、三芳は思わずため息をついた。
「やっぱりお前……まだ弘海のことが吹っ切れてないんだな……」
「…………」
橘は思わず言葉が出てこなくて黙り込んでしまった。
この場で黙りこむということは、三芳の言葉を認めてしまうのと同じことだった。
「お前の気持ちは解るが……弘海はもう結婚までしてるんだ。辛いだろうが、諦めてやるのがあいつのためだと思うぞ」
「そんなことは解ってる。それに……新城さんの誘いに乗ったのは、別に弘海のことが原因じゃない」
「だけど……」
「え……?」
橘は何かに衝かれたみたいに顔を上げ、辺りを見回した。
「どうした?」
「いや……今……何か弘海の声が聞こえたような……」
「重症だな……」
三芳は思わず苦笑いする。
それに思わずカッとなったように橘は言い返した。
「ほ、本当なんだって! ものすごくリアルに……聞こえた気がしたんだ!」
「そうか……」
言いながら部屋の中を見回し、橘は大きく息を吐いた。
「……やっぱり疲れてるのかな」
「そうだろう……とりあえず、俺は帰る。また夕方に来るから、それまでに少し頭を冷やしてろ」
さすがに橘の疲労の色が濃いと見たのか、三芳はおとなしく引き上げていった。
「頭を冷やすのは宗助のほうだろう……」
三芳のいなくなった部屋で毒づくように言って、橘はため息をついた。
「それにしても、さっきの……」
橘はもう一度、部屋の中を見回した。
そして、やはり弘海の姿はないことを確認して、もう一度ため息をつく。
「やっぱり疲れてるんだな……」
上着を脱ぎ、クローゼットのハンガーにかけると、ひらひらと一枚の葉が床に落ちた。
「いつの間に……」
橘はその葉を拾い上げた。新緑の季節のはずなのに、その葉はまるで枯れたみたいな色をしていた。



「く、くるしい……ショーン……」
目と手を強く押さえつけられ、弘海は抗議した。
ようやく手を離してくれたけれども、ショーンはちょっと不機嫌そうだ。
「声を出すなと言ったのに……」
「ご、ごめん……」
橘に動きがあったと聞いたのは、ちょうど朝食を終えた頃だった。
どうやら橘の部屋に三芳が来ているらしいということをショーンから聞き、昨日と同じ要領でその様子をショーンを通して見せてもらっていたのだ。
しかし、その会話の最中に弘海は思わず声を上げてしまった。
「ご、ごめんって……だっていきなり俺の名前とか出てくるし……」
「そんなことぐらい予想できるだろう? 彼は弘海のことが好きだったんだから」
「だから……さっき初めて知ったんだって……知ってたらあんなに驚いたりしないよ……声を出したのは悪かった。本当にごめん……」
「まあ……何とか気づかれずには済んだようだが……」
ショーンは不満そうな色をあらわにして弘海を見つめた。
「な、なに!?」
「俺だってリュウスだってずっと言い続けてた。気づいてなかったのはお前だけだぞ」
「た……橘さんのこと?」
「そうだ。お前はいつも隙だらけで彼の前に行くから、向こうだって期待を持つ。だから俺は何度も忠告したつもりなんだがな」
「何それ……結局、俺が悪いって言いたいの?」
弘海が泣きそうな顔になると、ショーンは顔をそらした。
橘が弘海のことを好きになったことも、まるで捨て鉢みたいな状態で新城に体を任せてしまったことも、すべては弘海のせいだとショーンは言いたいのだろうか。
弘海自身は違うと思いたいが、三芳の口からもあの場で弘海の名前が出てきた。
ということは、三芳も弘海に原因があるとみている可能性が高い。
「……仕方ないじゃん。どうせ俺は鈍感なんだろ? 自分が鈍感だってことがよく解りました。これでいいの?」
何だかよく解らなくて、涙が溢れてきた。
悪いことなんて一切した覚えがないのに、知らないところで自分の名前が出て、まるで責めるようなことを言われる。
こういう場面で泣くのは卑怯だと思っていても、いろんな感情の収拾がつかなくて、涙が止まらなくなってしまった。
「ごめん……」
ショーンが弘海を抱きしめてきた。
「嫉妬してたみたいだ……きつい言い方をして悪かった……」
「ショーン……」
「お前が悪いわけじゃないんだ。彼も悪くない。だからもう泣くな……」
「うん……」
弘海は頷いたが、しばらく涙は止まりそうになかった。



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