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少しずつ、音が鮮明になってきた。
向かいのスーツ姿の男性の声らしき音とともに、橘の声に似たような音も耳に入ってきた。
ラジオのチューニングをあわせるように、少しずつその声が鮮明になっていく。
「に……驚いたよ……突然だったしね」
「……しわけ……ません……」
まだ少し二人の声は聞き取りにくかった。
弘海は軽く深呼吸して、さらに耳を澄ませてみる。
どうやら二人のやり取りは、穏やかではあるが、何か深刻そうな様子だった。
「三芳さんはどういう了見で、うちとの取引をやめたいと言ってきてるのかな?」
「たぶん……メインバンク一本で行きたいと考えているのだと思います。そういう理由だと俺は聞いています」
「でも、うちはメインではなくなったけれども、これまでにかなり融資もしたし、いろんな面で融通をきかせてきたつもりなんだけどね」
「解っています……俺は感謝もしていますし、俺自身はこれからもお付き合いいただければと考えています」
「三芳さんの意見はどうなんだろうね」
「三芳のことは俺が説得します。オーナーは俺なんで……納得してくれると思います」
「だったらいいけど……」
会話の内容から察するに、相手の男は例の銀行の男のようだった。
メインバンクではなく、橘が店を始めた頃からの付き合いだという銀行のほうだろう。
「ともかく……こういうことはこれからは困るよ」
「はい……気をつけます。三芳にも重々、注意をしておきます」
どうして橘がこんなに謝らなければならないのだろう。
弘海はだんだん理不尽な気持ちになってきた。
たとえ世話になった銀行だとしても、そこは商売なんだから、何か理由があって切るようなことがあるのは当然のことだ。
ただ、三芳が独断で突然それを行なったというのなら、その非礼を多少は謝罪する必要はあるだろうが。
けれども、相手のどこか見下したような態度といい、相手のいうことに素直に謝罪し続ける橘の態度といい、弘海は違和感を感じて仕方がなかった。
何かまだ表面的な理由のほかに裏がありそうな気がする。
テーブルにはデザートと食後の飲み物が運ばれてきていた。
「この後は?」
「この後は……店に戻るつもりです。今日は急なお誘いだったので、店を早仕舞いをしてきました。ですから、いろいろとやり残してきた作業があります」
「上に部屋をとってあるんだ」
「そういうお誘いはもう……」
「つれないな……君が言うから、一年に一度程度で我慢しているのに」
男のその言葉に、弘海はまた危うく声を上げそうになってしまった。
(この会話の流れ……橘さん、この男の人と関係があるってこと!?)
「だからもう……そういうお付き合いはお断りさせていただきます。何度もそう言っていると思いますが」
「俺に一人で部屋に泊まれっていうのかな?」
「今日はお食事だけの約束のはずです。それ以外の約束はお断りしますと最初に言っておいたはずです」
「じゃ、明日。定休日だよね?」
「定休日ですが……残念ながら予定があります」
「じゃ、やっぱり今夜だね」
「新城さん……」
「君は断れないはずだよ、健介」
男のその言葉には、いろんな事情が含まれているような気が弘海にはした。
まるで脅迫でもしているかのような、静かだが強い口調だ。
「行こうか」
男は立ち上がった。
橘のため息が聞こえたところで、ショーンが目を覆っていた手を外した。
「あ……」
「いったん回線を切った。この先は見ないほうが良さそうだし」
「そうだよね……」
あの展開だと、橘はおそらく男の部屋へ行ったのだろう。
そこで行なわれることを考えたら、これ以上覗き見しないほうが良いのは当然のことだった。
弘海は何だか嫌な気分だった。
バッドエンドの後味の悪い映画でも見てしまった後のような……。
「さっきのさ、もし俺が声を出してたらどうなってたの?」
「敏感な人間なら気づかれるな。お前が傍にいたような感覚を強く感じるはずだ」
「そうなんだ……」
「もっと勘の良い人間なら、ポケットにしのばせた葉が関係していると気づくだろう」
「俺……何度も声出しそうになったよ……」
「出さなくて良かった。バレたら面倒なことになりそうな話だったな」
ショーンは苦笑する。
「ちゃんと見れただろう?」
「う、うん……」
「そういう事情だったのか?」
「うーん……なのかな。複雑だね……何だか……」
中途半端に事情を知ってしまったから、弘海はかえって心配になった。
「橘さん……本当にあの人の部屋に行ったのかな……」
「あの展開ならほぼ間違いないだろう……そんなに気になるのか?」
「気になるよ! だって、俺の恩人だし、師匠だし」
「そういう理由か」
「それ以外に何があるんだよ?」
弘海が不機嫌に言うと、ショーンは苦笑いした。
「でも、何かもっと深い事情があるような気がするんだ。橘さん……脅されてるんじゃないのかな……」
「脅されてる?」
「うん……そうでないと、さんざん断ろうとしたのに結局部屋に行くなんてこと……橘さんはしないと思う」
「弘海がそう言うのだったら、そうなんだろうな」
「橘さん……すごく不自然な感じがしたんだ。きっと何か事情があるんだと思う」
弘海の言葉にショーンは頷いた。
「とりあえず、別の動きがあれば、また繋いでみる」
「うん……でも何か……盗撮みたいだよね……」
弘海の言葉にショーンは思わず肩をすくめる。
「弘海がやれって言ったんだろう……」
「そうだけど……」
確かに弘海が頼み込んだことで、ショーンが責められるべきことではない。
「ごめん……俺が頼んだんだもんね。ありがとう、少し事情が解ってよかったよ」
「もうこれ以上はやめておくか?」
問われて弘海は少し迷った。
盗み聞きをするのは橘に悪いという気持ちはあるけれども。
やはり橘や三芳のことが心配だった。
もしも橘があの男に脅されているのだとしたら、何とかして助けだす方法を考えないといけない。
「やっぱり気になるから……もし何か動きがあったら教えて」
「解った」



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