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悠樹が目を覚ましたことに気づいた漣は慌てて目の辺りをぬぐったが、どうやら遅かったようだった。
「漣……兄……ど……して……泣いてるの?」
「あ、いや……大丈夫だ……」
とりあえず出てきた涙はぬぐったものの、まだ瞳が潤んでいるのは隠しようがなかった。
「ごめん……俺……約束……破っ……て……だから……?」
「いや……お前のせいじゃない……」
「ぜんぜん……覚えてない……だけど……どうやって……俺……帰ってきたんだろう……」
漣は一瞬、言葉に詰まってしまう。文礼の名を出すべきか出さないべきか。悠樹は文礼に会ったことは覚えているようだし、出さないのはかえって不自然な気がした。
「文礼から連絡をもらって。それで迎えにいったんだ。気分が悪くなって倒れたらしい……」
「そっか……ごめん……ね……漣兄さん……まで……迷惑……かけて……」
まだ喋るのも辛そうな様子の悠樹の頭を、漣は優しく撫でてやった。
声が完全に枯れてしまっているのは、あまりにも無理な行為のせいだろう。
「もう喋らなくていい。とにかく具合が良くなるまで、ゆっくり休むんだ」
「うん……」
いったいどこまで覚えているのか、それを確かめておきたい気はしたが、今はとにかく休ませることが先決だと漣は思った。
ゆっくりと話をしながら悠樹の記憶を確認し、彼が傷つかないようにフォローをしておくことが必要だろう。
漣に頭を撫でられながら、悠樹は静かな寝息を立て始めた。



悠樹がようやく普通に起き上がれるようになったのは、それから三日後の話だった。
三日間、漣はほぼ付きっ切りの状態で看病し、仕事もすべて家から指示を出すだけだった。
「よし、熱は下がったな」
「うん、本当にごめんね。でも、もう俺大丈夫だから、漣兄さんは明日から仕事に行って」
「そうだな……そろそろ行かないとやばいな……」
「本当にごめん……きっと大変なことになってるよね……」
「いや……電話で逐一報告は聞いてたし、指示もちゃんと出している。出社しないと出来ないことだけを後回しにしてもらっていただけだから」
「そっか……」
それでも自分のために迷惑をかけたことに代わりはなかった。
漣が普段、どれだけ仕事が忙しいかを知っているだけに、心苦しさもひときわだった。
結局、悠樹はあの後出した熱のせいで、気を失う前のことをほとんど忘れてしまっていた。
悠樹が覚えているのは、大学で文礼に会い、そこで漣との約束を破って文礼についていき、そこで気を失ったということだった。
文礼についていってしまった理由も、漣についての話を聞くためというぼんやりとしたことしか思い出せない。
なくなった記憶のことはとても気になったが、漣ももう無理に思い出さなくて良いと言ってくれるから、悠樹も無理をして思い出さないことにした。
「まだ油断するなよ。大学は出来たら来週からにしたほうがいい」
「え……」
体温計をしまいながら言う漣の言葉に、悠樹は思わず目を見開いた。
「俺、大学行ってもいいの?」
「ああ」
「約束……破ったのに?」
「反省もしてるみたいだし、今回はいいことにする」
漣の言葉に、悠樹はしばらくの間、目をまん丸に見開いていた。
「絶対……もう行かせてもらえないと思ってた……」
「俺がそんな鬼に見えるか?あの時は事情があったんだ」
「でも、ありがとう、漣兄さん。本当に嬉しい……」
そう言って微笑む悠樹に、漣はそっと唇を重ねる。
貪るようなキスじゃなく、何度も唇が触れる程度のキスを繰り返した。
悠樹は漣のシャツをぎゅっと掴み、そのキスを受け止めていく。



「俺が珍しく風邪引いたと思ったら、悠樹もひいてたんだもんな」
一週間ぶりに大学にやって来た悠樹とカフェテリアで向かい合いながら、淳平は笑う。
幸いなことに、淳平は一日だけ休んですぐ復帰したので、お互いにノートを貸し借りしあって休みの間の授業の穴埋めをすることが出来そうだった。
「しばらく携帯も繋がらなかったからさ、いったい何があったのかって心配したぜ」
「ご、ごめん……」
「まあ、お前って昔から体が弱いもんな」
アイスコーヒーを飲みながら言う淳平の言葉に答えることなく、悠樹は窓の外をぼんやりと眺めていた。
一週間の間、漣は悠樹にまったく手を出して来なかった。
その代わりに、キスをしたり、抱きしめてくれたりする回数は大幅に増えたように思う。
夜は一緒のベッドで眠るが、悠樹を抱きしめてそのまま眠るだけだった。
以前は一緒のベッドに眠れば必ず体を交えていたのに、悠樹が熱を出して以来、そんなことが続いていたのだ。
ひょっとすると、悠樹の体が完全に回復するのを待っていてくれているのかもしれないが……。
それにもうひとつ気になることがあった。
漣がたまに、今まで見たこともないような表情を見せるようになったのだ。
悠樹を見るとき、なんだかとても辛そうな顔をするときがある。
漣はもちろん、悠樹が気づかないようにしているつもりなのだろうが、一ヶ月以上も一緒に暮らしていれば、そのぐらいの異変は感じ取れてしまう。
それにしても、漣はどうして何もしてこないのだろう……。
一緒のベッドで寝ているのに、漣が何もしてこないなんて、絶対におかしすぎる。
「おい、悠樹……!」
「あ……」
気がつくと、目の前の淳平が呆れたように見つめていた。
どうやら淳平はずっと話しかけてくれていたらしい。
「ご、ごめん……何か話してた?」
「俺……ずっとワンマンショーやってたぞ……」
「ご、ごめん、本当にごめん……で、何の話?」
淳平はむくれた顔でアイスコーヒーを飲みながら、悠樹に向かって首を傾げてくる。
「お前……何か悩みでもあるの?」
「べ、別に……」
悠樹が思わず言葉を濁すと、淳平はハッとしたような顔をした。
「それか……わかったぞ!もしかして、あいつに何かされたのか!?」
「ち、違うよ!何もしてくれないんだよ!」
思わずそう答えてしまった言葉に、漣は見たこともないようなアホ顔になっていた。
「あ、忘れて……ごめん、忘れていいから……」
「そ、そうだな……そうする……」
淳平が素直にそう引き取ってくれたのは良かったが、その表情はまだアホ顔を引きずっていた。
悠樹は思わず顔が熱くなるのを感じる。
ずっとそのことばかりを考えていたとはいえ、何ということを口走ってしまったのだろう。
とりあえず、相手が淳平でよかった……。
アホ顔にはなってしまったけど、彼のことだ。きっと明日にはいつも通りに戻っているだろう。
そう願いを込めながら、悠樹も目の前のアップルジュースを飲み干した。



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EDIT [2011/07/05 18:36] Breath <1> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/05 23:09] EDIT
コメントいつもありがとうございます!
また、拍手1ゲットもおめでとうございます♪
モロバレ……確かにそうですよね(笑)
キャラクター的な体面もあるので、もう少し頑張ってもらいたいところです(笑)

遅刻は大変です(汗)
更新時間などがあまり規則正しくはないので、何度も見に来てもらうことになってしまいますよね(涙)
話によっては早く書けたり、あとは自分の予定とかもあるので、予告するのもなかなか難しかったりで。
それでも見に来てくださることにいつも感謝です♪
次回の更新も頑張りますので、またぜひ読みに来ていただけると嬉しいです^^
[2011/07/06 07:24] EDIT
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