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文礼(ウェンリィ)につれられてやって来たのは、彼が日本の住処にしているという郊外の住宅だった。いや、住宅というよりは邸宅……屋敷といったほうがいいかもしれない。
悠樹の実家も相当の広さがあるが、それよりも遥かに広く、家というよりもやはり屋敷という印象が強い。
そこの豪奢なダイニングに案内された悠樹は、文礼と向かい合う形で席についた。
いちおう洋風の体裁はとっているものの、ところどころにアジアをイメージするような装飾やインテリアが配置されている。
確かに食事の誘いであることは間違いないようで、きちんとテーブルにはナプキンやナイフやフォークといったものが準備されていた。
中国の料理を食べるときに使う、長い箸もおいてある。
「好き嫌いは?」
問われて悠樹は首を横に振った。
「特に……」
言葉少なく答えたのは、やはり本当に文礼についてきて良かったのかという不安を感じていたからだ。
漣があれほど近づくなと言った意味を、悠樹はよく理解できていなかった。その理由が嫉妬だというのなら、それほど心配する必要もないのだろうが。
「すぐに食べれそう?」
「う、うん……」
「じゃあ、準備をさせるね」
そう言って文礼は立ち上がり、扉の向こうにいる家人に中国語らしい言葉で話しかける。まったく意味は解らない。
その会話を聞いているうちに、ますます心細くなってくる。そもそもどこか店での食事だと思っていた。まさか自宅に招かれるとは思わなかったのだ。だから、店を出てすぐに別れればいいと。
もう話だけ聞いて、さっさと帰ってしまおうか……。
気持ちはすっかり食事をするようなものではなくなってしまっていた。
「あの……文礼……」
悠樹は立ち上がって彼に声をかける。
「ごめん……せっかくだけど、やっぱり食事はやめておく。ちょっと食欲なくて……」
「そう?大丈夫?」
「うん……準備してくれてたのに、ごめん……」
「気にしないで。じゃあ、何か飲み物でも持ってこさせるよ」
「あ、う、うん……」
飲み物すら飲みたくない気分にはなっていたが、それも断るのはあまりにも失礼というものだろう。
約束をしていた食事を断っただけで、十分に礼を失しているのだから。
しばらくすると、家人らしい男がいかにも高価そうな茶器を運んでくる。
「お茶でも飲みながら、さっそく本題に入ろう」
「う、うん……」
本題……漣と文礼の関係だけは少し気になっていた。今日はその話を聞いて帰れればそれでいい。そう思い直して、悠樹は目の前に運ばれきた中国茶のようなお茶に口をつける。
何だかとても変わった味だと思った。中国茶だからだろうか。かといって飲みにくいわけではないのだが。
「不思議な味……」
「それは1gが数万円もするようなとんでもない珍品だからね。とっておきのお客様が来たときにしか出さないんだ」
「へえ……」
確かに変わった味ではあるのだが、申し訳ないことに美味しいとは思えなかった。けれども、妙に後をひく味ではある。
「で、本題だけど……」
「う、うん……」
「僕と漣はアメリカで出会ったんだ。それは聞いた?」
悠樹は首を横に振る。文礼のことを漣はいっさい話そうとしなかったから、彼に関する情報はまったく知らなかった。
文礼は頷いて話を続ける。
「確か5年ほど前の話だったと思う」
「5年前……」
引っかかったのは、つい最近5年前を思い出したからだ。それはアメリカの漣からメールがあった時期だ。そのメールには返事をしていないのだけど。
「僕は14、彼は20歳ぐらいだったかな。ともかくそれぐらいの年齢の時に出会って、僕が体の関係を持ちかけたんだ」
「え……」
あまりにも唐突であけすけな話に、悠樹は持っていた茶器を思わず置いてしまった。
「漣もその頃、何か面白くないことでもあったんだろうね。僕の誘いに乗ってきた」
「…………」
面白くないこと……まさか悠樹がメールに返事をしなかったことだろうか。それを考える暇を与えようとしないかのように、文礼は話を続ける。
「僕はもともと、とある華僑の所有物でね」
「所有物……?」
あまり穏便とも思えないその言葉に、悠樹は顔をしかめた。
「そう。でも、その頃に最初の所有者が死んだんだ。もうかなりの年だったからね。それで僕はちょうどフリーだった」
「そ、そうか……」
「だから、セックスについては、最初僕のほうが断然優位だったんだ。でも、本当に最初だけだった。もともと飲み込みの早い漣はあっという間に技巧を覚えこんでしまって、僕は彼に何度も泣かされたよ」
「…………」
「立場上、いろんなセックスをしてきたつもりだったけど、漣とのセックスほど熱くて刺激的なセックスは知らなかったな」
そう言って文礼は微笑みかけてくるけど、悠樹はどういう顔をしていいか解らなかった。文礼は話を続ける。
「僕と漣はそれから4年ほど一緒に過ごした。別れを切り出されたのは1年前。日本に帰ることになったから終わりにしようと漣が言ってきた」
「そう……だったの……」
こういう話をしてくるということは、ひょっとすると文礼は自分と漣の関係についても知っているということなのだろうか。もしくは薄々気づいているのかもしれないが。
「もともと恋愛感情なしでお互いにしがらみなく付き合おうって提案したのも僕だったしね。ちゃんとあっさり別れてあげたよ。ちょうど僕も次の所有者が決まる頃だったし」
悠樹には返事のしようがなかった。漣が過去に体の関係を持った相手と今ここにこうしていることも、そうした相手がいたということも、まだ自分の中できちんと消化されてはいなかった。
しかもそれは、1年ほど前まで続いていたのだ。
だからちょっと呆然としたような顔をしていたと思う。
「驚いた?」
そう言って美しい顔を微笑ませながら、文礼は首を傾げてくる。
「う、うん……少し……」
「隠さなくても大丈夫だよ。君と漣の関係もほぼ把握している」
「え……」
「5年前、漣が君にメールを送ったことも。それに対して君が返事をしなかったことも」
「…………」
「別に漣から聞いたわけじゃない。そんなことを調べるのは、それほど大した労力じゃないしね」
文礼の話を聞きながら、悠樹は何だか少し恐ろしくなってくる。他人のメールの内容を、本人の許可なしに知ることを大した労力じゃないと言ってしまえることが怖かった。
漣は昔からかなり用心深いほうだった。パソコンやメールのセキュリティだって、それなりに気を使っているはずだ。
悠樹はふと思いついて尋ねてみた。
「ひょっとして……僕の大学や何かも、そのメールから解ったの?」
「うん、正解」
「…………」
悠樹は言葉をなくしてしまった。それでは自分の実家もすべて文礼に把握されてしまっているのだろう。
そう考えたとき、急に体に異変を感じた。
「あ……れ……」
悠樹は何だか目がかすんでくるのを感じる。意識に濃い靄がかかりかけている。
そういえば……悠樹はぼんやりと思う。
目の前に出された茶を飲んでいたのは、悠樹だけだった。彼は口さえつけていなかったということに、今さらながらに思い至った。
そしてもう遅かった。悠樹の体はまったく自由が利かず、そのまま椅子を滑り落ちるようにして床に転がった。
「あまり飲んでくれなかったから、意外に時間がかかったね。全部話してしまいそうになったよ」
そう言って文礼は床に横たわる悠樹の唇に自分のものを重ねた。
悠樹の反応はまったくない。
「本当にいい子だ……」
そう囁いて、文礼は鮮やか過ぎるほどの微笑を浮かべた。



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EDIT [2011/07/03 07:59] Breath <1> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/03 11:55] EDIT
さっそくコメントいただいて、ありがとうございます♪
当人はきっと、あの時点まで何の疑いも持ってなかったのでしょうね。お坊っちゃんですから(笑)
BL小説は何年も前に少し書いていたのですが、当時のパソコンが壊れてデータがぶっ飛んで、それきりでした(汗)
話の内容も何ももう思い出せないんですが、タイトルだけは覚えていて、そのタイトルが実は「Breath」だっりします。
だからこの話とは実は何も関係なく生まれたタイトルなのですが……何とか上手く繋がらないかなと思いつつ、ここまで来てしまいました・・・
また次回も頑張って更新していきますので、読みに来ていただけると嬉しいです^^
[2011/07/03 15:51] EDIT
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