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「悠樹、次の日曜って空いてる?」
大学のキャンパスを歩きながら、淳平が聞いてきた。
「うーん……ごめん、ちょっと空いてない」
「ひょっとして、デートとか?」
そう問いかけて、淳平は悠樹の反応を伺うような表情をする。
「う、うん、まぁ……」
淳平は何ともいえないような表情を作ったが、すぐに諦めたようにため息をつく。
「まぁ……デートの相手がいるってことは、いいことだよな」
「そ、そうだね……」
きっと淳平はそのデートの相手が漣だということを察しているのだろう。
はっきりと漣との関係について問いただされたことはないが、何となくの空気を淳平はきっちりと読んでくれているようだった。
正直言って淳平は呆れているのかもしれないと不安になりつつも、大学に行くたびに普段通りに接してくれているのが嬉しい。
「ごめん……ええと、その次の日曜はあけておくよ」
「おう。久しぶりに渋谷とか行って買い物でもしようぜ」
「あ、いいね」
「服もいろいろ買いたいしなぁ」
ここのところは本当にバタバタとしていて、淳平と遊びに行く機会も少なくなってしまった。
それでも不満を言ったりせずに付き合ってくれるのが、悠樹が小学校のときから知っている淳平という男だった。
「じゃあさ、日曜空いてなかったお詫びに、今日はランチをご馳走するよ」
「マジで!?いいのか、悠樹!?」
「うんうん。何でも好きなのを食べていいよ」
「好きなのって言っても、俺は『ING』の日替わりランチだけどな!」
「オッケー。じゃ、ランチは『ING』で決まりだね」
悠樹がそう言うと、淳平は嬉しそうに顔をほころばせた。



日曜日、悠樹が漣にねだってやって来たのは、上野動物園だった。
日曜日の動物園は殺人的な人ごみで、漣は少しうんざりとした顔をしている。
「確かに行きたいところがあれば言えって言ったけど……」
「あ、すごい!見てみて、漣兄さん!今キリンがエサを食べたよ!」
「人の話聞いてないな?」
「え?何か言った?」
きょとんとした顔で悠樹は漣を見つめてくる。
どうやら悠樹にはこの人ごみも大した苦痛ではないらしい。
漣は軽く首を横に振る。
「いや、もういい……それより、キリンのほかに見たいものはないのか?」
「パンダ!パンダが見たい!」
「パンダは……ものすごい行列だった気がするぞ……」
「駄目……?」
上目遣いに言われて、漣は諦めたようにため息をつく。
「せっかくだし、行くか」
「やったー!」
悠樹にとって漣の存在が、少しずつ今までと違うものに変化していた。
取り引きとして漣の『恋人』になった悠樹だったが、当初は体だけの恋人だと思っていた。
体を預けることさえ苦痛だった。
だけど、取り引きを決めたのは自分なのだから、せめて体が恋人になることには耐えようと思い続けてきた。
自分が男を本気で『恋人』と思える日なんて絶対に来るわけがないと思っていた。
けれども、その考えは日を追うごとに少しずつ変化をしていたのだ。
その自覚は沸いて来つつあるものの、まだ悠樹は完全に自分が漣を恋人として受け入れているとは思えなかった。
ほんの少しだけ、自分の気持ちが『恋人』に近づいていることに気づいた悠樹は、もう少し恋人らしいことをいろいろすれば、もっと自然に恋人になれるのではないかと考えたのだ。
悠樹はある日、正直に自分の気持ちを打ち明けた。
それに対して漣が言ったのは「デートでもするか」という言葉だった。
悠樹もその提案には大賛成し、どこに行きたいかと聞かれて、答えたのが上野動物園だった。
上野動物園は小さい頃は両親に何度も連れてきてもらった記憶があるが、最近はまったく行く機会がなかった。
パンダがやって来たというニュースを見て、行きたいと思い続けてきたのだった。
「パンだの行列に乗り込むぞ」
「うん!」
先に歩き出した漣の後を悠樹は慌てて追いかける。
パンダ前は想像以上の行列だった。
「すごい……こんなに人がいたんだ……」
「まあ……こんなもんだろ……」
「漣兄さん……ひょっとして疲れてる?」
「いや、気にするな。人ごみにあまり慣れてないだけだ」
「あ、ごめん……アメリカじゃ人ごみってあんまりないよね……」
「そういう場所に行けばあるが……できるだけ避けてたな」
そう言って漣は笑う。
人ごみが苦手なのに、日曜日の動物園に嫌がらずに付き合ってくれたことが悠樹には嬉しかった。
嬉しいと思うと同時に、もっと気を使えば良かったと反省もしたが。
「ごめんね……人ごみのこととか俺、ぜんぜん考えてなかった」
「悠樹はパンダが見たいんだろ?」
「うん」
「だったら、俺もパンダが見たい」
そう答えてくれた漣に、悠樹の顔が思わずほころんだ。
「パンダを見たら、きっと元気になるよ」
「ああ、そうだな……」
目的のパンダに出会えたのは、行列に並んで約2時間半後だった。
パンダはちゃんと起きていて、ちょうどエサの時間だった。
笹を食むパンダの様子はとても愛らしくて、悠樹だけでなく、漣の顔までもほころばせていた。



「あー、楽しかった!」
悠樹はすっかり暗くなった首都高速を走る車の中で、万歳をするみたいに両手を挙げてみせる。
動物園でパンダを見た後は、ゾウやカバやトラ、ライオンなどを見て回った。
どこも人でいっぱいだったが、漣は最後まで悠樹に付き合ってくれた。
「デートを締めくくるか」
そう言って、漣は首都高速を自宅とは違う方向に走り始める。
海を見渡せる港の駐車場で、漣は車をとめた。
先に車を降りた漣を追いかけるように、悠樹も車を降りる。
夜の海は少し怖さを感じるけれども、漣が一緒だとなんだか妙な安心感があった。
「寒いか?」
聞かれて悠樹は首を横に振った。
すぐに引き寄せられ、腕の中に体を抱きこまれる。
「少しは恋人に近づいたか?」
「う、うん、ちょっとね……」
なんだか照れくさい気分になりながらそう答える悠樹に、漣は優しく唇を重ねてくる。
唇を離すと、悠樹はさすがにちょっと言葉が足りなかったような気がして、慌てて言葉を付け足した。
「あ、あのね……すぐには無理だと思うけど……でも、ちょっとずつなら……その……恋人に近づいていける気がするんだ……」
「ああ……それでいい。俺はずっと待ってる」
「漣兄さん……」
漣は強く悠樹の体を抱き寄せる。
今度は深い深いキスをしてくる。
悠樹はその口付けを受け止めながら、漣の背中をぎゅっと抱きしめた。

第一部終了



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EDIT [2011/07/06 19:39] Breath <1> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/06 23:46] EDIT
>シークレットさん

不謹慎かもしれませんが、終了してショックとか言ってもらえると、私としてはものすごく嬉しいです(笑)
時間があるとき、何となく気分がのってる気がする時に一気に書いてしまうクセがあるので、気がついたら昨日、予定のお話まで書き終わっていたという状態でした(汗)
続きはそれほど時間をおかずに掲載する予定です!
ただ、私の時間の都合で、更新ペースが一日3話とかが当分の間、出来なくなりそうですけど(涙)

最初の頃は完全に漣の片思いから始まって、徐々にその比率が五分五分に近づいてきたという感じなので、漣の気持ちが薄らいできているということではないと思います(笑)
なので、そこはご安心ください!
第二部ではもちろん悠樹と漣のその後も書きますし、その後どころか再び嵐……いや、竜巻みたいな状態になることも考えられますので、引き続き楽しんでいただければ幸いです^^

コメントいつもありがとうございます!
[2011/07/07 07:43] EDIT
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