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リュウスの仕事ぶりは、さすがとしか言いようがなかった。
パンを作る作業も手際がいいし、はっきり言って弘海よりも筋が良い気がする。
販売のほうでも、愛想も良いし、手際も良いので、三芳がベタ褒めしていたほどだった。
(俺が一年かけて覚えたこと……リュウスは今日一日でやってるもんなぁ……)
今日一日で、弘海はずいぶんといろんな自信を失ってしまった。
パン作りにも才能というものがあるのだろうけど、これほど見せ付けられてしまうと、さすがに落ち込みそうになる。
リュウスはパン職人になる予定はないのだろうけれども、弘海はパン職人を目指しているというのに。
「どうしたの?」
気がつくと、橘が傍に立っていた。
店頭で働くリュウスを眺めているうちに、ぼうっとしてしまっていたらしい。
「あ……すみません。ええと……次は何をするんでしたっけ?」
「クロワッサンの成形を任せてもいい?」
「あ、は、はい!」
「一人で出来るかな?」
「この間は何とか出来たんで、大丈夫だと思います。後でチェックお願いします」
生地はすでに橘が作ってくれていたので、それを手順どおりに成形していく。
クロワッサンは成形の仕方によっても食べる時の感触や味に影響が出てくるので、まったく気を抜くことが出来なかった。
薄く延ばした生地を三角形に切り、それをくるくると巻いていく。
ただそれだけのことだが、これまでも何度か橘に駄目出しをされたことがあった。
最近ではその駄目出しも少なくなってはいたが、気を抜けばすぐに橘にはばれてしまう。
弘海は目の前の作業に集中した。
一度に何百個ものクロワッサンを成形するので、それなりに集中しないといけない。
いつの間にかもうリュウスのことも頭から離れていた。



「弘海、もう時間だよ」
「え?」
橘に声をかけられて時計を見ると、間もなく仕事の終了する時間だった。
「明日も早出なんだし。今日はリュウスくんと一緒に帰ってゆっくり休むといいよ」
「あ、は、はい」
「残業したければ歓迎だけど、でも、どうせまたすぐに忙しくなると思うし。早く帰れるうちに帰っておいたら?」
「そうですね……今日はもう帰ろうかな」
「連休明けの初出勤だしね。疲れただろう?」
「いえ、大丈夫です。じゃあ、お言葉に甘えて今日は失礼させていただきます」
「うん。また明日もよろしく」
橘に挨拶をして更衣室に入ると、すでにリュウスが着替えを終えていた。
「リュウス、お疲れ様。橘さんも三芳さんも、リュウスのこと褒めてたよ」
「そうですか。いろいろと至らないことも多かったと思うのですが……それなら良かったです」
「すぐに着替えるから、ちょっと待ってて」
「はい」
店の人間がいる時のリュウスの雰囲気は柔らかいけれども、弘海と二人きりになると、どこかよそよそしさがあった。
弘海はこのよそよそしさが苦手だったが、同じマンションに帰るのに別々に帰るというのも変な話だし。
やはり一緒に帰るのが普通なのだろう。
「ごめん、お待たせ」
「いえ」
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」



帰りの道中も、あまり会話は弾まなかった。
以前にリュウスから言われたことを思い出すと、弘海のほうから話しかけることもためらわれた。
嘘でもいいから他に好きな人が出来たと言って欲しい……リュウスはそう言って弘海に頭を下げた。
橘と付き合ってみてはどうかとも言っていた。
初詣の時は三芳のことまでプッシュしてきたり……。
どこまで本気なのかは解らないが、リュウスが何とかしてショーン以外の人間と弘海をくっつけようとしている意図は明らかだった。
(俺だってそう出来るならしたいけど……でも、嘘をついて橘さんや三芳さんと付き合っているふりをするなんて、絶対に嫌だし……)
そんなことを考えていると、リュウスのほうから声をかけてきた。
「弘海さん、この間のお話、ちゃんと考えていただけましたか?」
「こ、この間の……話って?」
弘海はとぼけようとしたが、リュウスは容赦なく言葉を続けた。
「他に好きな人が出来たってショーンさまに言っていただくことです」
「あ、ああ……」
「まさか忘れてたってわけじゃないですよね?」
「忘れてはないけど……でも、嘘をつくのって……あまり……っていうか、すごく嫌いだから……」
弘海の言葉に、リュウスはため息をついた。
「弘海さんがその調子では、ショーンさまはいつまで経っても国へ帰ろうという気になれません」
「でも、別にそれは俺の責任じゃ……」
「弘海さんの態度がはっきりしないから、ショーンさまも諦めがつかないのだと思います」
「俺ははっきり言ってるよ。男と恋愛だとか結婚だとかは絶対にないって」
「でもそれは、ショーンさま個人を拒絶したわけではないですよね?」
「いや、そういう意味も含んでいるつもりだけど……」
「そういう意味が読み取れないから、ショーンさまは弘海さんと結ばれる可能性がまだあると思われているのだと思います」
「そんなこと言われても……」
弘海としては、自分の気持ちに正直にいるだけなのに。
どうして理解してもらえないのだろう……。
「あと半年なんです」
「え?」
「ショーンさまが成人されるまで」
「でも……それは時の魔法がどうとか……」
確か、時の魔法を使えば百年でも二百年でも何とかなるとショーンは言ってなかっただろうか。
そんな弘海の意図を読み取ったように、リュウスは苦笑いをする。
「弘海さんが確実にショーンさまの伴侶になるというのなら、時の魔法も有効です。けれども、そうでないというのなら、下手をすれば国が滅んでしまいます」
「…………」
「僕は非常な危機感を持って、今弘海さんに話をしています」
弘海は何も言えなくなってしまった。
ショーンがのんびり構えているから、そこまでの大事だとは思わなかったのだけれども。
「残された時間は、実はそんなに多くはありません。ですので、弘海さんも少し真剣に考えてみてはもらえませんか?」
「それは……」
「僕はどんなことをしても、ショーンさまに国に帰っていただくつもりです。それには弘海さんの協力が不可欠なんです」
「…………」
弘海は言葉が出てこなかった。
リュウスの言っていることはもっともだし、嘘をつきたくないという弘海の気持ちも曲げたくない。
いったいどうすれば、すべてがすっきりと解決するのだろう……。



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EDIT [2012/02/05 08:33] 猫目石のコンパス Comment:0
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