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「はい、お待たせ」
二人分のオムライスをテーブルに運ぶと、ショーンは嬉しそうな顔をした。
「本当にオムライス好きだよね、ショーンは」
弘海は思わず笑う。
リュウスがいつも作ってくれる料理は、スパイスも何を使っているのか解らないほど手の込んだ料理ばかりで、弘海のオムライスとは比べるべくもないほどだと思うのに。
ショーンは目の前のオムライスをさっそく食べ始める。
「やっぱりこれがいいな」
ショーンはしみじみと言った。
「でもさ……俺ははっきり言って、リュウスの料理のほうがよっぽど美味しいと思うけど……それに、豪華だしさ……」
リュウスは魔法も使うから、材料が自然と豪華になる。
その上に料理の才能にも恵まれているから、とんでもなく美味しいご馳走が出来てしまうのだ。
「弘海が作ったものだから美味い」
「でも……料理は絶対にリュウスのほうが上手いよ」
「それでも、俺は弘海の作ったものを食べたい」
ショーンの言葉は弘海の強張った心を解きほぐすような働きがあった。
素直に嬉しいと思う。
けれども……。
(駄目だ、駄目だ……ショーンのペースに乗せられちゃ……俺が男を好きになることは絶対にないんだし……)
弘海は自分に言い聞かせる。
ショーンの傍の居心地が良くて、つい自分が甘えてしまいそうになることは自覚していた。
けれども、それはショーンが望むような恋だとか愛だとか、そういう類の気持ちからではなく、弘海の中のこれまでの孤独や人の温もりに対する飢えがそうさせているのだと考えていた。
だから、ショーンの優しさや誘惑に負けてはいけないと弘海は思っている。
(いつかはいなくなるんだから……)
そうなった時に、少なからず喪失感は感じるだろうが、それは出来るだけ小さなほうがいい。
そのための身がまえを、弘海は今からしておかなくてはならないと考えていた。



結局、リュウスが戻ってきたのは夜になってからだった。
リュウスはジーンズにセーター、その上にダウンジャケットという日本の今どきの若者たちが着るような衣服を着て帰ってきた。
「リュウス、その服どうしたの?」
「あ、ちゃんと自分で買いました。必要だったので」
「必要?」
リュウスに日本の若者の今どきの服が必要になるシチュエーションが思い浮かばなかった。
しかも、リュウスが日本の貨幣を持っていることも知らなかったので、弘海はさらに驚いた。
けれども、リュウスは詳しい事情は語ろうとしない。
「夕食はちゃんと弘海さんが作ってくれたんですね?」
「うん。リュウスは? 食べるなら何か作るけど」
「僕は大丈夫です」
「そっか」
ショーンもリュウスがいったい何の用事で出かけていたのかは知らないようだし。
弘海は外出中のリュウスが何をしていたのかが気になったが、詮索するのも変だと思ったので、聞かないようにした。
リュウスはいつの間にか、いつもの異国の服に着替えを終えていた。
「弘海さんは明日からお仕事ですよね?」
「うん。そろそろ風呂に入って寝るよ。明日も早いし」
「僕も明日は出かけますので、ショーンさまは部屋でゆっくりしてくださいね」
「え? 明日も出かけるの?」
「はい。ちょっと用事がありますので」
用事と言われてしまうと、やはりそれ以上の詮索はしづらかった。
気になりつつも弘海は風呂に入り、さっさと布団にもぐりこんだ。



まだ夜も明けきらない時間に、弘海はマンションを出た。
初詣の時のことがあるので、気は重かった。
きっとショーンやリュウスのことを橘や三芳から聞かれるに違いない。
弘海にはそうした気持ちは一切ないことを伝えないといけないが、伝えたとしても、質問攻めにあうことは覚悟しなければならないだろう。
「はぁ……何て説明したらいいんだろ……」
どう伝えれば橘や三芳を納得させることが出来るのか、弘海はまだ考えあぐねていた。
店に着くと明かりがついていて、すでに橘は厨房にいるようだった。
「よし……頑張ろう」
何をどう頑張れば良いのか解らなかったが、とりあえず弘海は着替えを済ませ、厨房に入っていく。
「おはようございます」
弘海はつとめて明るい声で挨拶をした。
「おはよう。今日から新しいスタッフが来るよ」
橘の言葉に弘海は驚いた。
「え? すごいですね。製造ですか? それとも販売?」
「どちらも出来るってことだから、とりあえず今日は製造と販売をどちらも体験してもらおうと思ってる」
「へええ……すごいなぁ。どっちも出来るって、優秀な人材じゃないですか!」
「うん。ラッキーだったね」
「それで、その人はもう来るんですか?」
「そろそろ来ると思うけど……ただね……」
橘が言いかけた時だった。
「おはようございます」
弘海はその声に振り返り、思わず目を見開いた。
製造用の白い制服を身につけて厨房に入ってきたのはリュウスだったからだ。
「ど、どうしたの!?」
「今日からこちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします」
リュウスはにっこりと微笑んだ。
「な、何で!?」
「ショーンさまの許婚として必要なことを学ぼうと思いまして。ショーンさまはなかなか弘海さんのことをあきらめ切れないご様子ですし……」
「いや、だからそれは……」
「弘海さんの傍でショーンさまに愛されるために必要なことを、しっかりと学ばせていただきたいと考えています。それで、こちらのバイト募集に応募させていただいたのです」
「え、ええと……」
弘海は完全に困惑していた。
橘のほうを見ると、彼もまだ戸惑っている様子が伺える。
「実は昨日、面接に来てくれてね。弘海の友達でもあるし、国籍は違うけれど、ちゃんと就業許可もとってくれていたし。宗助とも相談して、少し働いてもらおうかっていう話になったんだ」
「そ、そうだったんですか……」
「はい。弘海さん、よろしくお願いしますね」
「は、はぁ……」
弘海は曖昧に笑い返しながらも、前途多難な予感を覚えた。



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EDIT [2012/02/04 07:56] 猫目石のコンパス Comment:0
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