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祐一が部屋を出て行っても、しばらくの間、弘海は動くことが出来なかった。
祐一はすぐにショーンを追いかけろと言ったけれども。
弘海はまだ、自分の気持ちがまったく整理できていなかった。
祐一に告白をされ、キスをされたこと。
そして、ショーンのことが好きなんじゃないかと指摘されたこと。
すべてが頭の中でごっちゃになって、自分がいったいどうすればいいのか解らなくなっている。
『本当はお前、あいつのこと好きだったんじゃないの?』
祐一の言葉が、頭の中をぐるぐると回っている。
(俺は……ショーンのこと……)
思いかけて、弘海はかぶりを振る。
好きになってはいけない相手だと思う。
弘海が好きだと言えば、ショーンはここに残ってくれるだろうが、そうなれば彼の伴侶になることが確定してしまう。
伴侶という言葉や立場が、弘海には重かった。
特にショーンの場合、その存在はひとつの国の浮沈を左右するのだなどと聞かされてしまえば、弘海にはその責任を負える自信がなかった。
おまけに、親も認めた許婚までいるというのに、それを差し置いて、自分が伴侶になろうなどとはとても考えられなかった。
だから今まで、自分の気持ちに気づかないふりをして、必死にブレーキをかけてきたのに……。
弘海自身も見ないようにしていた気持ちを、祐一に簡単に見透かされてしまったのだ。
祐一はすぐに追いかけろと言ったが、弘海は決してそれはしてはいけないと思う。
お互いの幸せのために、追いかけたりしてはいけないのだ。
このまま別れて二度と会わないことが、誰のためにとっても一番良いことなのだと。
それに、たとえ追いかけたとしても、彼らは魔法を使って自分の国に帰るのだから、弘海が追いつけるはずもなかった。
「好き……」
ショーンのいなくなった部屋で、ようやく弘海は自分の気持ちを吐き出した。
「俺……ショーンのことが好きだった……」
言ってしまうと、もうあとは言葉にならなかった。
涙が溢れ出して止まらない。
いつかはこの日が来ると思っていたけれど、想像していたよりもずっとその喪失は胸に痛かった。



翌日はいつも通りに起き、いつも通りに店に向かう。
その途中にショーンらしい人影がないかを探してしまう自分が嫌だった。
二度と会うこともないのに、目がその姿を探してしまうことは、当分の間はやめられそうになかった。
きっとそのうちに、諦めて探すこともやめてしまうのだろうけれども。
「おはようございます」
店にはいつものようにもう橘が出勤していた。
「おはよう。今日は祐一が休みらしいから、悪いけど途中から販売に回ってもらっていいかな?」
「あ、は、はい……」
祐一の休みは、たぶん昨日のことが原因ではないかと弘海は思う。
実際に、弘海もどんな顔をして祐一と顔を合わせれば良いのかわからなかった。
休みと聞いて、ほんの少しホッとしたのも事実だ。
「そういえば……リュウスくんとショーンくんの二人も、国に帰ったんだっけ?」
「はい……ご迷惑おかけします……」
「急な話だよね。何かあったの?」
「いえ……何かいろいろ都合があって帰るんだって言ってました」
「そうか……」
バイトのシフトの関係もあったので、リュウスがいなくなったことは昨日のうちに橘に電話で伝えてあった。
その時に、ショーンも一緒に国へ帰ったことも伝えたのだった。
「あの部屋で三人が同居っていうのも大変だっただろうけど、一気に人がいなくなると寂しいよね?」
「そうですね……」
弘海は曖昧に笑っただけで、あとは何も言わなかった。
まだショーンのことを世間話のように話せるだけ、弘海の気持ちは回復していなかった。
橘も何となく複雑な事情を察したようで、それ以上は何も聞いてこなかった。



それから一ヶ月が経った。
ショーンがいない生活にも、ずいぶんと慣れてきた気がする。
もう店の行き帰りにショーンの姿を探したりすることもなくなった。
ショーンはもう戻ってこない……ようやく弘海の中でそういう諦めがついたようだった。
けれども、ふとした瞬間に寂しさを感じてしまうことは、まだしばらくの間、続きそうだった。
祐一との仲は、何となく元のような感じに戻りつつある。
最初のうちはぎこちなくて、橘や三芳が気にかけるほどだったけれども。
今日は珍しく遅番で、夜道をのんびりと歩いて帰っていた。
明日は定休日だから、急いで帰って寝る必要もない。
夜空には満点の星と三日月が輝いている。
近所のスーパーで買った食材を片手にぶら下げながら、弘海はマンションに向かう。
「あれ……猫?」
二つの小さな目が光っているのを見つけて、弘海は足を止めた。
この辺りではあまり猫を見かけることがないので、珍しい。
弘海は猫を驚かさないように、そっと近づいてみた。
「黒猫だ……」
最初はショーンかと思った。
けれども、すぐにそんなことはないと思いなおした。
相手も警戒しつつ、弘海の様子を伺っている。
「おいで」
手を差し出すと、黒猫は警戒する様子を見せながらも、弘海のほうに駆け寄ってきた。
スーパーの袋の中の食べ物が目当てだったのかもしれない。
「お前が食べれそうなもの……入ってないだよなぁ……家に帰れば、ショーンのために買ったカリカリが残ってるけど……」
黒猫は弘海の手にぶら下がるスーパーの袋に、何度も顔をこすり付ける。
まるでエサをねだっているようだった。
「ウチの猫いなくなっちゃったから……お前、ウチの子になる?」
弘海はそう言いながら、黒猫を抱き上げた。
黒猫は嫌がる様子を見せず、おとなしく弘海に抱かれた。
大きさ的にはちょうどショーンと同じぐらいかもしれない。
「よし、家に帰ろう」
弘海は黒猫を抱いて歩き出した。



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