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橘のマンションと比べると、恐ろしいほどに狭い部屋に入ってもらうと、弘海は少し後悔した。
いくら何でもこんな狭い部屋では、橘も落ち着かないのではないだろうか……。
橘からのリクエストで、彼が買ってくれたエスプレッソマシーンでエスプレッソを入れる。
カップに注いだエスプレッソを持って部屋に入ると、ショーンが橘の膝の上に陣取っていた。
懐いているのかと弘海は最初は思ったが、リラックスしている様子ではなく、どうやら監視の意味があるらしい。
しかし橘がそんなことに気づくはずもなく、膝の上の黒猫の体や顎を嬉しそうに撫でている。
「この間はあまり懐いてくれなかったけど、こうして懐いてくれると嬉しいね」
「そ、そうですね……」
思わず引きつった笑みを浮かべながら、弘海はエスプレッソのカップを橘の前に差し出した。
「あ、あの、これどうぞ……」
「ありがとう。ちゃんと使ってくれてたんだ?」
「はい、すごく重宝しています。エスプレッソって、贅沢な気分になれますよね」
「うん。俺も同じメーカーのものを使ってるけど、新しい商品を考えたりするときなんかに飲むと、いろいろアイデアが浮かんだりするよ」
「へええ……でも、解るような気がします」
弘海が部屋に戻ってきても、ショーンは橘の膝の上からまったく動こうとしない。
パッと見には、猫が橘に懐いて甘えているように見えるが、弘海はショーンが全身の緊張をまったく解いていないことに気づいていた。
(あんなに全身緊張状態のまま、甘えてるふりが出来る猫って……ショーンぐらいだろうな……)
弘海は思ったが、橘は猫が甘えてくれることに嬉しそうな様子なので放っておくことにした。
「そういえばさ、弘海……」
「はい?」
「誰かと同居してるって本当?」
何となく聞かれる予感はしていたけれども、それが唐突だったので弘海はちょっと慌てた。
「あ、ええと……はい。その同居人のせいで、昨日は三芳さんにもご迷惑をおかけしました。すみません……」
「うん。宗助に聞いたんだけど。倒れて意識がなかったんだって?」
「はい。でも、昨日のうちに元気になって、今日は出かけました」
「そっか。それなら少し安心だね」
「だから今日は出勤しようと思っていたのに、今度は俺が熱で……」
「いろいろと心労が重なったんじゃないのか?」
「そ、そうですね……そうかも……」
「もしかして……彼のことが心配で、弘海はここ最近様子がおかしかったのかな?」
「あ、そ、そうですね……急にいなくなったりしたんで……それに戻ってきたら戻ってきたで、意識がなかったり……いちおう家族みたいなものなので、ちょっと心配でした……」
「そうか、家族か……」
「そ、そうなんです! 昨日も三芳さんに言いましたけど、本当に家族みたいな感じです! それ以外の関係とか絶対にあり得ませんから!」
弘海は自分でも少し大げさだと思いつつも、強く断言した。
橘の膝の上のショーンが睨みつけてきている気配を感じたが、弘海は無視してエスプレッソを飲んだ。
「でも、思ったより弘海が元気そうで安心したよ」
「昼過ぎぐらいまでは熱があってフラフラしてたんですけど、明日は普通に出勤できそうです」
「それなら良かった。でも、無理はしないように」
「はい」
弘海の返事に頷いて、橘は思い出したように笑った。
「宗助もホッとするんじゃないかな。製造を手伝うのなんて久しぶりだから、彼にしては珍しく何度もオロオロしてる姿を見てしまったよ」
「へええ……三芳さんがオロオロしたりするんですね」
「素直に俺に聞けばいいのに、必死に思い出そうとするからさ。何でも自分でやろうとするのは宗助の良いところだけど、聞いて済むことはさっさと聞いたほうが良い時があるのにね」
「俺なんて、一度聞いたことでもすぐにまた聞いちゃうからなぁ……」
「確かに自分で覚えることも大切だけど、解らない時は素直に聞くのが一番だよ」
「はい」
三芳が厨房で右往左往している姿というのは、想像するだけで何だか微笑ましい。
ただ、自分のせいでそうさせてしまったのだと思うと、少し心苦しい気持ちもあった。
「ああ、そろそろ店に戻らないと、宗助がかわいそうだな……」
「えっ? 今も三芳さんに任せてきたんですか?」
「そうだよ。でもまあ、何とかなってるとは思うけど」
「そ、それは……早く戻ってあげてください……」
三芳のことだから失敗することはないと思うが、いざという時に聞ける相手がいないというのは心細いような気がする。
「じゃ、ご馳走様」
橘はそう言って黒猫を抱き上げると、そっとソファの上に乗せた。
「あの、明日は出勤しますので。三芳さんにも伝えてください」
「解ったよ。でも、もし朝起きて無理だと思ったら、ちゃんと電話してくるようにね」
「はい。ありがとうございます」
橘の手がそっと伸びて、弘海の額に触れてくる。
「うん。熱はもう大丈夫かな」
「はい。たぶんもう下がってると思います」
「油断せずに、ちゃんと布団かぶって寝るんだぞ? 薬もちゃんと飲んで」
「解ってますって」
まるで親みたいに細かいことを言ってくる橘に苦笑しつつも、弘海は昔家族がいた頃の懐かしい空気を思い出した。
「それじゃ、お大事に」
「はい、本当にありがとうございました」
玄関まで橘を見送って部屋に戻ると、ショーンがさっさと人間の姿に戻っていた。
「ありがとう……急に猫になれなんて言ってごめん……」
弘海は言ったが、ショーンはどことなく不機嫌そうな様子だった。
「今日はあいつ……何もしなかったな……」
「するわけないだろ! 橘さんはたぶん……そういう気持ちを俺には持ってないと思うよ」
「どうかな……」
「前にマンションに行ったときはちょっとドキッとしたけど……でも、今日はずっと普通だったし」
「お前を油断させようとしているだけかもしれないぞ?」
「どうしてそういうことばっかり言うのかなぁ……」
「お前が鈍感すぎるんだ」
「ど、鈍感で悪かったな!」
「それより、さっきの約束」
「約束?」
「魔力を戻すのを手伝ってくれるんだろ?」
「あ、う、うん……」
「お前が言ったんだから、遠慮しないぞ」
ショーンは強引に弘海を抱き寄せると、唇を押し付けてきた。
「んんん……っ……!!」
少し乱暴な口付けに吐息を喘がせていると、いきなり玄関のドアをドンドンと叩く音がした。
弘海は慌ててショーンの体から離れた。
「だ、誰だろう……橘さん……かな……?」
橘ならインターホンを鳴らすはずだし、ドアを叩いたりしないだろう。
「ちょ、ちょっと出てみるね」
「いや、俺が行く」
「ショーンは隠れてて。もしかしてやばい人だと困るだろ?」
「そういう気配は……感じないんだが……」
「念のために、隠れてて」
先ほどよりも少し乱暴に扉が叩かれる。
「やっぱり俺が行く」
「いいって。とにかく隠れててよ」
「もしも危険なやつだったら、俺のほうが対処できる」
ショーンはそう言うと、半ば強引に弘海を押しのけ、玄関の扉を開けた。



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