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夜になっても、ショーンは戻ってこなかった。
何も出来ずにただ待つことしか出来ないということが、こんなに辛いものだとは思わなかった。
「いったいどこまで行っちゃったんだろうなぁ……」
弘海はもう数え切れないほどため息をついていたが、今もまたそのため息の数を更新した。
さすがに明日は仕事を早退することも出来ないだろうし、いつも通りに朝から定時まで仕事をしなければならないだろう。
今日みたいな失敗がないとは限らないが、理由も言えないのに休んだり早退したりして、これ以上店に迷惑をかけることは出来なかった。
「戻ってくるって言ってたし……絶対、大丈夫だよな……」
ショーンが戻ってきたらすぐに起きれるように、弘海は部屋の電気をつけたまま、ソファで眠った。
そこにはまだショーンの匂いが残っているような気がした。



「…………帰ってこない」
うとうとと眠ったり起きたりを繰り返しながら朝を迎えたが、やはりショーンは戻ってこなかった。
寝不足のまぶたが重い。
「う~……仕事行かなきゃ……」
冷たすぎる水でバシャバシャと顔を洗い、歯を磨いて、弘海は出かける支度をした。
その間にもショーンが帰ってこないかと待ってみたが、戻ってくる様子はなかった。
「はぁ……本当に大丈夫なのかなぁ……」
これまでの一年間、弘海はたった一人でこの部屋に暮らしてきた。
一人で過ごす寂しさにもすっかり慣れてきていた。
それがたった十日足らず同じ部屋で過ごしただけなのに、二日間姿が見えないだけで、部屋に何かが足りないような気持ちになってしまう。
好きだとか伴侶になりたいとか、そういう気持ちとはまったく違う。
友達や家族のことを心配するときのような気持ちだろうと弘海は思う。
結局、ギリギリまでショーンが戻ってくるのを待ってみたが、戻ってこなかった。



「おはようございます……」
挨拶をしながら厨房に入ると、橘はすでに仕事を始めていた。
「おはよう」
弘海を見る橘の視線はいつもと同じで優しくて、弘海を責めるような様子は一切なかった。
「昨日はすみませんでした」
「いや、大丈夫だよ。それよりも調子はどう?」
「はい……あの、何とか……」
「今日も目が赤いけど、また眠れなかったの?」
橘は心配そうに弘海の顔をのぞきこんできた。
「だ、大丈夫です……今日は頑張りますから……」
「いったい何があったの? 不安なことや心配事でも?」
「ち、違います……その……怖い本……読んじゃって……」
我ながら苦しい言い訳をしたが、橘もそれ以上は追求してこなかった。
「そうか……くれぐれも無理はしないように。もし辛いようだったら、ちゃんと言うんだぞ」
「はい……あの……大丈夫です……」
寝不足が続いて体もまぶたも重かったが、弘海はとりあえず自分の仕事に取り掛かる。
橘が時折、心配そうな目を向けていることには気づいていたが、弘海は目の前の仕事に集中した。
やることは山のようにあったし、無心になって仕事をしていればショーンのことも思い出さずに済むような気がした。



「お疲れ様でした。お先に失礼します……」
寝不足の後の労働で、弘海の足取りはフラフラしていた。
仕事の量的には残業をしたほうが良さそうな具合だったが、残りはすべて橘が引き受けてくれるというので、弘海は定時で帰らせてもらうことにした。
「今日はさすがに寝ないと……明日は倒れそうだ……」
そうは思うものの、またショーンが帰ってこなければ眠れなくなるような気がした。
「弘海、送っていくよ」
気がつくと、三芳が店の前に車をつけていた。
三芳の車はスポーツタイプのツーシーターで、そこにあるだけでとても目立つ。
「あ、あの……大丈夫……です……」
弘海は思わず断ったが、三芳はもう助手席の扉を開けていた。
「健介に頼まれたんだ。心配だから送っていくようにって」
「そんな……悪いですし……だいたい俺の自己管理がなってないから、いろいろと心配をかけてしまっているわけで……」
「営業のついでだから、気にするな。早く乗れ」
三芳にそこまで言われると乗らないわけに行かなかった。
「すみません、お邪魔します」
弘海が乗り込むと、三芳はすぐに車を発進させた。
「健介が心配してたぞ。弘海は何か悩み事でもあるんじゃないかって」
車を運転しながら、三芳は言う。
そういう話になることが解っていたから、送ってもらいたくなかったのだが。
車に乗ってしまった以上は仕方がない。
「何かあったのか?」
「はい……すみません……何も……ないんですけど……」
「まあ、他人には言いにくいこともあるかもしれないが……俺で良ければ、いつでも相談に乗るぞ」
「ありがとうございます……」
礼は言ったものの、本当の事情はいくら三芳でも言えそうになかった。
「弘海のマンションは……次の交差点を右だっけ?」
「はい、そうです……本当に迷惑をかけてすみません」
「いや、まあ今日はゆっくり寝ろ。寝不足が何日も続いたら、体が持たないぞ?」
「そうします……」
弘海はそう答えたが、ショーンが戻ってこなければまた寝不足になるような気がしていた。
「あ、そこの角でいいです。もうマンションの前なので」
「了解」
三芳は完璧な縦列駐車でマンションのエントランス前に車をつけてくれた。
「じゃあ、今日はゆっくり寝て。明日はもう少しマシな顔色になって来いよ」
「はい、本当にすみません……」
三芳に頭を下げてマンションのエントランスに入ろうとした弘海は、その柱の影に人影を見つけた。
「ショーン?」
まるで力尽きたみたいに柱にもたれかかっている。
「ショーン!」
弘海はショーンに駆け寄った。
とりあえず脈をみてみたら、ちゃんとドクドクと動いている。
あちこち傷だらけにはなっていたけれども、とりあえず生きていることを確認して、弘海は死ぬほど安堵した。
「弘海? どうしたんだ?」
異変に気づいた三芳が、車を降りてやって来た。
「あ、あの……ええと……部屋まで運ぶの手伝ってもらえますか?」
「あ、ああ、いいけど……知り合い?」
「はい、あの……同居人です」
「…………」
三芳は驚いたような顔をしたが、結局何も言わずにショーンを運ぶのを手伝ってくれた。
意識を完全に失っている大柄な男を弘海が一人で運ぶのはとても無理だった。
何とか抱えるようにしてエレベーターに乗せ、部屋まで運んだ。



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