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「……とにかくお前は帰れ、リュウス。俺は弘海と一緒でなければ戻らない。父にもそう伝えてくれ」
ため息混じりにショーンは言った。
その言葉に我慢できなくなって、弘海は二人の間に割って入った。
「あのさ……ショーン。俺は二人の話を聞いていたけれど、どう考えてもリュウスの言うことのほうがもっともだと思うんだ。俺の気が変わるまで待つって言ってるけど、その間に何度この間みたいな危険な目に遭うと思う? そのたびに襲われて怪我をしたりしてたら、それこそ身が持たないと思うよ」
「お前は身の安全のために俺に偽りの伴侶を選べというのか?」
「リュウスがいる前でそういう言い方するなよ。ただ、結婚ってさ、好きとか愛してるとか、そんな気持ちだけで突っ走ったって、良い結果にならないことも多いんだよ。うちの両親だって、駆け落ち同然に結婚したはずなのに、離婚したし……」
挙句の果てには父親は病気になってまだ若いのに死んでしまった。
残された子供は、血が繋がった兄妹なのに離れ離れで、今はもうほとんど他人だ。
母親も、会うたびに他人になっていく気がする。
もしも別の人間と父親が結婚していたら……いや、同じ結婚だとしても、もっと周囲の理解を得てから結婚していたら、弘海の今ももっと違ったものになっていたかもしれないのに。
「いろんな人の話を聞くとさ、最初は親に言われて結婚しても、後で幸せになったりする人もいるみたいだし……やっぱり家族が納得してないのに、自分の意見を無理に通すのは良くないと思うよ」
結婚も恋愛もしたことのない弘海には、自分の言っていることが正しいのかどうかは解らない。
でも、家族の反対を振り切って……ということには、自分の家族の経験があるから賛成は出来なかった。
「とりあえずさ、リュウスを帰すにしても、ちゃんとリュウスが納得してから帰るようにしなきゃ……リュウスはショーンの家族の気持ちも伝えに来てくれたんだから……勝手に追い出したりしたら絶対に駄目だよ。そんなことしたら、俺が許さないから」
じっと弘海の言葉を聞いていたショーンは、ようやくため息混じりながらにも頷いた。
「解った。リュウスは納得させる」
「……しません」
「リュウス」
「僕はショーンさまと一緒でないと、帰るつもりはありませんから」
「…………」
「僕は……ショーンさまと一緒に帰る以外の選択肢を選ぶつもりはありません」
穏やかなリュウスの顔が厳しい表情を滲ませている。
近くでよく見てみても、やはり弘海よりも年下にしか見えない。
それなのに結婚だとか、伴侶だとか、そんなことを考えているリュウスが、何となく大人びて見える。
弘海はチラリと時計を見て、少し慌てた。
「あー……あのー……お取り込み中のところ申し訳ありませんが……」
何となく張り詰めた感じの間に割ってはいるのは少し躊躇するものがあったのだが。
「俺……明日早番なんだ……先に寝ちゃってもいいかな? 部屋は自由に使ってくれて構わないから」
「あ、ああ……おやすみ」
「おやすみなさい」
「ごめんね……何か中途半端な状態だけど……これ以上起きてると、明日の仕事に障りがあると思うから」
早退したり、休んだり……最近は店に迷惑をかけてばかりだから、明日は絶対に休めないし、遅刻も出来なかった。
この後、二人がどんな話をするのかは気になるところではあったが、弘海はとりあえず眠ることにした。



「本当に良くなったみたいだね」
てきぱきと厨房での作業をこなす弘海を見て、橘は声をかけてきた。
「あ、はい。昨日一日休ませてもらったおかげで、今日は元気になりました。ご心配かけてすみません……」
「いや、弘海のありがたみを、俺も宗助も改めて思い知った気がするよ」
「そ、そんな……俺なんて本当に失敗もたくさんするし、出来ないことのほうが多いし……」
「本当に弘海がいてくれて助かってるよ。昨日も宗助とそう話してたんだ」
「そうですか……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃないんだけどな。まあ、あんまり褒め言葉の押し付けも良くないと思うから」
忙しさのピークを過ぎると、厨房で話をする余裕も出てくる。
橘はもう自分の作業に戻っていて、夕方に焼き上げる予定のバケットの生地を作っていた。
いつ見ても橘の動きには無駄がなく、その手で成形されるパンは芸術品のようだった。
ぼーっと橘の動きに見とれていた弘海も、我に返って自分の作業に戻る。
夕方からよく売れるサンドイッチの具を食パンやバケットの間に挟んでいく作業だ。
客が込み合う時間になると、恐ろしいほどの勢いで商品が売れてしまうから、余裕のある時間にどれだけの準備が出来るかが大事だった。
今日は最初から残業をしようと決めていたので、帰りは夜になるだろう。
弘海にとっては、そのほうが都合が良かった。
ショーンとリュウスの二人が、しっかり話し合う時間を作ったほうが良いと思うからだ。
今は部屋で二人きりのはずだから、何らかの話し合いをしていることだろう。
(帰りはゆっくり買い物でもして帰ろう……なるべく遅く帰ったほうがいいな……)
ショーンは国へ帰るのだろうか……そのほうが彼や彼の家族のためにも絶対に良いと弘海は思うけれど、一抹の寂しさも感じてはいた。
「…………」
いや……一抹どころではないかもしれない。
ショーンたちの前ではそんな素振りも見せることは出来ないが……。
きっと、ショーンがいなくなってからしばらくの間、弘海は相当に辛い喪失感を味わうのではないかと思っている。
それほどに、ショーンの存在は、実は弘海の中では大きくなっていた。
(何だかダラダラと一緒に暮らしてきちゃったからな……)
まだ一ヶ月も経ってはいないけれど、それなりに濃厚な日々を過ごしてきただけに、ショーンがいない生活というのはあまりリアルに想像できなかった。
けれども、弘海はいつでも彼を気持ちよく送り出そうと決めている。
(さっさと帰れ……ぐらいのことを言えないと駄目だよな……)
弘海は自分に言い聞かせる。
ショーンがリュウスとともに国へ帰ることが、彼にとってもその周りの人たちにとっても、そして彼の国にとっても一番良いことなのだから。



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EDIT [2012/01/22 08:28] 猫目石のコンパス Comment:0
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