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「ん~……」
(なんか……あったかい……)
「ん……?」
(あれ……? なんか……)
目を開けてみて弘海は驚いた。
昨日は黒猫を抱いて布団に入ったはずだったのに……。
「何で……?」
いつの間にか、弘海は人間に戻ったショーンに抱きしめられて眠っていた。
「ちょ、ちょっとショーン!」
「ん……」
ショーンが眠そうにうす目を開けた。
「猫から人間になったんだったら、ちゃんと布団を出て行ってくれないと困るよ!」
「お前が俺を抱いて布団に入ったような気がするが……」
ショーンは欠伸をしながら気だるそうに答える。
「だから、猫ならいいけど、人間は駄目! 大きさがぜんぜん違うじゃん」
「なぜ駄目なんだ? 同じことだろう? お前が抱いてるか、俺が抱いてるかの違いだけだろう?」
「黒猫だったら俺が抱いて眠れるからいいけど……人間になったら駄目!!」
「お前が抱いて眠れたらそれでいいのか……?」
「いや、だから……猫ならいいって話……何でもういつもいつも人の揚げ足をとるようなことを言うかなぁ……」
「そんなことより、時間は大丈夫なのか?」
「え? うわああ、やべええっ!! 起きてたんだったら起こせよ!!」
「俺も今起きたばかりなんだが……しかもお前に起こされた……」
ふてぶてしく弘海に責任を押し付けるショーンに苛立ちながらも、もう相手をしている時間の余裕さえなかった。
「ああもう……何であと5分早く起きれないんだ!!!」
誰に怒っているのかももう解らなくなり、弘海は慌てて身支度をする。
とりあえず顔を洗って歯磨きをして、見苦しくない程度に髪を整え、着替えを終えて家を飛び出した。



「お、おはよう……ございます……」
マンションから走りっぱなしで息を切らしながら、弘海は店の厨房にかけこんだ。
「おはよう」
「す、すみません……いつもギリギリで……」
「いや……こんなに朝早い仕事なのに、めげずに続けてくれることがありがたいよ」
「はは……」
あまりにも優しすぎる橘のフォローに、慰められるどころか弘海はますます情けない気持ちになった。
(明日は……絶対に5分早く起きよう……何があっても……)
心の中で固く誓いながら、弘海はさっそく厨房で仕込みに取りかかる。
「俺、何をしたらいいですか?」
「今日は少し余裕があるから……ちょっとクロワッサンを練習がてらやってみる?」
「え、いいんですか?」
「ちゃんとウチの作り方をマスターするまではお客さんには出せないけど、みんなにも食べてもらって感想を聞けばいい」
「は、はい、頑張ります!」
「調合は覚えてる?」
「ええと……」
弘海は慌ててメモ帳を取り出した。
教えてもらったことはすべてこのメモ帳に書いてあった。
「あ、ありました。大丈夫だと思います」
「じゃあ、ちょっとやってみようか。生地を混ぜ終わったら教えて」
「は、はい!」
出来上がった生地の形を整えることをしたことはあったが、弘海が一人で生地から作るのは初めてだった。
「ええと、薄力粉と強力粉と……それから……」
メモを睨みつけるようにしながら、ボウルの中に材料を入れていく。
「混ぜて……混ぜてと……」
とにかく混ぜる、とメモには書いてある。
「水を足して……と……」
しばらく混ぜていると、生地がまとまってくるのを感じた。
「橘さん、いちおう混ざったみたいです」
「解った。ちょっと待って」
橘は自分の作業を止め、粉で汚れた手を洗い、弘海の様子を見に来てくれた。
「うん、いい感じだな」
「次は捏ねる……ですよね。確かクロワッサンはあまり捏ねすぎると駄目なんでしたっけ?」
「うん。とりあえずやってみて」
橘に促され、弘海は生地をこねていく。
力加減がよく解らなかったが、教えてもらっていた時の橘の手の動きを思い出しながら捏ねてみた。
「力がちょっと入りすぎてるな……もう少し力を抜いて……こう……」
橘が弘海の背後に立ち、手を取って教えてくれる。
実際に橘の手の動きを見ていると、確かに自分は力が入りすぎていることが解った。
「えっと……こんな……感じ?」
「そうそう、そのぐらいの力加減で……優しく……」
橘が手を添えてくれるので、弘海はほとんど何もしなくても良いような状態だった。
ただ、手をどう動かせばいいのか、どのぐらいの力を込めれば良いのかはとても解りやすかった。
「これぐらいの硬さになったらOK。これであとは発酵させればいい」
「はい。あの……すごく解りやすかったです。ありがとうございます!」
「それなら良かった。実際に生地の硬さなんかは、自分でやってみないと覚えられないからな。ただ、クロワッサンは生地が出来上がってからの作業が大変だけど」
「が、頑張ってみます……!」
「弘海は向上心があるから、俺も大丈夫だと思うよ。ちゃんとできるようになったら、クロワッサンは弘海に担当してもらおうかな」
「え、マジですか!?」
クロワッサンは『ル・レーヴ』の代表的な商品のひとつでもある。
それを任せてもらえるというのは、弘海にとっては飛び上がりたいほど嬉しいことだった。
「その代わり、ウチの味を出せるようになるまで毎日特訓状態だけど、大丈夫かな?」
「だ、大丈夫です! 俺、頑張ります!」
嬉しくて意気込む弘海を見て、橘がくすりと笑った。
「え? な、何ですか?」
「いや……弘海の手って……けっこう小さいんだなと思ってさ」
「ええ? 手が小さいとクロワッサンを作るのは難しいですか?」
「そんなことないよ。そういうことじゃないんだ。弘海の手はいい手だよ。うん、いい職人になれる手をしてると思う」
「そ、そうですか? うれしいなぁ……橘さんにそう言ってもらえると……」
弘海は粉だらけの自分の手を見つめ、また嬉しい気持ちになり、顔がほころんだ。



「ただいま~♪」
まだ少し先の話だけど、クロワッサンを任せてもらえることになった弘海は、その日、上機嫌でマンションに戻った。
「何かあったのか?」
「え? 何で?」
「いや……仕事帰りのはずなのに疲れてる様子がないから……」
「当たり! 今日はいいことがあったんだ♪」
「いいこと?」
「うん。俺、店のクロワッサンを任せてもらえることになったんだ。あ、いちおうちゃんと橘さんから合格点がもらえるようなものが作れるようになってからだけどね」
「へえ、すごいな」
「ショーンにもこのすごさがわかる?」
「何となく解る」
「外国の人なのにすごいなー! でも、他人にも解ってもらえると嬉しい!」
「おめでとう」
ショーンは微笑んでそう言ったかと思うと、弘海の頬に口付けをしてきたので、慌ててその大きな体を押しのけた。
「だから、そういうお祝いはいいから!」
「俺の喜びも表してみた」
「表さなくていい!」
仕方がないなと思いつつも、上機嫌の弘海のテンションが下がることはなかった。
何だか初めて、橘から認めてもらえた気がして嬉しかった。
「さあて……ご飯は何を作ろうかな。昨日はあんまりだったから、今日は美味しいものを作るよ」
弘海は浮かれ気分でそう言ったが、返事は返って来なかった。
「ショーンは何が食べたい?」
キッチンに向かいながら聞いてみたが、やはり返事はなかった。
「ショーン?」
振り返ると、いつの間にかショーンがまた猫に戻っていた。
「ショーン……また?」
息を潜めるように、ショーンは玄関のほうを見つめていた。
昨日の今日で、また敵が近くまでやって来たとでもいうのだろうか。
ショーンの毛並みが警戒心をあらわにして逆立っている。
また昨夜と同じようにガサガサッと外で物音がした。
あの音はいったい何なんだろう。
外を見てみたい気持ちになったが、昨日も止められたのだから、見ないほうが良いのだろう。
ガサガサッ……ずっ、ずっ……と、動く音とともに何かを引きずるような音がする。
人が歩く足音ではないことは確かだった。
それは部屋の前あたりをうろうろしているようだったが、やがてまた遠ざかっていった。



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EDIT [2012/01/10 08:01] 猫目石のコンパス Comment:0
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