2ntブログ
2024/03:- - - - - 1 23 4 5 6 7 8 910 11 12 13 14 15 1617 18 19 20 21 22 2324 25 26 27 28 29 3031 - - - - - -

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

EDIT [--/--/-- --:--] スポンサー広告 コメント(-)

「うーん……」
店に戻るという三芳と別れ、弘海は買ってもらった手袋をしげしげと眺めていた。
手袋というよりは、グローブといったほうが良い商品かもしれない。
何だかよく解らない貴重な皮などが素材として使われていて、値段を確かめることは出来なかったものの、おそらく最低でも数万円はするシロモノだろう。
「本当にこんなもの……もらっていいのかな……」
さすがに弘海も躊躇してしまう。
けれどももらったものを返すのも無粋な気がするし。
こんなに肌触りの良い手袋をしたのは生まれて初めてだったので、正直に言って弘海は嬉しかった。
冬の寒空の下でも、こんな高級な手袋をしていれば、手だけでなく心まで温まりそうな気がした。
「嬉しいけど……何となく複雑な気分だ……」
これがもっと安くて気軽なものだったら、弘海は素直に喜べたと思う。
ただ、返すわけにはいかない以上、気持ちは複雑でも、ありがたく受け取っておくしかないのだろう。
「次からはもっと解りやすく遠慮しよう」
弘海はそう思い、家に向かう足を速めた。



「ただいま~」
弘海が玄関の扉を開けると、黒猫がまるで出迎えるようにそこにいた。
「猫になってたんだ」
何となく微笑ましい気持ちになって、弘海は黒猫のショーンを抱き上げた。
人間の時にはあんなに大きな体なのに、今は弘海の腕にすっぽりと収まるサイズだ。
ショーンは嬉しそうに弘海の手を舐めてくる。
「そんなに舐めたら、くすぐったいって」
弘海は笑いながら部屋に入り、カリカリを入れていた皿が空になっていることに気づいた。
「あ、カリカリがなくなってる。ちょっと待って」
弘海は黒猫を床におろし、棚の中からカリカリの入った袋を取り出した。
「さすがに猫の姿だと、これは自分で出せないよな……」
弘海が言うと、黒猫はじーっとエサの袋を持った弘海の手を見つめている。
「そんなに恨めしそうな顔するなって。だって、いつ猫に変身するか解らないから、ちゃんと準備していけなかったんだよ」
弘海は言い訳するように言いながら、皿にカリカリを入れていく。
黒猫は嬉しそうにカリカリと音を立てながら食事を始めた。
「しばらく猫のままって言ってたから……カリカリも買い足しておかないとな……」
弘海は残り少なくなったカリカリの袋を振りながら思った。
「今のうちに買いに行っておくか。ショーン、また少し留守番してて」
弘海がそう言って立ち上がると、黒猫は不満げな顔を向けてきた。
「カリカリを買いに行くだけだから。ちゃんと留守番できるよね?」
不満そうな顔をしながらも、とりあえず黒猫はニャァと小さな声で鳴いた。



「A社のよりB社のがいいって言ってたっけ……」
スーパーのペット用品売り場で、弘海はショーンが良いと言っていたカリカリを探していた。
「B社のなんて置いてないよなぁ……もう、A社のでいいか……でも、人間になったときにまた文句言われそうだし……」
「あれ、弘海?」
「え?」
名前を呼ばれて驚いて振り返ると、背後にバイト仲間の内海祐一が立っていた。
「祐一、今日バイトは?」
「今日は休み。で、晩飯の買い物」
そう言って笑って、祐一は買い物カゴを持ち上げて見せた。
「そういや祐一も一人暮らしだっけ?」
「そそ。寮に入るって手もあったけど、親がマンション借りてくれるっていうから、ありがたく出世払いにしてもらった」
「へええ……そうなんだ」
「で、何探してるんだ? 猫用のエサ?」
「ああ、うん。A社じゃなくてB社のほうがいいって言うからさ……あ、猫が言ったんじゃなくて、猫を飼ってる友達がね!」
「そりゃそうだろ。猫がエサに注文つけるわけないだろ」
当然のような祐一の突っ込みに、弘海は苦笑するばかりだった。
(エサに注文をつける猫だっているんだよ!)
弘海は心の中でだけ反論した。
「でも、弘海が猫を飼ってるなんて初耳だな」
「まあ……最近だから。外を怪我して歩いてたのを拾ったんだ」
「へえ……そうなんだ」
「うん……猫を飼うって……けっこう大変だね……」
「でも、可愛いんだろ?」
「可愛い………………けど…………」
「けど?」
「い、いや、別に……何でもない!」
弘海は慌てて笑顔を振りまいてその場を取り繕った。
まさかその猫が人間の姿になるときもあって、その人間になった猫と弘海がキスをしたり、もっとすごいことをしているなんて祐一が知ったらビックリするだろう。
猫の時は弘海の腕に収まるぐらいの大きさになるし、仕草や鳴き声も猫そのもので、確かに可愛いと思う。
でも、それがショーンだと思うと、弘海は複雑な気分になるのだった。
「この店じゃなくて、駅の向こう側にあるスーパーなら置いてあるんじゃないかな? あっちのほうが品揃えはいいと思うけど」
「そっか……面倒だけど行ってみようかな……」
「場所知ってるの?」
「何となく……行ったことはないけど」
弘海の行動範囲はあまり広くない。
引っ越してきて一年が経つけど、バイト先との往復と、馴染みのこのスーパーぐらいが弘海の行動圏だ。
「じゃあ、一緒に行くか」
「いいの?」
「いいよ。俺はこっちには特売の卵と白菜を買いに来ただけだし。今からあっちに行くつもりだったんだ」
「じゃあ、一緒に連れて行ってもらおうかな」
「清算済ませてくるから入り口のところで待ってて」
「うん」



「あ、あった! これだ」
弘海が嬉しそうにエサを買い物カゴに入れると、祐一は笑った。
「良かったな」
「ありがとう、教えてもらって助かったよ」
「弘海がこんなに近くに住んでるなんて知らなかったし。今度、家に遊びに行ってもいい?」
「あ……い、いい……よ……?」
弘海の返事に祐一は怪訝そうな顔をする。
「もしかして彼女と同棲してたりする?」
「し、してないっ、大丈夫。猫しかいないし!」
「じゃあさ、俺のところにも遊びに来いよ。狭いワンルームだけどな」
「うん、俺も祐一の住んでるところ見てみたい」
「じゃあ、次の定休日とかどう?」
「次の定休日……」
「そそ。年内最後の定休日」
「あ……その日は駄目だ……」
次の定休日は橘の家に行く約束をしていたことを弘海は思い出した。
「そっか。じゃあ、年明けだな。年末年始は俺、実家に帰るし」
「うん、ごめん……」
「どうせ来年なんていっても、一ヶ月もないんだし。あっという間だよ」
「そうだね」
「じゃあさ、携帯の番号教えて。早めに実家から帰ってきたら連絡する」
「ああ、うん。お互いに携帯の番号知らなかったっけ?」
「店で会うから特に今までは必要なかったもんな」
「そういや、そうだな」
店では販売も製造も常に忙しくて、ゆっくりと話をする機会もなかった。
祐一がスーパーの特売品をチェックして買い物をしたり、自炊したりするような人間で、しかも家が近くだったということも今日初めて知ったのだ。
「これからは店以外でも遊んだりしようぜ。せっかくご近所なんだしさ」
祐一の言葉に弘海も頷いた。
「うん、そうだよな。俺も近所に友達がいて嬉しいよ」
弘海は祐一と携帯の番号を交換して別れた。



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

ブルーガーデン
  


関連記事

EDIT [2012/01/08 09:23] 猫目石のコンパス Comment:0
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日生桔梗

Author:日生桔梗
オリジナルの18禁BL小説を書いています。

下記のランキングに参加しています。
よろしければ投票をお願いします!
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



駄文同盟

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック