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「すごい、美味しそう!」
広いダイニングに、美味しそうな料理が並べられて、弘海は目を見開いた。
「これ、猫の分。こんな感じでいいのかな?」
「あ、はい、すみません。たぶん喜んでると思います」
「猫は何て名前つけてるの?」
「え、ええと……ショーンです」
「へえ……洒落た名前だな」
「そ、そうですか……はは……ははは……」
弘海は思わず乾いた笑いを浮かべた。
「本当はクロって名前にしようと思ったんですけど、こいつが嫌がったんで……」
「へえ……クロのほうが何となく親しみがあって猫らしい気もするけど。猫が名前に不満を感じたりすることもあるんだな」
「こいつの場合は、何か特別みたいです」
そう言いながら、弘海はショーンを橘が差し出してくれた皿の前に置いた。
ほどなく自分の食べ物であることを認識したショーンが、皿の中の鳥のササミを食べ始めた。
「じゃ、俺たちも食べようか」
「あ、は、はい! すみません、結局何も手伝わずに……」
「いいよ。弘海はお客さんなんだから」
橘は弘海に料理を取り分けてくれる。
「これは肉と野菜を煮たもの」
「へえ……すごい。レストランとかで出てきそうな料理だなぁ」
「フランスではビストロの定番料理だな」
「へえ……こっちのもカナッペも美味しそうだなぁ。これって下はバケットですか?」
「うん。バケットは店から持って帰ってきたものだけど、パテやサラダは家で作ったんだ」
「すごい、ホテルとかそんなところで出てきそう」
「感心してないで、食べてみたら? 熱い料理は熱いうちに食べるのが一番美味しいから」
「あ、そうですね。いただきます!」



「美味しかった~! ご馳走様でした!」
「弘海が気持ちよく食べてくれたから、作ったほうとしても嬉しいよ」
橘は食後のお茶を弘海の前に差し出してくれる。
「何か、すごく贅沢したような気分です」
「こんな料理で贅沢って言ってもらえるなら、毎日でも作ってあげるよ」
「毎日こんな料理かぁ……すごく誘惑を感じちゃいますね」
「弘海さえよければ、うちに居候してくれてもいいんだよ」
「え……」
橘の思いもかけない言葉に、弘海は目をぱちくりと開いた。
「家賃だって大変だろうし。うちは一人で住むには少し広すぎるから。部屋も余ってるし」
「いや、でも……あの……それはあまりにも申し訳ないので……俺は自分でお金を貯めて、こんな家に住みます!」
弘海は慌ててそう言ったが、橘は生真面目な顔をしてさらに言う。
「実は、前から言おうと思ってたんだ。弘海は周りに気を使いすぎるから、きっとすぐにうんとは言わないと思ってるけど……でも、少し考えてみて欲しい。寮や下宿だとでも思ってくれればいいし」
「でも、いちおう今でもちゃんと生活できてるし……本当に大丈夫です。ありがとうございます」
「まあ……弘海はそう言うと思ったよ。でも、もしもその気になったら、いつでも来てくれていいから。俺はどちらかというと、それを待ってるつもりだし」
「橘さん……」
橘は今までに見たこともないほど真剣な目で弘海を見つめてくる。
弘海はいつも違う雰囲気を纏った橘に、戸惑いを覚えていた。
「弘海……俺は……」
弘海は思わず後ずさりしたい気持ちになった。
『たぶんその橘……お前のことが好きなんじゃないのか?』
ショーンが今朝言っていた言葉を思い出した。
(まさか……でも……)
「俺は……弘海のことを……」
橘の端正な顔がさらに近づこうとした時……。
「わっ!!!」
弘海の肩の上に、いきなりショーンが飛び乗ってきた。
そのまま弘海の膝の上に陣取って、橘を睨みつけるように見ている。
橘は緊張を解くように笑った。
「その猫……弘海のボディガードみたいだな。俺のこと睨んでるよ」
「そ、そんなことは……ないと思うんですけど……」
「今の話は別に急ぐことじゃないから、ゆっくり考えてみて」
いつもの橘の柔らかな笑みに、弘海は少し安堵した。
「はい。もしお邪魔させてもらいたくなったら、橘さんに言いますね」
「うん。待ってるよ」
弘海もいつも通りの笑みを浮かべたが、心臓はまだドキドキとしていた。



帰りも橘の車に送ってもらい、マンションの部屋に戻ったのはもう外が暗くなってからのことだった。
何だかどっと疲れたような気分だった。
橘のマンションに行くことが出来たこと、手料理をご馳走してもらったこと、橘とパンのことやフランスのことなどいろんな話が出来たこと。
それらはすべて弘海にとっては嬉しいことだった。
この上ないほどに楽しい時間でもあった。
でも、あの一瞬、橘が見せた表情を思うと、弘海は重い気分になった。
(べ、別に……はっきりと言われたわけじゃないし……ただの自意識過剰かもしれないし……)
あの後の橘は本当にいつもと同じで、弘海は勘違いや思い過ごしだと思いたかった。
けれども、あの熱のこもった目は忘れることが出来ない。
何となく気落ちした気分でマンションの部屋の扉を開けると、弘海の腕から飛び降りたショーンが、いきなり人間の姿に戻った。
「ショーン……大丈夫?」
歩いて部屋に入ろうとしたが、何だかフラフラとしている。
「……尽きた」
「え?」
「……魔力が尽きた」
「ええっ!?」
「……少し寝る」
「う、うん……」
ショーンは部屋のソファに倒れこむようにして横になった。
「大丈夫?」
「ああ……」
ショーンはそう答えたが、顔色は優れなかった。
多少は余裕があったとはいえ、半日以上も猫のままでいたのだから、消耗は相当に激しかったのだろう。
正直に言って、あの時ショーンがいてくれて助かったと弘海は思う。
もしも二人きりだったなら、弘海は橘からは絶対に聞きたくない言葉を聞いてしまっていたかもしれない。
「そ、その……何か……したほうがいい?」
「何もする気分じゃないだろう?」
まるで気持ちを見透かされたみたいだった。
自分でも、気持ちの整理がついていない。
橘には最大限の尊敬の気持ちと、親しみの気持ちを抱いているけれども。
橘がもしもそれとは別のものを弘海に求めているのだとしたら、弘海にはその思いに応えることは出来ない。
「ごめん……」
「いい……気にするな。寝ていても、回復はする」
ただ眠っているだけで回復する量が微量だということは、弘海ももう知っている。
けれども今は、ショーンが指摘したとおり、本当に何もする気になれなかった。



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EDIT [2012/01/14 08:15] 猫目石のコンパス Comment:0
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