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「ああもう……イライラする……」
弘海はエレベーターの中でため息をついた。
ショーンが変なことを言うから、出かける前に嫌な気持ちになってしまった。
せっかく橘の家に行くことを楽しみにしていたのに、それを邪魔された気分だった。
(橘さんが……そんなことあるわけないじゃん……そんなに周り中がホモだらけだったら、大変だよ……)
エレベーターを降りると、橘の車がすでに到着しているのが見えた。
弘海は慌ててマンションのエントランスを走り抜けた。
「す、すみません……迎えにきてもらった上に待たせてしまって……」
「いや、大丈夫だよ。俺も今来たところだし」
「本当はもうちょっと早く出るつもりだったんですけど……いろいろトラブルが……」
「出かけるときになって、いろいろ思い出したりするよな」
「そ、そう、そんな感じ! よくあります! まあ、今日のは……ちょっと違いますが……」
気がつくと橘が助手席のドアを開けてくれていた。
「わわ、ありがとうございます!」
弘海は慌てて助手席に滑り込んだ。
橘の車には、夜遅くなったときなどに何度かマンションまで送ってもらうのに乗せてもらうことがあった。
最初は国産のセダンに乗っていたけれど、やはりフランス好きが講じて、不便を覚悟でフランス車に乗り換えたらしい。
日本車とはどこか雰囲気の違うクラシカルなタイプの白い車で、橘にとても似合っていた。
運転席に乗り込んだ橘は、助手席の弘海を見て不思議そうに首をかしげた。
「弘海……猫……飼ってたんだっけ?」
「あ、ああ、はい……えっと、最近……」
「猫も……連れて行くの……?」
「え?」
気がつけば、バッグのファスナーの合間から黒猫の顔がちょこんと顔を出していた。
「うわあああ、な、何やってるんだよ、お前~!!!」
いつの間にか猫に変身したショーンが、どういう方法でか弘海のバッグの中にもぐりこんだようだった。
黒猫は欠伸をすると、まるでそこが最初から自分の定位置みたいな顔をして、バッグの中で居眠りを始めた。
「す、すみません、おいてきます! ちょっと待っててください!!」
「いや、いいよ。ウチもペット大丈夫なマンションだし。連れて行けば?」
「で、でも……申し訳ないし……いろいろと障りが……」
「ほら、もう眠ってるみたいだし。起こすのもかわいそうだろ? 今日は猫も一緒に来るといいよ」
「で、でも……」
「弘海、シートベルト」
「あ、すみません」
「じゃあ車を出すよ」
車はバッグの中の黒猫を乗せたまま走り出した。
(し、しまった……シートベルトをしたら車を発車させるに決まってるじゃん……)
おそらく橘は猫を連れて行くことをためらう弘海を気遣って、車を出発させたのだろう。
橘の気遣いはありがたかったが、それだけに申し訳なさも大きかった。
この黒猫が、ただの猫じゃないと弘海は知っているだけに……。
(ホントにもう……何考えてるんだよ……俺が協力した貴重な魔力が……こうしている間にもどんどん減って……っていうか、途中で魔力が尽きて人間に戻ったらどうするつもりなんだ……?)
「はぁ……」
「どうした? ため息なんかついて……」
「い、いえ……何でもないです。それより、今日はずっと楽しみにしてたんです。橘さんの家ってどんなのかなぁって思って」
「どんなのって……普通のマンションだよ。いちおうデザイナーがいろいろこだわって造ったみたいだけどね」
「へえ……デザイナーズマンションかぁ……すごいなぁ……ウチはワンルームよりちょっとマシって程度の1Kだしなぁ……」
「弘海はまだ10代だろ? それなら1Kで十分だよ。もっと大人になってから、広い部屋に引っ越せばいいと思うよ」
「そうですよね~、あ~、早く大人になりたいな~」
「早く大人になってもつまらないよ。後になってみると、10代の頃は良かったと思うことも多いし」
「そうなんだ……」
「ま、俺も弘海ぐらいの頃は早く大人になりたいと思ってたけどね」
「ですよね~。だって何かと未成年って不便だし……」
特に弘海の場合、未成年だけで出来ない手続きがあれば、疎遠になっている家族に連絡を取る必要が出てくる。
それが面倒だった。
成人してしまえば、そういう必要もほぼなくなると思うが、必要な時にだけ連絡を取りあう家族というのは、何だかもうほとんど他人のようで、声を聞いたり顔を見たりするのも寂しくて辛くなるだけだった。
気がつけば、いつの間に起きだしたのか、ショーンがペロペロと弘海の手を舐めていた。
(俺の考えてること解るはずないと思うけど……何か慰めてくれてるみたいだな……)
黒猫の額を指で撫でているうちに、何となく気持ちが温かくなっていた。



「うわー、すごいなー。何っていうか……お洒落ってこういう部屋のことを言うんでしょうね~」
弘海が心底感心したように言うと、橘は吹きだした。
「大げさだな、弘海は」
「でも、俺こんなお洒落な部屋に入るの初めてですよ」
マンションだというのに天井は高く、階段があって中二階がある。
物はとても少なくて、家具もシンプルだけど、壁には絵画がかけてあったり、さりげなく小さな花が飾られてあったり、ワインのグラスやボトルがオブジェのように配置されていた。
白を基調とした部屋は窓が大きく取られていて、とても明るい。
まるでヨーロッパのホテルか何かのような雰囲気を思わせる部屋だった。
弘海は黒猫のショーンを抱いたまま、部屋のあちこちをうろうろした。
自由にさせれば何をするか心配だったというのもある。
その間、橘はダイニングと一体になったキッチンで、弘海のための料理を作ってくれていた。
「おー、マンションの部屋の中に階段があるってすごいな~。これ、上っていいですか?」
「いいけど、別に変わったものは何もないよ」
「上ってみたいだけなんです!」
弘海は埃ひとつ落ちてない磨かれた階段を上ってみる。
階段の先はロフトになっていて、どうやらそこが橘の寝室になっているようだった。
一人用にしては十分すぎるほどの大きさのベッドが配置されている。
「弘海、その猫は何を食べるの?」
下から声をかけられて、弘海は慌てて階段を降りた。
「あ……ええと、何もなくていいです」
「そういうわけにはいかないだろう。俺たちだけが食べてるのも可哀想だし。何か食べさせてあげれるものがあったら出したいんだけど」
「じゃあ……鳥のササミとかありますか?」
「ああ、あるよ。味付けなんかするの?」
「味付けはしないほうがいいです。少し火を通して……」
「解った。じゃあ、準備しておくよ」
「すみません、本当に……」
弘海は腕の中の黒猫をにらみつけた。
黒猫は素知らぬ顔で、弘海の腕の中に顔を埋めた。



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