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「おはよう!」
声をかけながら店に入ってきたのは、この店の店長でもある三芳宗助(みよしそうすけ)だった。
オーナーの橘とは同級生で、ほとんど二人三脚でこのベーカリーショップ『ル・レーヴ』を経営してきたらしい。
橘とはまた違ったタイプのイケメンで、橘が美しいタイプのイケメンとすると、三芳はどちらかというと精悍なタイプのイケメンだった。
この店の人気の秘密は、このイケメンの双璧ともいえる二人に起因するところもかなりあると弘海は見ていた。
「おはよーございます!」
続いて店に入ってきたのは、販売専門のアルバイトでもある内海祐一(うつみゆういち)だった。
祐一は都内の大学の一回生で、大学生活を満喫しつつ、バイト生活も満喫中の充実した学生生活を送っている。
見た目はどちらかというとアイドル系。
祐一もこの店の人気の一翼を担っているといっても過言ではないだろう。
(考えてみたら……男ばっかり……)
ベーカリーショップなのに、何故か男ばかりだということに、弘海は改めて驚いた。
女子のバイトも何人かはいるが、人数比にしてみると、圧倒的に男のほうが多い。
それでもみんな橘の作るパンが大好きで、この店が大好きという点では共通していた。
「弘海、次の仕込みに取り掛かろう」
「はい!」
橘に呼ばれ、弘海は慌てて厨房に戻る。
午前のパンの準備は終わったが、今度はランチタイムから午後にかけてのパンを準備しておかなくてはならなかった。
気がつくと開店5分前だった。
店先では三芳と祐一が慌しくパンを並べている。
忙しい一日は怒涛のように過ぎていく。



「あ~、疲れたなぁ……」
一日の仕事を終え、マンションの部屋に戻る頃には、外はもう夕暮れの色だった。
本来なら昼過ぎには弘海の勤務は終わるはずなのだが、人手が足りなさ過ぎて終わらなかったのだ。
夜明け前から働き、夕方ともなると、疲れがどっと出てくる。
しかも昨日の帰りは遅かったし……。
「猫……どうしてるかな……」
部屋の扉を開けて弘海がまず考えたのは猫のことだった。
いちおう手当てはしてあるとはいえ、負傷している猫のことだ。
状態が悪ければ、まだ開いてそうな動物病院に連れて行こうと思っていた。
「ただいま……クロいるか? クロ?」
当人はクロという名前を嫌がっている様子だったが、他に呼び名も決めていないので、弘海はその名で呼んだ。
しかし、部屋からクロが出てくる様子はない。
「寝てるのかな……だったらいいけど……」
弘海は不安になりながら部屋に入ってみた。
「え……」
弘海は思わず唖然とした。
「あの……」
思わずそう声をかけたのは、部屋の中に見知らぬ男がいたからだった。
「すみません……」
男は憮然とした顔で弘海を見返すだけで、何も答えない。
髪は肩の辺りまでと少し長めの綺麗な黒髪で、服装は何だか少し変わった格好をしている。
少し変わった格好というのは、チャイナ服のような艶のある生地の衣服で、あまり今風の洋服ではないことは確かだった。
かといって趣味が悪いのかというとそうではなく、そのままの服装で外を歩いていても、ちょっとお洒落な人だなと目を惹くような感じのものだ。
ともかく、何だか個性的であるということは間違いなかった。
弘海は戸惑いつつも、男に声をかける。
「えっと……ここは俺の……家だと……思うんですけど……」
自分で鍵を開けて入ってきたのだから、弘海が部屋を間違えたなどという可能性はないだろう。
ましてや、その部屋の家具もカーテンも小物類も、すべて紛れもなく弘海のものだった。
「お前が連れてきたのだろう?」
男はそうぶっきらぼうに答えた。
「お、俺が!? 俺……知らない人を連れてきた覚えなんてないんですけど……」
弘海は慌てて否定したが、相手の男は怪訝そうに首をかしげるだけだった。、
「手当てもしてくれただろう?」
「て、手当て!?」
すっかりパニックになった弘海に、男は右腕の包帯を見せる。
「えっと……俺はその……猫の手当てはしました。はい。猫の手当てはしましたが……人間の手当てをした覚えはないんですけど……」
「その猫が、俺だ」
「…………」
あまりにも堂々とそんなことを言うので、弘海は思わずぽかんとしてしまった。
そして、次には腹が立ってきた。
「あの……新手のナンパですか!? 俺そういう趣味ありませんので! どうやって部屋に入ってきたのか知りませんけど、ここは俺の家なんで、出て行ってもらえますか!?」
弘海はそう言い、びしっと玄関を指差した。
「だから、お前が連れてきたんだろう? 別に俺は入りたくてこの部屋に入ったわけじゃない。まあ……助かったのは事実だが……」
あくまでも自分は昨夜の黒猫だと言い張る男に、弘海の苛立ちはさらに強くなった。
「いい加減に俺をからかうの、やめてもらえませんか!? 自分が猫だと言ったり、俺が連れてきたとか言ったり……頭おかしいんじゃないですか!?」
弘海はヒートアップして言いたいことを全部言ってしまった。
言ってしまってから、頭がおかしいは言い過ぎかと反省したりもした。
「えっと……まぁ……そういうことなので……すみませんが、出て行ってください」
「解った。世話になったな」
男は立ち上がった。
立ち上がると驚くほどに上背があって、すっかり弘海が見上げる形になった。
「あ……」
(髪が少し長めで長身で……それでいて右腕を怪我してる……服装はちょっと派手……)
弘海は店で聞いた通り魔の被害者のことを思い出した。
「ちょ、ちょっと待った!」
今にも玄関を出て行こうとする男を呼び止めた。
「まだ何かあるのか?」
「ひょっとしてあなたは……一昨日、通り魔に襲われた人じゃないんですか?」
「確かに、この怪我をしたのは一昨日だが。あれは通り魔ではなく、使い魔だ」
「は?」
そう言って玄関を出て行こうとして、男は思い出したように振り返った。
「ああ……カリカリはA社じゃなくB社のほうが美味いな。まあ、昨日は腹が減ってたから文句を言わずに食ったが……」
「えっと……」
弘海は男のいうことがさっぱり理解できず、目をぱちくりとさせた。
「ではな……」
そう言って男が出て行こうとする男の腕を、弘海は気がつけば引っ張っていた。
「何だ?」
「いや、あの……出て行って、いくところあるの?しかも、靴はいてないし」
玄関には弘海のもの以外の靴はなく、男は裸足のまま外に出ようとしていた。
「ああ、靴は消えたな……」
「消えた!?」
男の言うことにいちいち驚く自分に腹も立つが、どこまでもからかっているとしか思えないようなことばかり言う男にも腹が立った。
それでも、裸足で出て行こうとする男をそのまま外に出すのはかわいそうな気がしたし、ひょっとして通り魔に襲われた人なのだとしたら、怪我も治っていないのに外を歩くのは危ないような気がした。
「と、とりあえず! 中に入ろう。中に入って話そう」
弘海はそう言って、一度追い出そうとした男を再び部屋の中に招きいれた。



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EDIT [2011/12/28 08:16] 猫目石のコンパス Comment:0
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