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「お父さん……」
弘海はもう一度呟いた。
父は微笑んでいる。
「お父さん……会いたかった……」
弘海が言うと、父は頷いた。
「父さんも……弘海に会いたかったよ」
間違いなく、父の声でそう言った。
「お父さん……!」
弘海はたまらなくなって、父に抱きついた。
その体の感触はしっかりとあって、幻でも何でもなかった。
死の寸前のやせ細った父とは違い、痩身ではあるが、不健康なほどではない……父が元気だった頃の体の感触だった。
父のほうも弘海のことをそっと抱きしめてくれた。
温かい……。
幽霊などではなく、ちゃんと温もりがある。
「お父さん……戻ってきて……」
弘海は顔を上げてそう言ったが、父は困ったように微笑むだけだった。
「お父さん……戻ってこれないの?」
弘海は不安になって聞いてみた。
「それは……無理だよ、弘海。解るだろう?」
「解らない……だって、今こうして生きてるのに! 温かいのに! 戻ってこれるよ!」
「弘海……お父さんはもう、死んだんだ……」
そう言って、父は寂しそうに微笑んだ。
「もう前みたいに弘海と一緒にいることは出来ない」
「そんな……だって……ここにいるのに……」
「もう戻らないと……」
父のその言葉に、弘海は驚いたように目を見開いた。
「え……嫌だ……行かないでよ、お父さん……」
やっと会えたのに……あまりにも再会の時間が短すぎる。
いったいどれだけの日々、父に会うことを願い続けてきたことか……。
気がつけば、父の姿が少し薄くなっていた。
抱きしめる体の感触も、温度を少し感じる程度になっている。
「嫌だ……お父さん……行かないで……!」
「お父さんは……いつも……弘海の……そばにいる……から……」
途切れ途切れに聞こえた言葉は、先ほどまでのように父の口からというわけではなく、弘海の脳裏に直接響くような言葉だった。
「嫌だ……行くな……!!!!」
弘海は怒鳴るように言ったが、父は微笑んだ姿のまま、すうっと消えてしまった。
「お父さん……」
気がつけば弘海は涙を流していた。
父に会えた喜びよりも、父が消えてしまった悲しみのほうが、今は勝っている。
「もう少し時間が取れれば良かったんだが……悪いな……」
気がつけば、ショーンが傍に立っていた。
まるで涙腺が壊れてしまったかのように、弘海の目からは後から後から涙が溢れて止まらない。
「やっぱり……やめておけば良かったな……」
ショーンはそう言いながら、弘海の体をそっと抱き寄せた。
弘海は自分からショーンの体に抱きついた。
泣いている顔を見られたくなかったのと、今は誰かの温もりがとても恋しかったからだ。
ショーンの体からは、陽だまりの匂いがした。
その匂いが少しずつ少しずつ、弘海の悲しみを癒してくれるようだった。



結局、ショーンは弘海が落ち着くまで、ずっと抱きしめていてくれた。
ようやく落ち着いてみると、家族でもない人にずっと抱きついていたのが恥ずかしくなって、弘海は自分から体を離した。
「ごめん……やめておいたほうがいいっていう意味……やっと解った……」
弘海は責任を感じている様子のショーンに申し訳なく思って謝った。
結局、生き返らせることが出来ない以上、この再会は、忘れようとしていたはずの弘海の悲しみをリアルに蘇らせてしまうだけのものだった。
ショーンは最初からそれを解っていたのだろう。
「もう大丈夫……だから……ありがとう……」
「…………」
「ちょっと泣いちゃったけど……でも、お父さんに会えて良かった……」
弘海はそう言ったが、もちろん強がりだった。
自分で望んで父に会わせてもらったのに、そのことでショーンが責任を感じているのが申し訳ない気持ちだったからだ。
「弘海……」
「え……」
名前を呼ばれて驚いて顔を上げると、すぐそばにショーンの顔があった。
その唇が、弘海の唇に触れてくる。
「ん……っ……」
驚きのあまり、弘海は逃れることが出来なかった。
ショーンの唇は大きいけど柔らかくて……何だかとても気持ちよかった。
(……って、これってキス!?)
ようやく気づいて、弘海は慌ててショーンの体を突き飛ばすようにして離れた。
「な、何するんだよ!?」
弘海が唇を拭いながら抗議すると、ショーンはきょとんとした顔をする。
「キスを知らないのか?」
「知ってるけど……男同士でするもんじゃないだろ!?」
「心が通じ合っていれば、別に問題ないのでは……」
「問題あるよ!!! 通じ合ってないから!!!」
ショーンはとんでもない誤解をしているような気がして、弘海は頭がくらくらとした。
「と、とにかく……二度とするな!!! 今度俺に変なことしたら、本当に出て行ってもらうからな!!!」
弘海が息を切らしながら言い終えると、ショーンは不思議そうに首をかしげた。
「本当にお前は変わってるな……」
「いや、変わってるのはショーンのほうだから!!!」
弘海がきっぱりとそう言い切っても、ショーンのほうはまだ納得できないというような顔をしている。
「とにかく、二度と勝手にキスするな!!!」
「解った。お前が望むのなら、そうしよう」
どこまでも不遜な態度に少しイラつきながらも、何とか納得してくれたようだったので、弘海はとりあえずホッとした。
ホッとすると一日の疲れと空腹がどっとやって来た。
「はぁ……腹減ったな……ショーン、何でも出来るんだったら、今すぐご飯が食べれるようにして……」
「何が食べたい?」
「そうだな……久しぶりに寿司! って……言うだけだったら何でも言えるからいいよな……」
「解った」
「え? 解ったって……何が解ったの?」
弘海が首をかしげていると、ショーンはテーブルに手をかざし、目を閉じた。
(まさか寿司がポンっと出てくるなんてことは……あり得ないよな……)
弘海がそう思っていると、ショーンが長い手を一振りした。
すると、そのタイミングに合わせるかのように、テーブルいっぱいに豪華な寿司が並んだのだ。
「嘘……」
弘海は思わず目を見開いた。
「すっごい……これって本当に食べられるの!?」
「当然だ」
「うわぁぁぁ……こんな豪華な寿司……久しぶりだぁ……本当に食べていい?」
「ああ、好きなだけ食えばいい」
「ありがとう~! じゃあさっそくこのウニ!」
シャリからはみ出しそうなほどの大量のウニが乗った寿司は、口に入れるととろけそうだった。
「美味い~、幸せ~!」
弘海はイクラやトロやサーモンなど、好きなものを次々に口に入れていく。
どれもこれも、まるで高級寿司店のもののように美味かった。
「ありがとう、ショーン!!!」
思わず感激して礼を言うと、ショーンは不敵な笑みを浮かべた。
「伴侶の願いは何でも叶えてやると言っただろう?」
「いや、伴侶じゃないし!!!」
思い切り否定したが、ショーンはどこか嬉しそうに寿司を食べる弘海を見ている。
「俺一人じゃこんなに食いきれないし。ショーンも一緒に食べよう」
「そうだな。俺も相伴させてもらうか」
二人でお腹いっぱいになるまで食べ続けても、テーブルの上の寿司はなかなか減らず……。
結局、翌日の朝食も昼食も寿司になり、弘海はしばらく寿司の顔を見たくないと思った。



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EDIT [2011/12/30 11:32] 猫目石のコンパス Comment:0
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