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翌日、弘海にとっては久々の休日だった。
昨夜はショーンを警戒しながら眠ったが、特に襲われることもなく、平和に朝を迎えることが出来た。
朝食、昼食と昨夜の残りの寿司を食べ、そのあとショーンを残し、弘海は外へ出た。
とりあえず、ショーンの靴を買おうと思ったからだった。
そうしないと、ショーンは自由に部屋を出入りすることも出来ない。
昨夜の父との再会と寿司へのお礼も兼ねていた。
とりあえずはギブアンドテイクという体裁を整えておかないと、また伴侶がどうのこうのと言い出しそうな気がしたからだ。
(でも……あれって何なんだろうな……)
昨夜のうちに、弘海は二度もすごい不思議を目の前で見てしまった。
死んだ父に出会えたこと、そして、いきなり目の前に高級寿司がズラリと並んだこと。
マジックなら必ず仕掛けがあるはずだが、そんな仕掛けはどこにもなかったように思う。
もっといろんな奇跡を見てみたい気もしたが、見返りを求められるかもしれないと思うと言い出せなかった。
何しろ勝手に伴侶扱いされているぐらいだし……。
(ショーンって……何者なんだろう……)
自分は黒猫だと言い張り、カリカリの種類に文句をつけていたくせに、昨夜は一緒に寿司も食べていた。
(やっぱり人間だろ……)
弘海はそう思った。
ただ、ショーンに抱きしめられた時にとても良い香りがした。
弘海はその匂いに覚えがあった。
飼っていた猫がいつもああいう良い匂いがしたのだ。
それは猫の匂いとしか言いようのない匂いだった。
陽だまりのような匂い……洗濯物を取り入れたばかりのときの温かな匂い……。
(でも……やっぱり人間だ……)
猫と同じ匂いのする人間がいたって、別に不思議ではないだろう。
むしろ匂いが同じだからといって、人間を猫だと思いこむほうがおかしい。
そうは思うのに、何かが引っかかる気がした。
「あ……目だ……」
目の色が、猫のあの不思議な色合いにとてもよく似ている。
「しかも猫舌だったし……」
弘海はそう思いながら、慌ててかぶりを振る。
「そんなわけない……人間だ……」
考えれば考えるほど、ショーンを猫と結び付けたがってしまう自分に、弘海はため息をついた。
「とりあえず、靴買って帰ろう。ああ……あと合鍵も作らないと……」
思わぬ出費だが、自分が提案したことだから仕方がない。
ともかくショーンの行き場が見つかるまではいても良いと言ってしまったのだし。



「ただいま」
弘海がマンションの部屋に戻ると、ショーンは眠っているようだった。
どことなく顔色が悪いような気もする。
(そういえば……怪我してたんだっけ……)
「大丈夫?」
近くまで行き、その顔をのぞきこむと、やはり何となく顔色が悪い。
「……少し疲れた」
「もしかして……傷が悪化してるとか?」
「いや……疲れただけだ」
「傷の手当て……ちゃんとしてる?してないよね?ちょっと見せて」
力なく伸びてきた腕を取り、包帯を外してみる。
化膿したりしている様子はないが、まだ傷跡は痛々しかった。
「これ……病院行ったほうがいいんじゃ……」
「この程度の怪我なら大丈夫だ」
「いちおう消毒と……ガーゼと包帯は取り替えておくよ」
弘海はそう言い、救急箱からオキシドールとガーゼと包帯を取り出した。
傷の範囲はけっこう広くて、刃物による傷というよりは、何か動物の爪のようなもので引っかかれたようにも見える。
「相手の凶器って何だったの?」
オキシドールをしみこませたガーゼを傷口に当てながら、弘海は聞いてみた。
「凶器というか、蹴爪にやられた」
「はいはい、ちょっと染みるかもしれないけど、動かないでよね」
ショーンの言葉を弘海は完全にスルーした。
蹴爪と言われれば、確かにそれに近いものによる傷のようにも見えるが……。
(いやいや……ショーンの言葉を真に受けちゃ駄目だ……つい騙されそうになるんだよな……)
消毒を終えた傷口に真新しいガーゼを当て、その上から包帯を丁寧に巻いていく。
「はい、終わり!」
弘海が勢いよくパンっと傷口を叩くと、ショーンが顔をしかめた。
「痛っ……」
「あ、ごめん、力入りすぎちゃった……」
「いや……助かった。ありがとう」
「怪我をしている人の手当てをするのは当然のことだよ」
そう言ってから、弘海はショーンの顔をもう一度のぞきこんだ。
やっぱり顔色が良くない。
「もしかして、熱でもあるのかな?」
額に手を当ててみたが、特に熱があるほど熱いとは思わなかった。
「ちょっとベッドで休んでいたら?せっかくショーンの靴を買ってきたから一緒に出かけようかとも思ったけど。外出は体調が良くなってからにしよう」
「俺の靴?」
「あ、ええと、ギブアンドテイクだからね!昨日のお寿司と……それからお父さんに会わせてくれたお礼」
「そんなことは、伴侶が望むことだから叶えるのが当然だ」
「だから、伴侶って決めるなよ!!! 俺は認めてないから!!!」
相変わらずショーンの中では、弘海はもう確定的に伴侶になっているようだった。
弘海は話の話題を変えるために、買ってきた靴の箱を取り出した。
「ショーンの足って大きいから、サイズを探すのが大変だったよ」
「朝、足の大きさを測っていたのはそのためだったのか」
「うん。靴がないと外に出るのも不便かなと思ってさ。あとこれ、合鍵。俺、明日からまたしばらく連勤で仕事だから、一人で外に出ることもあるだろうし」
「世話をかけるな」
「困った人を助けるのは当然のことだからね!」
困った人という部分を弘海は強調した。
決して伴侶というのを認めたわけではないということは、しっかりとアピールしておかなくてはいけないと思った。
ショーンは鍵と靴を受け取ると、嬉しそうに微笑んだ。
「大切にする」
どうやら喜んでくれているようだったので、弘海はホッとすると同時に嬉しい気持ちになった。
自分のしたことで誰かが喜んでくれるということは、とても嬉しいことだ。
「元気になったらさ……」
言いかけた言葉を、弘海は飲み込んだ。
ショーンがぐったりと倒れこんでいたからだ。
「ど、どうしたの!? 大丈夫!?」
「大丈夫……だ……昨日少し力を使いすぎた……」
「昨日……」
父に会わせてくれたり、豪華な寿司を出してくれたり。
そうしたことをするのに、相当の体力が必要だったということなのだろうか。
「……少し、寝る」
そう言ったきり、ショーンはまるで死んだように動かなくなった。




本年最後の更新になります。
どうか皆様、良いお年をお迎えくださいませ!
来年もまたよろしくお願いします!

日生桔梗



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