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「…………」
開店前の仕込みをしながらも、弘海の気持ちは散漫としていた。
(猫……本当に猫だった……)
目の前でショーンが黒猫に変身した。
自分があの時の黒猫だとショーンは言い張っていたが、まさか本当のことだと思わなかった。
(本体は人間で、黒猫に変身しただけみたいだけど……でも、人間が猫に変身って……)
父親に会わせてくれたり、寿司を出してくれたり、不思議なことはあったけど、人間が黒猫に変わる瞬間を見てしまった衝撃は、なかなか収まりそうになかった。
(それに……魔力を回復させる方法が……セ……セ……セック……ス……とか……)
「弘海!」
「あ……」
橘に呼ばれてハッとした弘海の目に、ボールから溢れ出す小麦粉の粉が見えた。
「うわぁああぁ……す、すみません!」
慌てて弘海は調理台の上にあふれ出した粉を片付ける。
「ボールの中は粉だけ? 他の材料も混ぜてる?」
「え、ええと……」
聞かれても思い出せない。
いったい何をどうしていたのか……。
「じゃあ、そのボールは置いておいて。オーブンに入ってるのがもう焼けるから、それを並べていって」
「すみません……」
弘海は自己嫌悪を感じながらオーブンに向かう。
せっかく生地の仕込みを任せてもらうようになったというのに、貴重な材料を無駄にしてしまった。
橘は優しいから怒っている様子はないけれど、呆れているのではないかと弘海は思った。
情けない気持ちになりながら、弘海はオーブンの中で焼きあがったパンを取り出していく。
(今は仕事中だ……余計なことを考えるのはやめよう……)
弘海はそう思い、目の前の作業にだけ集中することにした。



「お疲れさん」
「あ……」
目の前にカップを差し出され、弘海は汗を拭った。
もうじき販売のスタッフが出勤してくる時間だった。
「少し休もう。朝の仕込みもメドがついてきたし」
「はい……あの……さっきはすみませんでした……」
弘海が謝ると、橘はくすりと笑った。
「弘海が失敗するなんて珍しいな。何か心配事でもあるのか?」
「いえ……そういうことは……ないんですけど……」
「そうか……それならいいんだけど。何か困ったことがあるなら、遠慮せずに言えよ」
「はい……ありがとうございます」
橘の気遣いをありがたく思いつつも、弘海は自分を猛省していた。
いくら私生活でいろんなことがあったからといって、それを仕事場に持ち込むのはいけないことだ。
「あの……材料を無駄にしてしまって……本当にすみませんでした。これからは本当に気をつけます!」
弘海がそう言って頭を下げると、橘は優しく微笑んだ。
「もう気にしなくていいって。あの粉は試作で使えるし。そろそろ新しいメニューを考えようと思っていたから」
「でも……本当ならちゃんと商品になったものなのに……」
「試作品を作るのにも材料は必要だし。それでお客さんに喜んでもらえる商品がひとつ増えれば、あの粉も大役を果たすことになるじゃないか」
「そう……なんですけど……」
橘はフォローしてくれようとするが、弘海はなかなか自分を許すことが出来なかった。
「まあ……明日の朝、試作品を焼いてみるよ。弘海には最初の味見役をお願いしようかな」
「は、はい! それはもちろん!」
橘の新作を一番先に食べさせてもらえるというのは、弘海にとってはとても嬉しいことだった。
きっと他のスタッフにも羨ましがられることは間違いないはずだ。
「じゃあ、そろそろ始めようか」
「はい!」



「はぁ~……つかれたなぁ……」
今日は橘の意向で弘海は定時にバイトを終えることが出来た。
冬空ではあるが、まだ陽は高い位置にある。
どうやら今朝の失敗のこともあって、弘海が疲れていると思い、気遣ってくれたようだった。
そうやって気遣われると、弘海はますます罪悪感に苛まれてしまう。
限りなく落ち込んだ気分で弘海がマンションの部屋の扉を開けると、黒猫ではなくショーンが部屋のベッドにもたれてぐったりとしていた。
「人間に戻ったんだ?」
「猫の姿でいるのは魔力を消耗するからな……」
「なるほど……」
確かに、残り僅かとなった魔力を猫の姿でいることで消耗し続けるのはあまりよろしくないことなのだろう。
「でもさ……魔力がなくなったら猫になれないんじゃないの?」
「そうだな……」
「そうなったら敵に気配が見つかってしまうんじゃないの?」
「そうだな……」
「気配が見つかったら……通り魔はここにやって来る?」
「来るだろう……でもまだしばらくは大丈夫だ。こまめに人間に戻っていれば何とかなる」
「そう……」
弘海はそこで話をとぎった。
たとえ何とかならないにしても、ショーンの魔力を回復するための手伝いだけは出来ないし、する気もなかった。
(だって……セッ……クス……なんて、男同士でするもんじゃないし……)
そう思いながらも、顔が熱くなってくるのを感じた。
もともと弘海は性欲に関しては淡白なほうで、仕事で忙しいとほとんど処理をしなくても問題がないほうだった。
セックスなんて刺激的な単語は、いったいどれぐらいぶりに聞いたことだろう。
弘海は気持ちを切り替えるように軽く首を振った。
「ご飯、食べる? パスタでも作ろうかと思ってるけど」
「弘海が作ってくれるのか?」
「まあ……自分が食べるついでだし……」
「じゃあ食べる」
何だそれは……と思いつつも、弘海はキッチンに立って食事を作り始める。
父親が体調を崩し始めた辺りから、弘海は料理をはじめ、ひと通りの家事は自分でこなすようになった。
店でパン作りを任されるようになると、自分の家でもパンを焼いてみたり、自分なりに試作品を作ってみたりもするようになった。
だから弘海の料理の腕前はなかなかのもので、今では休日の趣味のようにもなっていた。
「出来た!」
ありあわせの材料だけで作ったものだから、それほど豪華ではないけれども。
ベーコンときのこのパスタと野菜のコンソメスープが完成した。
「ショーン、出来たよ」
テーブルの上にパスタとスープを並べると、ショーンは感心したように言った。
「すごいな……これ、弘海が作ったのか?」
「まあな。料理はちょこちょこやってるからな。パン作りにも役に立つし」
テーブルセッティングをしながら弘海が言うと、ショーンはじっとパスタを見つめている。
「ああ、見てないで食べていいよ。お腹すいてるんじゃない? 出かけるとき猫だったから、猫用のカリカリしか置いていかなかったし」
「人間に戻ると、猫のカリカリが不味くなるのが不思議だ……」
生真面目な顔で言うショーンに、弘海は少し笑った。
「やっぱり人間でいるときはカリカリ美味しくないんだ?」
「そうだな……そうらしい……食ってみようとしたんだが駄目だった……」
「じゃ、早く食べて。それは人間が食べて美味しいものだと思うから」
「いただきます」
ショーンはパスタを口に運ぶ。
「美味い!」
珍しく嬉しそうな顔をして、ショーンはパスタを気持ちが良いぐらいにぱくぱくと口に運ぶ。
(そういえば……誰かに料理を作ったことなんて……久しぶりだな……)
父親に初めて料理を作った時も、とても美味しそうに食べてくれて……。
それが嬉しくてまた作ろうと思った。
今もその時と似たような気持ちになっていた。
美味しそうに食べてくれるショーンの姿が、何だかとても嬉しい。
気がつけば、ショーンの皿は空になっていた。
「あ……足りなかったかな? これ、俺の食べていいよ」
「いや……でもそうしたらお前のがなくなるだろ」
「もう一度作るから大丈夫。パスタだから材料はたっぷりあるし」
「そうか……じゃあ、いただこうかな……」
遠慮がちに言ったショーンの言葉に、弘海は思わず笑う。
「足りなかったら、おかわりのおかわりもあるし。ショーンは体力を回復させないといけないんだから、しっかり食べないと」
「ああ、助かる。ありがとう」
礼を言い、ショーンは弘海の食べかけのパスタを美味しそうにほお張っていく。
弘海はパスタを作り直すためにキッチンに向かった。



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EDIT [2012/01/02 17:19] 猫目石のコンパス Comment:0
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