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リビングの上でノートパソコンを広げ、悠樹はレポート作りに勤しんでいた。
一時的に多くなってしまった欠席は、レポートの出来で何とか穴埋めしたいところだった。
勉強部屋がないのは不便だけど、このリビングは眺めがいい。
宝石を散らしたような夜の景色もいいが、陽が沈もうとする黄昏時や陽が昇る直前の何ともいえない空の色も好きだった。
今はちょうど黄昏時。ガラス張りになった一面に、茜色の空が広がっていた。
漣はアメリカにいた頃も、こういう高層のマンションに住んでいたらしい。
だから日本でも同じような高層のマンションを選んだのだろう。
「ん~……はかどらないなぁ……」
得意分野のレポートは大方終わってしまっているので、あとは悠樹があまり得意ではない科目のものだけが残っている。
たまに漣に手伝ってもらったりもするが、あまりにも完璧すぎて、流用しようにも出来ないという欠点があった。
完璧すぎて使えないというのも皮肉な話だが、レポートはできるだけ自分の言葉で書きたいと思うから、そのまま提出するのは嫌だった。
となると、結局自分なりの角度でもう一度検証し直して、一からレポートを作り直すハメになったりする。
それでもやはり、漣の考え方の角度というのは悠樹などとはまったく違っていて、新鮮だし、面白かった。
「気分転換にテレビでも見ようかな」
リモコンを手にとってテレビをつけてみると、ちょうど夕方のニュースの時間だった。
ノートパソコンとテレビとを見比べているうちに、悠樹はふと画面に小さく映った人の姿に目を奪われた。
「あれ……これって……」
中国系企業の経営する保険会社が初めて火災保険事業で日本に参入するというニュースだった。
悠樹が目を留めたのは、その経営者らしき男性の少し後ろにいる人物の姿だった。
「これって……文礼……だ……」
漣のアメリカでの知人だという文礼。
悠樹は三度ほど彼に会う機会があった。
しかし、最後に会った日の後で、文礼は日本を離れたはずだった。
はずだった……というのは、悠樹の記憶がほとんど役に立たないほどあやふやだったからだ。
漣との約束を破って文礼についていき、悠樹はそのまま気分が悪くなって意識を失った。
次に目が覚めたときは、もうこのマンションに戻ってきていたのだ。
その後は熱がなかなか下がらず、その日の記憶は曖昧なままだった。
今もそのときのことは、はっきりと思い出すことは出来ない。
彼がいったい何者なのか、そして漣とどういう関係にあったのか。
結局何も解らないままだった。
文礼の姿が映ったのは本当に数秒程度のことで、もうニュースは次の話題に移っている。
何となく気乗りしなくて、悠樹はニュースを消した。
あの日自分は、なぜ漣との約束を破って文礼についていってしまったのだろう……。
そのことすらも、こうだったかもしれない、ああだったかもしれないと記憶はいろんな仮定を呼び起こす。
思い出そうとすると、頭に靄がかかったみたいに記憶があやふやになってしまう。
「まぁ……いいか……もう会わないだろうし……」
そう呟いて、悠樹は再びノートパソコンに目を落とし、まったくはかどる気配のないレポートの続きを始めた。



その日、漣がマンションに戻ってきたのは、日付が変わってからのことだった。
いつもなら出迎えに来るはずの悠樹が来ないので、リビングをのぞいて見ると、悠樹はノートパソコンを広げたまま、ソファの上でうたた寝をしてしまっている。
「風邪ひくぞ……」
そう言って体を軽く揺すってみたが、起きそうな気配はなかった。
昨夜も遅くまで体を交えていたから、疲れが出てしまったのかもしれない。
そう思って、漣は悠樹の体をそっと抱き上げ、ベッドルームに運んだ。
布団をかぶせてから、軽く唇を重ねる。
その瞬間、悠樹は少し息苦しそうに喘いだ。
漣は息を詰めるような思いで、悠樹の顔を見つめる。
こういう状態のとき、いつも不安になる。
悠樹があのことを思い出してしまったりしないかと。
文礼の一軒があってから、漣の中では悠樹を失いたくない気持ちがいっそう強まっていた。
本当なら大学にだってもう行かせたくはなかった。
またトラブルが起こらないとも限らないからだ。
おそらく、仕事場にまで連れて行き、常に目に見える場所に置いておかないと、漣の不安は消えることがないだろう。
文礼の復讐は終わったかのようにも見えるが、一方でまだ彼がまた何かを仕掛けてこないとも限らないとも思っていた。
漣は文礼が目論んだとおり、悠樹を抱くたびに彼のことを思い出し、息苦しさに襲われる。
けれども、それと悠樹を思う気持ちとは別で、だからこそよりいっそうあの件があって依頼、悠樹の体を執拗に求めるようになっていた。
胸をかきむしりたくなるような苦しみを感じる一方で、涙を流したいほどの幸せも同時に感じながら、漣は悠樹の体内に入り込んでいた。
天国と地獄の両方を一度に味わうというのは、こういう気分だろうかと思う。
文礼の復讐は未だに漣の中で続いていたし、それはきっと終わることはないのだろう。
問題は、文礼自身があの件で決着がついたとお思っているかどうかだった。
異常なほどに悠樹に執着したことを考えると、漣は不安を捨て去ることが出来なかった。
「ん……」
気がつくと、悠樹が薄く目を開けていた。
「あ……俺……寝ちゃってた……?」
「ああ、そのまま寝てていいぞ」
「日付が変わる前までは頑張って起きてたんだけどなぁ……」
そう言いながら眠そうに目を擦る悠樹の頭を、漣は撫でてやる。
昔から悠樹はこうして頭を撫でられるのが好きで、それは今もあまり変わっていないようだった。
まるで猫が毛並みを撫でられて喜ぶように、おとなしくされるがままになっていた。
「あ……そうだ、漣兄さん」
「うん?」
「今度の休みって……暇?」
悠樹が上目遣いにそう聞いてくるので、漣は頭の中でスケジュール帳をめくりながら頷いた。
考えてみれば、ここ2週間ほどはまともな休みがなかった気がする。
そんな時、悠樹は大学の友人の淳平などと会ったりしていたようだが。
「土曜は仕事だが……日曜は特に予定は入ってないな」
そう言ったとたん、悠樹の表情がパッと明るくなった。
「じゃあ、料理を教えて!」
「料理?」
「うん。たまにはさ、まともな料理を作って待ってるのもいいかなぁって思って」
「よし、教えてやろう」
漣の言葉に、悠樹はますます目を輝かせる。
「やった! でも、できるだけ簡単なやつじゃないと駄目だよ?」
「それは解ってる」
漣が迷わずそう答えたので、悠樹はむくれた。
悠樹の料理の腕前は、恐ろしいほどにレベルが低く、普通なら無難な味になっても良さそうなものでさえ、不味く作ることができてしまうという特技を持っていた。
「酷いな。そんなに即答しなくてもいいのに!」
「ちゃんとお前でも作れるようなのを教えてやる」
「うん、せっかく教えてもらっても、作れないと意味がないしね」
自分のレベルを正確に理解しているところがいかにも悠樹らしくて、漣の顔に思わず笑みがこぼれた。



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EDIT [2011/07/11 07:07] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/11 22:43] EDIT
>シークレットさん

コメントありがとうございます!

ドキドキしますよね。
私もドキドキしながら書いています(笑)
漣を見ていると、惚れたほうが負けという感じがしますね。
悠樹が危険なときは別として、普段は頭が上がらないのではないかなぁなどと考えています(笑)

いつもコメントありがとうございます!
次回も気合を入れて更新していきますので、また読みに来ていただけるとうれしいです^^
[2011/07/12 07:59] EDIT
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