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「陸がいなくなった?」
 アマツには珍しく動揺の色を隠せないようだった。
「はい。宮殿のどこにもいないそうです」
「宮殿の中は隅々まで探したのだな?」
「はい。隅々まで……」
「まさか……何か異変が起きて元の世界へ戻ったということは?」
「あり得ないことではありませんが……」
 アマツとトミビコが話をしていると、広間に駆け込んでくる女の姿があった。
「あ、あの……お部屋にこんなものが……」
「これは……」
 トミビコは女が手にした紙を受け取って読むと、そのままアマツにそれを渡した。
「根の国に行く……だと?」
 そこには陸の字で、根の国に行ってくるということが書かれてあった。何もせずに諦めてしまう前に、自分に出来ることがあるなら、それをやり遂げたいと。
 ずっとアマツと一緒にいたいのだという陸の思いが素直にその文面に現れていた。
「トミビコ……陸は本当に根の国に行ったのか?」
「分かりません。でも……根の国へは陸さまの力では行けないと思います。もう少し高天原の中を探してみたほうが良いのではないでしょうか?」
 トミビコがそう提案したとき、また新たな使者が広間に駆け込んできた。
「も、申し上げます! 中津国のアハシマさまがお姿を消されたと……!」
「アハシマが……?」
 アマツは顔を曇らせる。アハシマのことをアマツはずっと気にかけていた。陸のことも心配だろうが、アハシマのことも気になるに違いない。
「アマツさま……とりあえずアハシマさまのことは私が少し調べてみます。アマツさまは陸さまを……」
「そうだな……すまないが頼む。何かがわかればすぐに知らせてくれ」
 そう言ったかと思うと、アマツは広間を飛び出していった。
「アマツさま……申し訳ありません……」
 アマツの出ていったほうに向かい、トミビコは頭を下げる。根の国に行ってしまった陸のことは、トミビコにはもうどうしようもなかった。きっと陸はほどなくヒルコたちに捕らえられるだろう。その前に根の国で命を落とす可能性もあるかもしれない。
「…………」
 陸が二度と戻ってこなければ良いのに……そう思う気持ちも確かにあるが、奇跡的にヒルコたちの手から逃れ、何とか無事に戻ってきて欲しい……そういう気持ちもトミビコの中に存在した。
 自分で自分の気持ちがコントロールできない。いったいどうしたいのか、どうなって欲しいのか。心がふたつに割れてしまいそうだった。
 出来れば何かの拍子に陸が元の世界に戻ってくれるのがトミビコにとっては最良の結果なのかもしれない。
 けれどもいったんヒルコに目をつけられてしまった以上、陸がそれから逃れるのは難しい話だろう。
 しかし、本当にあの時のアハシマは本当にアハシマだったのだ。
 ヒルコとアハシマは、いったい陸をどうするつもりなのだろう……。
 トミビコはアハシマのあの時の姿を思い起こし、背筋がぞくりと冷えるのを感じた。



「はー……本当に心臓に悪いな……」
 周りに聞こえないように、陸はつぶやいた。
 それほどここの住人から話しかけられる機会は少ないだろうと考えていたのだが。
 けっこうな頻度で話しかけられる。
 手順通りに二度は見当違いのことを言い、三度目にその答えを言うと、今度は住人たちは話が止まらない。見た目からは想像もつかないことだが、話し好きの住人たちが多いようなのだ。その話に適当に相槌を打ち、適当に切り上げて陸はまた先へと進む。そんなことを繰り返しているうちに時間が無駄に過ぎてしまう。
「これ……岩や崖より住人のほうがネックかも……」
 陸は住人の話を切り上げると、ともかく早足で先へ進んだ。足元が悪いとか、足場が悪くてこわいとかそんなことは言ってられない。
 住人の姿が見えなくなったので、陸は改めて地図を確認してみる。
 この世界にはどうやら太陽が昇ることがないらしいので、ずっと薄暗い月明かりのみだ。しかもどことなくその明かりは赤みがかっていて、高天原や陸の住む世界の月の光とは質が違うようだった。
「まだ先は長いや……本当に無事にたどり着けるかな……」
 トミビコは難しくはないと言っていたけれど、この調子で住人に話しかけられ続けたら、いつかボロを出してしまいそうだ。
 何しろ話をするのに目を合わせてはいけないというのも、これもけっこう大変だ。うっかりすると目を合わせてしまいそうになり、慌ててそらしたりしたことが何度もあった。
「とにかく三日以内に戻らないとだし……」
 陸が歩き出したその時、背後に人の気配を感じた。
「もし~、そこの人~。この辺りで人間を見かけたという噂を聞いたんじゃが、本当かのう?」
 その質問に陸は思わずドキっとした。
(ま、まさか俺のことがバレて……? い、いやそうと決まったわけじゃないし、落ち着いて対処しないと……)
 目を合わさないように気をつけながら振り返ると、そこには年老いた声なのに若い子鬼が立っている。陸は落ち着いて、これまでも繰り返してきたようにその会話をかわす言葉を考えた。
「明日はお祭りがあるらしいよ。さっき誰かが言ってた」
「この辺りで人間を見かけたという噂を聞いたんじゃが、本当かのう~?」
 聞けば聞くほどに不気味な声だった。これまでも決して気持ちの良い声をした住人に会ったことはなかったのだが、陸は自分が疑われているのではないかという気持ちもあって、目の前の子鬼が恐ろしかった。
「そ、そういえば……さっきあの池で誰かが溺れたって言ってたなぁ……」
 かわすための話の内容は、これまでに他の住人から聞きかじってきた話題をネタにしている。
「この辺りで人間を見かけたという噂を聞いたんじゃが、本当かのう~?」
 これで三度目だ。ようやく問いに対する答えを言うことが出来る。陸は少し安堵しながら当たり障りのない答えを言う。
「さあ、見かけなかったけど。この辺りにはいないんじゃないの?」
「本当かのう~?」
「本当、本当。じゃ、俺急ぐからもう行くね」
 話の流れが危険な気がしたので、陸は早めに話を切り上げた。
「待ちな」
 先ほどまでの老人のような声が変わり、気の強い少年のような声が背後から飛んでくる。ここの住人の言葉は無視してはいけないのだとトミビコは言っていた。危険を感じながらも陸は立ち止まり、振り返った。
「な、何? 俺急いでるんだけど……」
「竪琴が目当てか?」
「な、何言ってるんだよ……俺は行かなきゃいけない場所があるんだ。じゃあ……」
(な、なんでこいつ、竪琴のことを知ってるんだ?)
 陸は心臓が早鐘を打つのを感じたが、表面的にはあくまでも冷静を装い続ける。
「それか……まだ何か話でもあるの?」
「お前は嘘をついている」
「ついてないッ……しつこいな、もう!」
 ここで怒ったりするのが逆効果になるかもしれないと思いつつも、陸はこの場を早く離れることを優先させようと思った。だが、目の前の子鬼の姿をした者は、これまでの住人とは雰囲気も何もかもが違う。
(いったいこいつ……何者なんだ? 他のやつらは三回目からは普通に愛想よく話をしてくれたのに……)
「じゃあ、俺本当にいくからッ……!!」
 もう声をかけるなという雰囲気を強く押し出し、陸は子鬼に背を向ける。しかし次の瞬間、陸は腕を掴まれた。その手は子鬼のものではなく、成人した男のものに変わっていた。
「な、なに……?」
 身長も、子鬼とは違い、陸が見上げなければならないほど高く変化している。
「待てと言ったはずだ」
「な……は、離せよッ……く……ッ……!!」
 掴まれた腕を振りほどこうとしても、恐ろしいほどの力で振りほどくことが出来ない。
 気がつくと陸は男の顔を見ていた。子鬼などではない。この世界の住人ではない。普通の人間の顔をしている。陸と同じように薬を使って変身していたのだろうか。
「俺の目を見ろ」
 その言葉に陸は反応してしまい、男の目を見てしまった。
「あ……」
 その瞬間、陸は周りの景色が遠のくのを感じた。実際には周りの景色が遠のいたのではなく、陸の意識がなくなったのだった。




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EDIT [2012/10/25 08:08] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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