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「あ、あのさ、トミビコ……根の国に行って戻ってくるには時間がかかる?」
 陸は思い切って聞いてみた。
「そうですね……順調に行けば三日ほどだと思います」
「アマツに内緒で……行きたいんだけど。駄目かな?」
 上目遣いに陸が問いかけると、トミビコはやはり困ったような顔をする。
「アマツさまに内緒で……ですか?」
「うん。駄目かな?」
「でも、アマツさまはきっとご心配されると思いますけど……」
「だ、だよな……」
 トミビコはいろいろと話してはくれたけど、やはりアマツの許可なしに行くのは反対するのだろう。そう思って次の作戦を考えてみようと陸は思ったのだが。
「そうですね……もし行くのなら、今夜が良いと思います。アマツさまは絶対に許可しないでしょうから……」
「え? いいの?」
「はい……陸さまのお気持ちもとてもよく分かりますし。アマツさまには申し訳ないですが、この方法以外に陸さまをこの世界につなぎ止めておく方法がないのです」
「そうだよな。うん、じゃあ俺ちょっと行ってくるよ」
「はい。実を言いますと、ひょっとしたら陸さまはそう仰るのではないかと思っていました」
「あ……でも、トミビコが怒られたりしないかな?」
「多少は怒られるでしょうけど……でも、大丈夫です」
「いちおう書き置きみたいなのを書いておこうかな。俺が勝手に行ったことにすればいいよ。トミビコは今日は部屋に来なかったことにして」
「そうですね……そうしていただけると、私も少し安心です。でも、お帰りになられたら叱られるのは陸さまですよ?」
「うん、それは仕方がないよ。だって、俺が行きたくてワガママを言って行くんだから。でも俺……やっぱりこのまま諦めたくないんだ。何か方法があるのなら、それに賭けてみたい……」
「そのお気持ちはとてもよく分かります」
 トミビコが陸の気持ちを理解してくれていることは、陸にとってはとても心強いことだった。いろいろと不安はあるけれども、何とか頑張ろうという気持ちになってくる。
「では、準備をしてきます。陸さまはアマツさまへのお手紙を書いておいてくださいね」
「うん、分かった」



 トミビコに道順を記した地図をもらい、手順とを教えてもらうと、陸はそっと宮殿を抜け出した。急いで出るようにとトミビコから言われたからだ。
 書き置きの手紙には、自分ひとりの考えで勝手に根の国を探しに行くと書いておいたので、トミビコが責められる可能性は少ないだろう。その代わりに戻った時には陸がアマツに叱られてしまうだろうけれども。
 夜明け前の道は街灯もないのに、それほど暗くはなかった。きっと空に明るい月が浮かんでいるせいだろう。
 地図を改めて見てみると、本当に道のりは単純だった。
 陸の住んでいた世界のように込み入った道や交差点もないので、これで迷うほうが難しいというものだろう。
 夜明け前には根の国に続く入口にたどり着く。
 夜が明けてしまい、アマツが陸のことを探し始めたら連れ戻されてしまう可能性があるとトミビコは言っていた。
「急がないと……」
 夜明けまではまだ時間はありそうだったが、陸は足を速めた。
 やがて地図に印のついている場所にたどり着く。
「あの木がこれで……あの岩がこれで……じゃあ、ここを左に曲がればいいんだな……」
 そこは唯一の分岐点だった。そこを曲がればもうあとは真っ直ぐに進んでいくだけだ。
 陸は地図を確認しながら進んでいく。その周囲の風景も、トミビコが地図に書いてくれた通りだったので間違いないようだ。
 小一時間ほど真っ直ぐに歩き続けると、やがて洞窟の入口のような場所が見えた。
「あそこかな……」
 陸はちょっと緊張する。
 その洞窟は普段は神殿として利用されているのだけれど、その奥に根の国への入口があるのだという。ただし、この高天原に住む人たちは根の国へ行くことは出来ないらしい。
 この神殿は高天原の人たちにとっては作物の実りや健康、無事などに対する感謝を伝えるための場所なのだという。日が昇ると同時に、その日一日のことを祈願するために多くの人が訪れるらしい。
 しかし、夜明けから日没までは賑やかなこの場所も、夜には無人になる。
(本当に平和な国なんだよな……)
 夜に悪いことをする者が来るなどという可能性を考えないから、見張りを置く必要がない。陸はちょっと罪悪感を覚える。まるで平和な国の決まりの裏をかくようなやり方をするのだから、この国を治めるアマツに対して何だか申し訳ない。
「ええと……まずは洞窟の中に入って……と……」
 洞窟の中には松明がともされている。なので、暗くて中が見えないということはなかった。
 そのまま奥へと歩いていくと、どうやら何かを祀っているらしい祭壇がある。供物がたくさん供えられているが、それでも夜間は人を置かないというのだから、高天原という場所は本当に豊かで平和な場所なのだろう。
(日本でいうと、コンビニを開けっ放しで夜は店員がいないみたいな状態だよな……有り得ないな……)
 陸はトミビコに教えられた通り、供えられた供物をよけ、その奥にある小さな扉を開ける。何だか罰当たりな気はしたが、仕方がない。
「あ、本当にあった……」
 その扉の中には小さな箱があり、その箱を開けると小さな錆びた鍵があった。
「これでいいのかな……」
 陸はその鍵を取り、箱を元の扉の中に戻し、避けていた供物も元の通りに戻した。
 トミビコの話では、この鍵でどこかを開けるということはないらしい。高天原の者でもなく根の国の者でもない陸ならば、この鍵を持っているだけで、根の国の入口を通過することが出来るというのだ。
 その入口は、祭壇の裏にまわると下のほうに穴のようなものがあり、そこから行くことが出来るらしい。
 陸は大きな祭壇の裏がわを覗いてみた。確かに人がかがんでようやく通れる程度の大きさの穴が開いている。
「これか……」
 その穴からは湿り気を帯びた風が流れ出していた。確かにどこかに繋がっているのだろう。
 陸は狭い祭壇と壁の隙間に体を入れ込み、窮屈なその穴に入り込む。四つん這いになって進むしかないので、その状態でどんどん先へと進んでいった。
 やがて穴は少しずつ大きくなっていく。四つん這いで進まなくても良いぐらいに大きくなって、陸は立ち上がった。まだ少しかがんで歩かないといけないぐらいに天井は低いが、四つん這いよりはだいぶ楽だ。
「あ……出口っぽいな……」
 ぽっかりと闇のような穴が先に見え、それが出口だと何となく分かる。穴を必死に進むことだけを考えてきた陸は、少し緊張した。
 根の国……いったいどんな世界なのだろう。そこで陸は死者のふりをしなければいけない。トミビコにどうすれば良いのかは聞いてきたけれど、絶対にしてはいけないことや、言ってはいけない言葉などがいくつもあり、ともかく出来るだけ根の国の者と接触しないことを願うばかりだった。
 やがて本当に洞窟のような穴は終わり、外へ出た。
「暗い……」
 そこはとても薄暗く、不気味だった。おまけに吹いている風がどことなく湿っているようだ。
「根の国……に来たのかな……」
 どう考えても高天原とはまるで雰囲気が違う。陸が住む世界とも違う。強いてうなら、遊園地などにあるお化け屋敷がそれに近いかもしれない。まだこの国の住人の姿は見えないが、雰囲気はまさにそれだった。
「よし……行こう」
 さっさと用を済ませて戻らなければ、きっとアマツも心配しているだろう。
 陸は思い切って足を踏み出した。



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EDIT [2012/10/23 08:16] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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