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「陸さまが元の世界に戻らずに済む方法……ですか……?」
 アマツの言葉にトミビコは戸惑うように問い返す。
「ああ、もしそのような方法があるなら試してみたい」
「そうですね……」
 トミビコは少し考えるように沈黙した。その間、陸は息を詰めるような気持ちでトミビコを見ていた。
 もしもどんな方法もないなどと言われてしまえば、今日や明日ということはなくても、いずれアマツとの別れが来てしまう。
 トミビコはずいぶん長い間沈黙し、何かを思案しているようだった。
 もしも方法があるとしても、かなり難しい方法なのだろうか。それとも、やはり方法じたいがないのだろうか。
「やはり無理か……」
 あまりにも長いその沈黙に、アマツが言葉をはさんだ。
「い、いえ……!」
「方法があるのか?」
「え、ええと……あると申しますか……あるかもしれないというか……確実ではないというか……その……」
 トミビコは何かを迷いながら言葉を発しているようだった。ひょっとしてその方法というのは、何らかのリスクを伴うものなのだろうか。
「トミビコ……もしそれが多少危険なことだったとしても、俺はやってみたい」
 陸が言うと、トミビコは何故だか目をそらした。目をそらしたまま言う。
「あ、あの……必ずしも危険……というわけではないかも……いえ、危険かもしれませんが、まだ何とも……」
 トミビコの言い方はとても微妙で、陸にはその方法がますます想像できなくなってしまう。
「いや……さすがに陸に危険を冒させるのは反対だ。多少であっても危険なのだったら、その方法は駄目だ」
「でも、もしもそれしか方法がないっていうのなら、俺は試してみたい」
「しかし……」
「何もせずに元の世界に強制送還されるぐらいなら、多少危険でもやってみたい」
 トミビコはやはり何も答えない。先ほどよりもその表情は深刻そうだった。
「トミビコ? ダメかな?」
 改めて陸が聞くと、トミビコは迷いながら言葉を吐きだした。
「い、いえ……で、では、もう少し調べてみます。それから改めてご相談させていただくということでよろしいでしょうか?」
「うん……ありがとう」
「まだお礼を言っていただくのは早いです。何も方法が見つからない可能性もありますので……」
 トミビコは重苦しい空気をまとったまま、陸たちの前から立ち去っていく。



「アハシマさま……」
 懐かしいその顔を思い浮かべながら、トミビコはため息をつく。
 アハシマはヒルコの実兄で、アマツにとっても異母兄にあたる。つまり、ヒルコもアマツの異母妹だ。二人とアマツの関係は複雑で、権力的な問題に加えて、個人の感情が絡んでさらにややこしくなっている。
 トミビコからしてみれば、アマツもアハシマも、そしてヒルコもすべて被害者に見えてしまう。
 三人が仲良く同じ世界で暮らすことだって出来るはずなのに、それを出来なくしてしまったのは、アマツの母である秋津師比売命(あきつしひめのみこと)だ。
 秋津師比売命はアマツからヒルコとアハシマを引き剥がしたばかりでなく、さらにヒルコとアハシマの兄妹さえも引き剥がしてしまった。その当時、幼かったヒルコは、自分が高天原を追い出されてしまったのはアハシマのせいだと思い込み、さらには高天原の管理を任されたアマツを逆恨みするようになった。
 トミビコは幼い頃からアマツの身の回りの世話を任され、後に訓練を受けて神官となった。その時にはアマツの面倒も見ていたが、アハシマの面倒も同時に見ていたのだ。
 アハシマはアマツに比べると体も弱く、心も決して強いとはいえなかった。何としてもアマツに高天原を渡したかった秋津師比売命は、ことあるごとにアハシマの心を巧みに攻撃するようなことをした。度重なる義母の秋津師比売命の仕打ちに、次第にアハシマは精神を病んでいった。
 まずはそれを理由に高天原の住人として相応しくないとして秋津師比売命はアハシマを追放してしまったのだ。
 アハシマは中津国にあるオノコロ島に軟禁され、今も廃人同様の生活を送っている。
 一方のヒルコが高天原を追放されたのは、それから数年後のことだった。
 心が壊れてしまったアハシマの実妹であるという理由だけで、ヒルコは高天原を追放されたのだ。アハシマを逆恨みしたくなるのも無理はないだろう。
 実際の事情は、ヒルコが誰かと結ばれ、子を成してしまうことを防ぐために秋津師比売命はまだヒルコが幼いうちに追放してしまったのだ。
 ヒルコも始めはオノコロ島に住居を与えられたが、いつの間にかそこを出奔し、現在は根の国の庇護を受け、そこに身を寄せている。
 根の国の住人にとっては、元高天原の住人であるというだけで、何か加護があるような気になるらしい。根の国の住人たちは見た目は恐ろしいが中身は驚く程に純粋で、疑うことを知らないものが多く、少し言葉巧みに誘えば乗ってくるようなところがある。
 ヒルコ自身、まだ少女の身でありながらその愛らしい容姿と巧みな話術で根の国の住人たちを虜にし、今では思うがままに動かしているのだった。
 トミビコはヒルコのことも気になっていたが、アハシマのことが特に気がかりだった。それはアマツが常にアハシマのことを気にかけているということもあったかもしれない。
 母である秋津師比売命からアマツはできる限りアハシマをかばい続けた。時には母を諌めることさえあったのだが、秋津師比売命は巧みにそれをかわした。そして、着々とアハシマを追放するための準備を進めていたのだ。
 アマツは今でもアハシマとヒルコのことを気にかけている。守ってやることが出来なかったことを後悔しているだろう。
 アマツの思いはトミビコの思いでもあった。そうやって思いを共有することで、トミビコはアマツのもっとも近い場所にいると思い込みたかったのかもしれない。
 いつかアマツとアハシマを再会させてやることが出来たなら……トミビコはそう考えるようになっていた。
 トミビコはある日、禁を破って中津国のオノコロ島へ行き、アハシマとの再会を果たしたのだ。
 トミビコには空間を超えて世界を行き来するという特殊な力があり、その身は高天原に置いたまま、中身だけを別の世界に移動させることができる。
 再会したアハシマは自分の意思で何かをすることは出来ず、何をするにも世話をする周りの者たちの手を借りねばならないほどに弱りきっていた。
 ただ、トミビコのことは理解できるようだった。
 オノコロ島に軟禁されてから数年ぶりに、アハシマは笑顔を見せたのだという。周りの者たちも驚き、そして喜んでくれた。
 しかし、何度か通い続けているうちに、ヒルコにその現場を見つかってしまった。ヒルコはたびたび、イヤガラセのために兄のもとを訪れていたのだった。
 ヒルコはトミビコを脅した。いうことを聞かなければ、禁を破って中津国に来ていること、さらにはアハシマに会っていることを秋津師比売命にばらすと。
 トミビコはヒルコの命令に逆らうことが出来なくなった。
 トミビコはヒルコに、二度とアハシマを傷つけるようなことをしないという約束と引き換えに、ヒルコの言うとおりに動くようになったのだった。



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EDIT [2012/10/20 08:06] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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