2ntブログ
2024/04:- 1 2 3 4 5 67 8 9 10 11 12 1314 15 16 17 18 19 2021 22 23 24 25 26 2728 29 30 - - - -

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

EDIT [--/--/-- --:--] スポンサー広告 コメント(-)

漣との別れは、とても後味の悪いものになった。
その夜はお互いにほとんど口も聞かずに別荘に帰り、翌日は悠樹たちよりも早く漣は別荘を後にした。
その漣から、唐突に連絡が来たのは、5年前の話だった。
連絡とはいっても、メールが届いただけなのだが。
漣は20歳で大学を卒業し、今は大学院に通っているという報告と、悠樹の中学入学を祝う言葉を綴ったものだった。
悠樹はさんざん悩んだ末に、そのメールには返信をしなかった。
だから、悠樹が漣と話したのは、あの夏の軽井沢がやはり最後なのだった。
その後まもなく、漣の両親は離婚し、悠樹と漣は元従兄弟という関係になった。
風の便りに、漣は大学院の在学中にIT関連の企業を立ち上げ、それが成功してとてつもない金持ちになったということを聞いた。
父親はその漣の財力に頼ろうとしているのだった。
もはや従兄弟でもない漣を頼らなければならないほど、父親の事業はひっ迫しているということだった。
もしも、漣が融資を拒めばどうなるのだろう……。
会社はきっと倒産するのだろう。
自分たちの生活も一変するに違いない。
悠樹はリビングのソファに腰掛ける父親に目を向ける。
何だかこの一ヶ月で、とても小さくなった気がする。
いや……年老いたといったほうがいいのか。
常に企業のトップにあり続け、自信と威厳に満ちた父の姿はどこにもなかった。
恵まれた暮らしをさせてもらったと思う。
エスカレーター式の有名私立校に通い、この春には大学にも合格した。
大学をやめて働くのも悪くはないかもしれない……そんな考えがふとよぎった。
けれども、大学をやめて悠樹が働いたところで、会社が抱えた巨額の負債を返すことなど不可能だ。
家族総出で働いたとしても、無理だろう。
いったいどうすればいいのだろう。
父親が途方にくれているように、悠樹も途方に暮れたような気分になった。
悠樹はリビングには入らず、そっと自分の部屋に向かう。
音を立てないようにして階段をのぼり、南側にある自分の部屋の扉を開けた。
いつもと変わらない自分の部屋を見回して、悠樹は机の上のパソコンに目を留めた。
今もまだアドレスは変わっていないのだろうか。
あの夏の日の出来事は、きっと漣の些細な悪戯だったのだろう。
もうそんなことにこだわるほど、自分も子供じゃない。
連絡を取ってみようか、漣に。
父親が頭を下げるのだ。
自分だって下げるべきかもしれない。
それが悠樹にできるただひとつのことのように思えた。
悠樹はパソコンを立ち上げ、メールアドレスの中から一度もまだ送信したことのないアドレスをクリックする。
いざメールを書き始めると、なかなか大変だった。
まずは5年前に返事を書かなかったことへの詫びから始まり、自分の近況を綴り、父親の事業のことを解っている限り綴り、何とか融資をお願いできないだろうかというような意味合いのことを書いた。
メールは一見しただけでげっそりするような長文になってしまった。
「電話番号も書いておいたほうがいいか……」
急を要する用件だけに、悠樹はちょっと迷ったけど自分の携帯番号を最後に記しておいた。
「これでいいか……漣兄さん、アドレス変わってないといいんだけど……」
それが一番不安だ、と思いながら、メールを送信した。



メールの返事は30分後、メールではなく悠樹の携帯にかかってきた。
見知らぬ携帯電話からの受信。
悠樹はそれが漣からではないかと直感し、電話をとった。
「もしもし……」
「あぁ……悠樹か……」
「うん……漣……兄さん……?」
「ああ、久しぶりだな……」
「うん……10年ぶり……ぐらい?」
「もうそんなになるのか……」
漣の声は懐かしいような……それで何となく見知らぬ人のような、不思議な響きで悠樹の耳朶をくすぐった。
「突然……メールなんかしてごめんね。今……いろいろと大変で……」
「ああ、聞いてる」
「そっか。もう父さんに連絡は?」
「それはまだしてない」
漣の意外にもそっけない言葉に、悠樹は少し驚いた。
父親からの連絡は聞いている、だけど連絡はまだしていない。なのに、悠樹にはこうして……メールを送ってから30分後に電話をかけてきているのだ。
「融資とかって……難しい感じなのかな?」
悠樹は思い切って聞いてみた。
「そうだな……こっちでもいろいろと調査はしている。融資が可能かどうか」
「そっか……何も知らない俺が言うのも変な話だよね。出すぎたことしてごめん……」
「いや……悠樹の声が聞けて嬉しかった」
少し笑う風な漣の声に、悠樹はちょっと安心した。
「俺も、久しぶりに漣兄さんの声が聞けて嬉しかったよ」
「本当に?」
「本当だってば。嘘なんてつかないよ」
それは本当の気持ちだった。
あの軽井沢での夏にあんな別れ方をしてしまったことを、実はずっと後悔していた。
後悔はしていたけど、どうしていいか解らなかったのだ。
「明日、会えないか?」
「明日は午前中は大学だけど、午後からなら」
「午後からでいい。大学まで迎えに行く」
「う、うん……わかった」
「じゃあ、また明日」
そう言って、電話は切れた。
「明日か……」
予想もしなかった漣との再会に、悠樹は喜びとともに少しの不安や戸惑いも感じる。
あの夏の日のキスはもう忘れよう。
漣兄さんだって、きっと忘れたいに違いない。
あの夜のことだけなかったようなそぶりで、明日は会えばいいのだ。
そう自分に言い聞かせるようにして、悠樹は頷いた。



ランキングに参加しています。よろしければポチッとお願いしますm(__)m
にほんブログ村 小説ブログ BL長編小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事

EDIT [2011/06/26 13:49] Breath <1> Comment:0
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日生桔梗

Author:日生桔梗
オリジナルの18禁BL小説を書いています。

下記のランキングに参加しています。
よろしければ投票をお願いします!
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



駄文同盟

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック