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翌日、午前中の講義を終えた悠樹が大学を出ると、校門の前に懐かしい顔が立っていた。
会うのは10年ぶりだから、本当に見た目もまったく変わっていたけれど、面影はしっかり残っていた。
「漣兄さん」
見間違えるはずもなかった。
悠樹は嬉しくなって、漣のもとへと駆け寄った。
「久しぶり」
「ああ、久しぶりだな」
ダークスーツを身にまとった漣は、すっかり大人だった。
当然のことだけど、自分は学生で、漣は社会人なのだということを実感した。
「こっち」
漣は軽く手を上げる。その手に車のキーが握られていた。
「う、うん」
悠樹は慌ててその大きな背中を追いかける。
もともと上背は高いほうだったけど、10年の間にさらに背が高くなったようだった。
180センチはゆうに超えているだろう。周りの学生たちも、思わず振り返るほどの存在感だった。
その上に……もともと整っていたその顔は、さらに磨きをかけたようで、男前というには美しすぎる容姿が、周りの学生たちの目をさらに引いていた。
美しいといっても、なよなよした美しさなどではなかった。
鍛え上げられた美しさとでもいうのだろうか。世間の厳しさも何もかもを知り尽くした、そんな末の美しさという表現がふさわしい感じだった。
「この車?」
悠樹が指差した黒い外車にキーをかざすと、中のロックが開いた音がした。
「乗れよ」
「う、うん」
もともと、それほど愛想が良いほうではなかったけど、大人になって余計にそれが際立ったような気がする。
再会した瞬間はちょっと笑ってくれたけど、ぱっと見には冷たく感じられるほどに無表情で、漣が何を考えているのかを推し量ることは悠樹には難しかった。
「メシは?」
「まだ……だけど」
「じゃ、何か食うか?」
問われて悠樹は迷いながらも首を横に振った。
「ちょっとあんまり食欲なくて……」
「だからそんなに痩せてるんだな。もっと食わないと駄目だろ」
「う、うん……」
今は父親の会社のことも気になって、最低限の食事しか喉を通らない有様だった。
「親父さんの会社のことも聞きたいんだろ? 俺のマンションでゆっくり話すか?」
「あ、うん……漣兄さんがかまわないなら……」
そう……どこかの店とかよりも、漣の部屋のほうが落ち着きそうな気がした。話の内容が内容だし、食事を出されるような店に入っても、何も喉を通りそうになかったからだ。
車はほとんど振動を感じさせず、漣のマンションに向けて走り出した。



漣のマンションは都心のタワーマンションで、その最上階付近が彼の部屋だった。
いったいこの部屋の家賃はいくらするのだろう。
幼い頃から贅沢に慣れているはずの悠樹でさえ、その金額は予想がつかなかった。
悠樹の家のリビングが4つぐらいは入りそうなリビングダイニングに置かれたいかにも高級そうなソファを連は指差した。
「何か飲むもの持ってくるから、座ってろ」
「あ、う、うん……いいよ。気を使わなくて」
「いいから座ってろって。お前会ったときからずっと顔色が悪いぞ」
「ああ……ごめん……」
きっと食べてないせいだ。食事が喉を通らないから、最近の主食はもっぱら栄養ドリンクやサプリメントだった。
悠樹はおとなしくソファに腰を下ろした。少しくらりと眩暈がする。
ぐるりとリビングを見回す。壁は一方が完全にガラス張りになっていて、外の景色が見渡せる。
どこかの展望台にでも来たような感じだ。
夜は夜景が相当綺麗だろう。
こんな部屋に連は一人で住んでいるのだろうか。
「すごいね、この部屋。夜とか、夜景が綺麗じゃない?」
「まあな。どうせ帰って寝るだけの部屋だから、夜景なんて最初の頃ぐらいしか見てないけど」
「もったいない……」
思わず呟きがもれた。こんなに見晴らしがいい部屋に住んでいるのに、帰って寝るだけの部屋なんて。
キッチンのほうでジューサーを動かす音がする。ひょっとして漣がジュースをわざわざ作ってくれているのだろうか。
そんなことを考えていると、グラスをふたつもって、漣が戻ってきた。
「ほら、飲め」
「なにこれ?」
見た目は抹茶ミルクのような不思議な色の飲み物だった。
「特製のスタミナジュースだ。野菜とかいろいろ入ってるけど、飲みにくくはないから」
「あ、ありがとう……」
出してくれたものを飲まないのも悪いので、思い切って口をつけてみる。
「あ……美味しい……」
「それで少しは栄養補給しろ」
「うん……気を使わせてごめん。久しぶりに会ったのに」
何も喉を通らないと思っていたけど、漣が作ってくれたジュースは全部飲むことが出来た。野菜が入ってるなんて思えないほど美味しかったし、何より漣がわざわざ作ってくれたということが嬉しかった。
「今日は……仕事は大丈夫なの?忙しいんじゃ?」
「だいたいは片付けてきた。今日は久しぶりにお前に会うことになてったしな」
「そっか。ごめん……無理して時間作ってくれたんだ?」
「俺が会いたかったんだ。謝るなよ」
漣の言葉に心臓がドキンと跳ね上がる。思わずあの夏の日のことを思い出しそうになって、頭から大慌てでその記憶を押しやった。
「あ、ええと……すごいね。アメリカで仕事が成功して、大富豪なんだって?」
「別に……それほどすごいことでもない。明日にはどうなってるか解らないようなベンチャー企業だしな」
「そ、そっか……でも、すごいよ。何か漣兄さん、一気に大人になったみたいだ」
「お前も……大人っぽくなったな」
まじまじと顔を見つめながら言われて、悠樹は思わず赤面した。
「そ、そうかな……俺、まだ学生だし。アルバイトもしたことないし。本当に漣はすごいなって思うよ」
「悠樹はどうだった?俺に会いたかった?」
「え……」
真面目な顔でそう聞かれ、悠樹は思わず言葉に詰まってしまった。
会いたかった……そういう意識があったかどうか。自分でも解らない。
あの10年前の出来事があまりにも刺激的過ぎて、自分の中でどう消化していいか解らなかったからだ。
そして今でもきちんと消化は出来ていないと思う。
「ごめん……わからない……」
悠樹は正直にそう答えた。そう答えることで、10年前のことを引きずっているということを白状してしまったようなものだったけど。
「嫌だった?」
「え?」
「俺にキスされて、嫌だった?」
「それは……」
気がつくと、まるであの時のように漣の顔が間近にあった。
思わず後ずさりそうになる悠樹だったが、それ以上さがろうにもソファの背もたれが邪魔して下がることが出来ない。
(どうしよう……)



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EDIT [2011/06/26 15:36] Breath <1> Comment:0
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